場所:高田馬場ロイヤルホスト
登場人物
森野うさぎ(インタビュアー)
本谷としあき(答弁人)


★なぜ、グランディアの監督になったったのか。
森「じゃ、行くよ。本谷君、どうしてグランディアの監督になったの?」
本「えっ?えっ?」
森「だって本谷君は本来はアニメ屋さんでしょ。初めて会ったときもアニメーターだったしさ。
ふつうはゲームの監督さんってゲーム会社の人じゃない。誰かの推薦があったのかな。」
本「ああ、うん、ありましたよ。推薦じゃないけどね。
同じアニメ屋の北久保ってやつと、それと岡田斗司夫さん。元ガイナックスの社長の。
森野さんも知ってるよね。」
森「うんうん、あの二人ね。推薦じゃないってことは、志願したの?立候補?」
本「94年の春だったな。アニメ会社の製作の人から車を貰ってね。
森野さんも知ってるじゃない。俺って二輪の免許しか持ってなかったんだよ。」
森「ちょっとちょっと、本谷君。それって、僕の質問に関係ある話?」
本「ある。赤いトレノ。ほら、漫画のなんとかDってやつに出てたAE86ってやつ。」
森「車種はこの話に関係ある?」
本「ない。それでね、普通免許をとろうと思ったんですよ。教習所で。
で、そのとき持ってたお金を全部教習所に払い込んだわけさ。どかーんて。
35万円くらいだったな。」
森「長くなりそうだね。この話。次の質問に行こうか。」
本「そりゃないよ。ここまで話させといてさ。出来るだけ要約するから聞きなさいって。
そしたらお金がなくなった。わかるね?でも、さらにお金が必要になった。」
森「駐車場の契約と駐車場代?」
本「ピンポーン。そうそう。さすがは森野さん。
そこに北久保が登場。「おう、本谷ー、楽なバイトがあるんだけど、やるかー?」。」
森「わはははははは、似てるよ。似てる、今の言い方。」
本「そのバイトってのが「フロンティア」って言うRPGの演出の仕事。
その「フロンティア」ってのが、後の「グランディア」だったんですよ。」
森「ははは、良かった。やっとグランディアの話になったかー。
なるほどねー、じゃ、その車をもらわなかったら、グランディアとは関わらなかったわけだ。
で、その後どうなったのかな、その車。今は乗ってるの?」
本「いや、それがね、その後、その「フロンティア」が実はめちゃくちゃ忙しい仕事でね、
結局教習所に通うヒマなんか無かったんですよ。もう、全然。いやー、騙されちゃいましたねー。」
森「え、じゃ、結局免許証は取れなかったんだ。お金は戻ってきた?」
本「返してくれるわけ無いじゃないですか。車もね、半年くらいの間駐車場に停めて
おいてたんだけど、結局廃車にしちゃいました。」
森「うわー、なんか悲惨な話だなぁ。丸損な訳ね。
長かったわりには不景気な話だねぇ。この項目は編集で切ろうかな。」
本「そりゃないでしょ、森野さん。正直に話したのに。」

★グランディアのストーリーと世界観について
森「世界観とストーリーの話をしよっか。グランディアってさ、なんか世界観が独特だよね、
あの世界観の根底にあるものって何なんですか?」
本「独特ですか?そうかなぁ。サルゲッチュとかのほうが独特だと思うけど。」
森「いや、最近のストーリー型ゲーム、RPGとかアドベンチャーゲームとかの中ではって意味。」
本「グランディアの世界観が独特なんじゃなくて、他の作品の作風が偏っているだけなんだと思いますよ。
ゲームアーツから最初に提出されたプロットはFFシリーズのイメージに近いものだったんですよ。
リーンもミューレンも3人娘もみんな死んでました。ナンマンダブ。」
森「話がそれてるよ、本谷君。」
本「そうそう、世界観の根底ね。基本コンセプトは割と簡単だった。
この世界観の核となっているのは、「世界の果て」の存在ですね。
基本はガリレオの話から思いつきました。「それでも地球は回る」と言ったあの人ね。」
森「地動説の人だね。」
本「そうそう、ガリレオの世界には二種類の人々が住んでた。天動説を支持する人たちと地動説を信じる少数派。
グランディアの世界にも二種類の人が出てきますね。亜人と人間のことじゃないよ。
「世界には果てがある」と思っている人々と、「世界には果てが無い」と信じてる人々です。」
森「そこつながりかぁ」
本「「世界には果てが無い」と信じるジャスティンは旅に出る。ジャスティンがその旅で出会う人達はリエーテを除き
「世界には果てがある」と思っている人々ばかりです。ジャスティンはそう言う人達を変えていく。
そしてそれぞれが持っている世界を広げていきます。それだけのコンセプトでした。」
森「シンプルだね。作風的なイメージは?」
本「児童文学(笑)。」
森「きたな。(笑)」
本「この物語のベースにしたのは、灰谷健次郎さんの「ガリバーの船出」という本です。
「世界の果て」とジャスティンと、そして「産業の町パーム」の関係なんかは、その本を読んでなかったら、
たぶん出てこなかった。割と簡単な構造なのにね。
僕の中で物語の全体像が固まったのは「世界の果て」の設定を考えてから30分くらいの間だったように記憶しています。
「世界の果て」がキーだったんですね。あとはその世界観に、みんなでデザインや、みんなの好きなモノ、空中戦艦とか
薄幸の美少女とかを乗っけてイメージ拡張してグルグル掻き回せば、勝手に発酵してきて、ハイ出来上がり、ってな感じ。」
森「その、ガリバーってどんな話?教えてくれる?」
本「長いよ。」
森「じゃ、いいや。また今度ね。するってぇと、そこから作業が一気に進展したわけだぁ。」
本「いやいや、世界観と基本ストーリーが出来たのは早かったんだけど、ほかのメインスタッフに解ってもらうには、
そのあと1年以上かかった。いや、解ってもらえなかった(苦笑)。さっき言った業界の作風偏向性のためかもね。
結局監督になってから、片っ端から自分の手で書き、描いた。強引にそうするしかなかった。
もしゲームアーツに僕の代わりになる人がいたら、クビになってたね。人手不足で良かったよ。ははは。」

★キャラクター
森「じゃ、次の質問に行こうか。キャラクターについての質問。
主人公ジャスティンついて一言お願いしまーす。」
本「12歳の男の子。赤毛で青い目の。」
森「そういうのはグランディアをやった人ならみんな知ってるよ。
そうじゃなくって、もっと監督っぽいことを言ってくれよ。キャラクターのコンセプトとかさ。」
本「ああ、監督っぽいやつね。そういうのは得意。コンセプトね。はいはい。
えーと・・・何を言ってもいいんだよね。同人誌だし。」
森「もちろん。」
本「おっけー。まずグランディアの物語全体のコンセプトを話しておきますね。
そのほうが後の話がわかりやすいでしょうから。いいかな、森野さん。」
森「了解。」
本「「グランディア」の物語の、僕がメインターゲットとして選んだユーザ層は、
「男の子になって冒険してみたい人」。つまり実際には男の子じゃない人達、
女性一般、そして既に成人して男の子じゃなくなって久しい男性です。」
森「えー?でもさ、ゲームソフトの主な購買層って、その「男の子達」でしょ。
販売戦略として変なんじゃないの?」
本「俺は販売戦略をメインには考えないよ。それは企画や営業、そして広報の仕事だ。
俺は演出家ですからね。大事なのはプレイしたユーザがどういう評価を下すか、ということですね。
そしてとにかく演出家は出来るだけの労力と知恵を作品にぶっかける。
それ以外のことは考えない。思考が濁りますからね。」
森「本谷君らしいシンプルな意見だね。で、どうして男の子を外したのさ?」
本「俺、嫌いなんだよ、ゲームやってばかりいる男の子って。」
森「それだけかい!」
本「いひひひ。でもね、大事なんすよ。物語を贈る相手は、個人的な感覚で選んだほうが良い。
コンセプトが維持できないからね。好きでもない相手にラブレターを書き続けることは難しいでしょ。」

★ジャスティンについて
森「ジャスティンに戻ろうか。」
本「と、いうわけで、ジャスティンは、ずいぶんと作為的に作ったキャラクターです。女性向にね。
男の子の理想像ですね。まっすぐで、冒険心があって、仲間思いで、可愛くて行動的で純真。
あんなステキな男の子は、実際には居やしません。居るはずがない(笑)。ニセモノな理想像です。」
森「うんうん、たしかにね。」
本「どう考えてもジャスティンは冒険者に向いてないんです。
冒険者という人種は生まれつき、独立的で意思が固く、攻撃的で慎重で、歪んでます。
仲間と一緒に・・・なんて考え方は絶対にしない。ボーイスカウトじゃないんだからね。」
森「うっわー、決め付けるねー。」
本「そういうふうに冒険者を目指す男の子をリアルに考えていくと混乱しちゃうんで、僕は彼を女の子として
考えていましたね。男の子になりきってる女の子、みたいな。
ガンツとラップはリアルな男の子ですが、ジャスティンの存在は女の子ですね。だから男たちにモテる(笑)。
ガンツもラップもガドインもミューレンも、みんなジャスティンのことが好きになります。
そして行動をともにする。作り話の中でしか存在し得ない冒険者ですね。」
森「ああ、なるほどね。それで妙に可愛いんだ。本谷君のジャスティンって。」
本「へへへ。男の子だと思っちゃうと混乱しちゃうんですね。本当の冒険者を書いてしまう。
だからこの事を忘れないように女性名を付けた。」
森「え?ジャスティンって男の子の名前でしょ?」
本「英語のスペルはJUSTINEです。女性名です。他のスタッフには秘密にしておいたんですが、
ルーカススタジオの連中にはバレました。理由を話して、内緒にしておいてもらいましたが。(笑)
それとここだけの話なんですが、実はジャスティンとミューレンとのキスシーンというのを、プランニング
したこともあったんですよ。」
森「うわっ!マジ?やっべーな。どうしてやらなかったの?」
本「いや、俺もジャスティンのことが好きになっちゃって(笑)。」
森「あははははは(爆笑)。」
本「や、さすがにそこまでは間違ってるだろー、しっかりしろ、俺、と思ってさ。
もうやめましょう、この話(笑)。次は誰?」

★フィーナについて
森「フィーナだね。じゃ、いってみようか。」
本「はいはい、彼女に関しては、宮路武さんから特にオーダーがあったんです。
「クラブ活動の先輩、ちょっとお姉さん風を吹かせたような、すぐ隣にいるような女のコ。」というオーダーを
貰い、参考に「BOY’S BE・・(ボーイズ・ビー・・)」という漫画の単行本をお借りしました。(笑)」
森「わはははは、あれか!?「セックスしない初体験白書」みたいな。それでそれで?」
本「漫画は、まぁ、面白く読めたんですが、自分には気恥ずかしくて書けそうにもないんで、その路線はすぐに
捨ててしまいました。本も返さずに捨てちゃいました。(笑)」
森「ひっどいなー、あいかわらず。」
本「結局は、最初の出会いの時にジャスティンとのコントラストをはっきり出したかったので、職業婦人として
捕らえることにしました。ジャスティンと違ってフィーナは大人の社会で生きています。しかも才能に恵まれている。
「すぐ近くに居るんだけど、実は遠い存在」というところからスタートすることにしました。
そのほうが、恋人になったときまでの変化が作れますから。そして後半、フィーナがミューレンと一緒に行って
しまったときには、「自分に一番近い存在のはずなのに、手の届かないところに行ってしまった。」という感じに
なるように。」
森「性格設定のほうは?」
本「女の子のことはよくわかんないので、自分の知り合いの女性アニメーター達3人を合成してモデルにしました。(笑)
彼女達のことは、まぁ、他人様のプライバシーにかかわることだからここでは止めときます。また今度ね。
実在の大人をモデルにしたせいなのか、作られたキャラクターであるジャスティンに対して、フィーナの方はどことなく
ナマな感じを持ってしまいました。ナマな感じが最初でついてしまったぶん、ファンタジー的な存在としての光翼フィーナに
関しては僕の中で消化不良を起こしていますね。特にジールパドンを救うときの台詞はひどいもんです。
困るには困ったんですが、「フィーナは不治の病にかかったんだ。」と考えて自分自身で納得することにしました。
あとはもう力技で強引に。」
森「くさなぎさんの描いた初期デザインに比べて、本谷君の描いたフィーナはずいぶんと露出度が上がってるよね。
胸元は大きく開いてるし、スカートとかすごく短くなってるし。あれはなぜですか?」
本「えぇーっつ??だってそのほうがいいじゃん。カワイイしさ。絶対いいって!疑問の余地なしでしょ?」
森「次の質問いきまーす。次はスー。」

★スーについて
本「スーはかわいいですよね。僕の心のオアシスです。おわり。」
森「それだけ?」
本「そりゃそうですよ。ああいうキャラは説明しちゃいけませんよ。見たとおりのマスコットキャラクターです。」
森「それじゃ困るよ。つまんないじゃない。」
本「森野さんの守備範囲だから?」
森「はははは、いいから何か答えて。」
本「スーは描いてて一番楽しかったキャラクターですね。心情の変化に富んでますし、見た目もかわいい。
スーの可愛さや健気なところ、やさしさや、子供っぽいところ、そういう台詞を探し出すのがとても楽しかったです。
フィーナが登場してからしばらくは、作劇上、ボリュームを下げなきゃいけないのはさびしかったですね。」
森「気になってるんだけどさ、どうしてスーは途中でいなくなっちゃうの?
おれ、けっこうスーが好きだから鍛えまくったんだよ。居なくなるってわかってたら、あんなにスキルアップ
しなかったのにさぁ。」

★スーはなぜいなくなっちゃうのか
本「まぁまぁまぁ、俺だってスーにはいつまでも居て欲しかったんだよ。ほんとだよ。」
森「別れのシーンのシナリオは誰が書いたの?」
本「俺。」
森「じゃ、だめじゃん(笑)」
本「もぉ、森野さんたら、分かってるくせにぃ。システム上の理由です(笑)。
プログラムがサポートしているのは4人までのパーティキャラですから、
スーがいつまでも一緒にいると、新しい仲間は一人づつしかパーティに入れない。
それじゃぁ、パーティ特性の変化の幅が、極端に狭くなってしまいますね。
演出的には、そのシステムの上で、パーティが閉鎖的な印象になるのを避けるためでもあります。
同じメンバーでいつまでも旅を続けると、どうしても残った一人が「お客さん」になりがちです。
グランディアは「新しい仲間との出会い」の物語でもありますから、これは良いことではありませんね。
以上の理由で、スーには消えてもらわなければいけなかった。」
森「スーに謝りなさい。」
本「ごめんよ、スー。次のキャラは?」

★他のキャラでなにかありましたらどうぞ。
森「うーん・・・そうだなぁ、あのガーライル3人娘ってさ、レイアースっぽいよね。」
本「ぎくっ!」
森「やっぱり影響とかあったのかな。パターンどおりの女の子キャラが売りとして必要だったとかさ。」
本「影響も何も、あれはそのままパクったんです。ちょうど美術打ち合わせをしてたときに、セガの
RPG「レイアース」が届いてね。みんなで見たんです。いい出来でしたね。アニメよりよっぽどいい。
おれたちもこういう女の子出しちゃおうぜー、って感じでその場で決まりました。
キャラクターたちに声優さんを当てることが決まったのも、この時です。(笑)」
森「(笑)プライドも何もないわけ?きみ達には?」
本「ありませんね、少なくともそういう瑣末な部分には。」
森「ものは言いようだなぁ。本谷君が特にお気に入りのキャラはだれですか?」
本「3人娘の中で?」
森「いや、全体で。」
本「サボテンマン」
森「キャラの話題はこれで終わりにしましょう。えーと、次は・・・。」

★グランディアと宮崎アニメの匂い。
森「そうそう、レイアースの名前が出たところで、アニメの話をしよっか。
グランディアの作風に影響を与えたアニメ作品とかってあるのかな。
特に空中戦艦とかさ、全体的に宮崎アニメのテイストがのってるよね。
あれはやっぱり本谷君がアニメーターだから?」
本「空中戦艦はね、ゲームアーツさんからのオーダーなんですよ。俺がストーリーを作り始める前から、
出てくることは決まってた。ゲームアーツのディレクター達ってアニメ好きだから。ミューレンの
デザインの元ネタだって、どう考えたってシャァか銀英伝。どうも好みがね、アニメに寄っちゃう。
こと宮崎アニメに関しては、俺なんかもう、絶対にかなわないくらいフリーク(笑)」
森「はははは、そうね。「ルナ」シリーズもアニメなんだかゲームなんだかわかんないしね。」
本「そして偶然にも、俺は「未来少年コナン」の日本アニメの出身です。(笑)
アニメーターとしての部族血筋的に「コナン」の影響を受けてます、もちろん。
これはもう、演出作法的には、似ないほうがおかしいですよね(笑)。宮崎さんの絵コンテを何百回と
読んで演出的な勉強をしてましたからね。新人の頃。もう20年も前の話ですが。」
森「ははは、そういえばそうだった。本谷君の絵ってあの頃から宮崎系だもんね。」
本「まだ10代の頃でしたから、骨髄に刷り込まれちゃっててね。グランディアのボードを描いてても
どこか「コナン」に似てしまう。カメラアングルとかね。だからもう、自分の血筋に逆らわないように
しようと思って(笑)。じたばたすると、かえって制作的な時間のロスにつながりますからね。
舞台大道具としての展開は「コナン」のギガントそのままですね。最後に二つに折れて、ラップ達と
別れちゃうところなんかはもう、カンペキに(笑)。
もうこの話は止めましょう。なんか恥ずかしくなってきた。あはは。」

★リーンの元イメージは綾波か?
森「じゃ、次。(笑)
リーンのイメージはやっぱり綾波?デザイン的にもさ、髪の毛も水色だし(笑)」
本「デザインイメージに関しては違います。だいいちリーンのデザインが出来たのは、あのアニメの
放映よりもずいぶん前の話ですよ。ただ、性格設定的には多少そうかもしれません(笑)。」
森「あ、やっぱり?」
本「先に言っとくけど、森野さん、俺はエヴァンゲリオンを見たことが無かったんです。今は何本か
見せてもらったけど、それでも全部は見てない。」
森「えーっ?見てないの?アニメーターなのに?」
本「もうあの頃にはグランディアが忙しくなってて、ゲームアーツに泊り込んでましたからね。
ただね、アニメ雑誌だけはゲームアーツ社内に常にあった。ほら、アニメフリーク会社だから(笑)。」
森「あははは。」
本「そしてアニメを見なくても、他のスタッフから、綾波というキャラについての情報は入ってくる。
綾波ブームでしたからね。
なんとなくリーンといくつかのイメージ共通点を持っているような気はしました。もちろん違う部分の
ほうも多いんだけど。」
森「うんうん。」
本「あの時欲しかったのはね、スタッフ間の共通認識ですね。リーンというキャラクターに対する。」
森「と、いうと?」
本「スタッフはリーンというキャラクターのことをよく知らない。俺以外のスタッフは彼女に会ったことが
無いわけですからね。だから打ち合わせでね、俺はリーンというキャラについて、スタッフ全員に口頭で
伝えて行かなきゃならない。
この打ち合わせが、すごく時間を食うんです。みんなにとっては、まだ手探り状態ですから。
みんなまじめだから、納得するまで仕事にかかってくれない。」
森「で?」
本「だからね、「綾波みたいなキャラだよ」って言っちゃうんです。「綾波で行け」ってね。
これだと早い。(笑)」
森「(笑)乱暴な話だなぁ、本谷君は「エヴァ」を見たことがなかったんでしょ?
その後に出来上がってくるものって、完全にパクリ綾波になっちゃうじゃない。」
本「いや、完全なパクリなんか出来るわけはない。アニメのシナリオはね、特に人気作品の
ものはね、それなりにレベルが高いんです。あの時のライターさんレベルじゃ再現できません。
パクって作れるようなものだったら、いまごろゲーム界やアニメ界に宮崎駿や押井守レベルの
人がごろごろと転がってますよ。」
森「そりゃそうか(笑)。
でも、それはそれで困るんじゃないの。中途半端なニセモノができてくるでしょ。」
本「関係ないんです。フェイスの原画は俺のほうで作ってるし、台詞も俺が片っ端から
書き直しちゃうわけですからね。監督ってのは最終チェックする立場にいますから。
ようするに、下書きレベルのものが早く大量に生産されることのほうが大事だった。」
森「ここでも時間が、重要なファクターな訳ね。工場生産みたいだね。(笑)」
本「ただ、その下書きレベルのものさえ、ぎりぎりまで上がってこなかった。
時間的な問題から、実際にチェックから漏れてしまった部分もいくつか残っています。
そこは、ニセ綾波(笑)。すいません。」

★エンディングって、「ナディア」に似てない?
森「(笑)次に行きましょう。
エンディングに関してさ、「不思議の海のナディア」に似てるって言う人がけっこういるけど。
それに関しては?」
本「そりゃ、偶然でしょうね。いや、ほんと。俺自身はナディアを見たことが無いんです。
放映当時を含む1年あまり、俺はカナダに住んでたからね。日本のTVアニメは見れません。」
森「何にもみてないね、君は。アニメーター失格なんじゃないの?(笑)
日本に帰ってきてからも見てないの?ビデオとかでさ。あれ、いいよ。」
本「だって、長そうじゃないですか、シリーズだから20本以上あるんでしょ?
ビデオにしても10巻位はありそうじゃないですか。そんなに何回もビデオ屋さんにマメに足を
運ぶとは思えないなぁ、俺自身が。無理無理。」
森「相変わらず不精だね。君は(笑)。」
本「なんかさ、さっきから意地悪っぽい質問が続いてない?(笑)」
森「ばれたか。(笑い)
じゃ、話題を変えましょー。」

★ゲームを作る上での苦労話を教えて下さい。
森「ここから、質問の傾向がかわりまーす。ゲームを作る上での苦労話を教えて下さい。」
本「苦労話ってないんですよ。面白い話やひどい話とか、悲惨な話ならたくさんあるんですが。」
森「でも、ずーっと泊り込んでたでしょ。3年だっけ?ゲームアーツに。」
本「監督っての根っからの戦争屋です。過酷な状況が来ても、それ自体をどこか楽しんでるとこがあります。
それじゃ苦労話とは言えませんよねぇ。そのうえ立場は指揮官ですから、実際にも苦労なんかしてないですよ。
じたばたしてるだけですね。苦労話が多い指揮官ってのは、きっとひどく手際が悪いんだよ。きっと。」
森「本谷君の手際は良かったの?」
本「それはひみつです。(笑)
機会があったら、俺のやり方に巻き込まれてしまった他のスタッフ達に聞いてみてください。
特に最後の半年は大戦争でしたので、俺の知らないところにも、きっと苦労話が山盛りあったでしょうね。」

★監督自身が目指した物とゲームの出来は同じでしたか?
森「じゃ、戦争屋の本谷君に質問。本谷君自身が目指した物とゲームの出来は同じでしたか?」
本「ええっ、自己採点ですかぁ?ううーん。もちろん方向性は同じでしたが・・・・。
そのクオリティに不満が残っていますね。もっともっと高いレベルまで持っていけたはずだと思います。
演出的なクオリティからいえば100点満点での40点くらいでしょうか。CD2枚目の台詞はところどころひどいものが
混じってるし、フェイスの使い方なんかは、ひどいもんです。音楽のバリエーションも偏りすぎだね。
それでもぎりぎり落第点を付けないのは、ストーリー方面の作者としての親心と欲目なんだろうなぁ。たぶん。」
森「うわー、何にしても辛い点数だな。ちなみにさ、FFのZは何点くらい?演出的に」
本「5点くらいかな。途中で投げちゃったし、俺。」
森「はいはいはい(苦笑)」
本「ただ、SS版グランディアのグラフィックとゲームシステムに関してだけいえば80点はあげたいなぁ。
特に戦闘エフェクトの数々は面白くて気に入ってます。手作り感覚があっていいですよね。グランディアっぽい。
PS版の戦闘時のエフェクトは面白くなかったですね。何で変更しちゃったんだろう。システムの問題なんでしょうね。」

★ゲーム全般に言えるのですが、ゲームバランスが大事と思うのですが
森「えーと、次は・・ゲーム全般に言えるのですが、ゲームバランスが大事と思うのですが。」
本「な、(笑)唐突だな。どう言う意味?グランディアのバランスのこと?全般?(笑)」
森「いやいや、そうじゃなくて、どう言う意味だったかな。ははは自分でメモってて忘れちゃった(笑)。
まぁ、いいや、なんか答えて。ゲームバランス。なんだっていいよ。」
本「いいかげんだなぁ。うーん。(ちょっと考えこんで)やっぱ止めとこうよ。この話は。
そういうことは、ゲームデザイナーさんかプログラマーさんに聞いた方がいいよ。
俺のゲームバランス論は、グラディウスあたりで止まっちゃってるからね、たぶん。(笑)
言うのが恥ずかしいよ。わかんないです。おわり。次にいってください。」

★最終ボスについて
森「ほいほい、これだな。僕の知り合いにね、あの最終ボスが弱すぎるって言う意見が多かったんですが。
おっと、これもゲームバランスの話になっちゃうな。やめとこうか?」
本「あははは、それはバランスの問題じゃないんです。ありゃあ、置き間違えたんですよ。
最終プロットで「最終的なガイアの本体は、グラディウスの最終ボスみたいな存在で、一発斬ればゲームクリア」と
記述していたんですが、ゲーム組込の人が勘違いして、最終ボスを弱くしちゃったんですね。」
森「どうして?それならプロットのとおりじゃない。どこが勘違いなの?」
本「わかんないかなぁ、プロットにある「最終的なガイアの本体」とは精霊石のことだったんですよ。」
森「あっ・・、ああ!そっかそっか。そうだよ!なるほどね。ええーっ?それだけの理由?」、
本「そのときの会話はこんな感じです。
組み込みの人が「本谷さん、本谷さんの言うとおりに、デスピサロを弱くしておきました。もうこれでバッチリです!!」
あ、デスピサロってのは開発中にスタッフが最終ボスにつけてたの名前です。
で、俺「おい、違うよ、○○さん、無抵抗なのは精霊石!なんでデスピサロが弱いのよ???すぐにやり直し!」
組み込みの人「え・・・!(表情が固まる)・・・・もうバランスとってマスター納品しちゃいました!!・・・」
・・・というわけです。時すでに遅し。もう、直せませんでした。PS版ではどうなったか知りませんが。」
森「うっわーーー、つっまんねぇ理由だねぇー。ははははは、ほんとなの?」
本「(笑)つまんないったって、笑ってるじゃないですか森野さん。
情けない話ですが、それが真相。オフィシャルな場所にはとても発表できないですね。
ユーザーの皆様、大変申し訳ありませんでした。ありゃ俺の責任ですね。打ち合わせミス。」

★ことグランディアについては途中、本編には関係ないようなイベントありますが
  あれはどうして?
森「ははは、次行こう。
ことグランディアについては途中、本編には関係ないようなイベントありますがあれはどうして?
これもつまんない理由?」
本「うん。理由そのものはつまんない。あれはですね、最終的な追い込みにむけてデモ削減プランを立てたとき、
俺がメインストーリー上から削除した舞台を使ったものですね。もうそのときは、舞台そのものは出来てたんですが、
デモを作る時間が無い。本来は完全に抹殺しようと思ってたんですが、みんなに反対されましてね。
舞台を作ったゲーム班のほうとしては、捨てるのがとても惜しかったんですね。」
森「そりゃそうだ。」
本「マップの出来自体も非常に良かったしね。で、彼らが適当なイベントをいれてゲームにした。
俺的にはちょっと往生際が悪いんじゃないかと思ったけども、彼らのほうが正しかったですね。
単純におまけとして楽しめました。」
森「資源は大切に、ってか。リサイクルだね。(笑)」
本「最初のプランでは、「蜃気楼の古城」いや、「夢幻の城」だったかな。あそこでは、ジャスティンとフィーナの
ダンスシーンをデモとしてやる予定だったんですよ。時間的にアニメーションの作画が不可能になってしまったことが、
削除の理由です。描きたかったね、やっぱり。」

★グランディア2が進められてますがあれには関係しますか?
森「次。グランディア2が進められてますがあれには関係しますか?」
本「しません。SS版グランディアに奪われた時間が長すぎましたからね。
これからはそのぶん、アニメを集中して作りたいですね。
ゲームやパソコンのことは、なにかひとつ終わらせてから考えてみます。
でも、応援はしてますよ。心から。同時に心配もしてますが。」

★最後にグランディアを終わらせての感想。
森「じゃ最後。グランディアを終わらせての感想を聞かせてください。」
本「良い作品でしたね。さすがは俺。」
森「自分で言うかな、ふつう。(笑)」

★お手数ですがいままでやられた作品を教えて下さい。
森「お手数ですがいままでやられた作品を教えて下さい。」
本「え?さっきのが最後じゃなかったの?」
森「ごめんごめん、今度こそ最後。」
本「んー、ゲームだと・・・
「サンサーラ・ナーガ(初代ファミコンのRPG)」ドット打ち。グラフィッカーとも言うね。
「機動警察パトレイバー(メガドラ)」レイアウト。ようするに背景原図。ドット打ちよりは出世したかな?
「電脳学園(MSX2)」メインプログラマー。ガイナックスの製作とけんかして後半降りちゃった。」
森「アニメのほうは?」
本「これは多いから、じゃ、映画だけね。
「オネアミスの翼」原画。ちょっとだけしかやってない。プロデューサーとけんかしてすぐに辞めた。
パイロットフィルムの時の方が、カット数が多いくらいだ。ガイナックスと相性が悪いな、俺。
Gが頭文字の会社とはけんかばっかりしてるな。ガイナックスとかゲームアーツとか。」
森「今いるGONZOは?あれもGじゃない。(笑)」
本「あ、やめよう、この話。(笑)
えーと他には、「AKIRA」原画。なんか煙と爆発ばっかり描いてたね。それなりに大変だった。
「老人Z」演出・絵コンテ。バカバカしい話で好きですね、こういうの。この仕事で人手不足との戦い方を覚えたかも。
「スレイヤーズ」劇場版。原画。印象に残らない仕事だったね。テレビアニメみたいだった。
これくらいですかね。もういいですか?」
森「おつかれさまでした。これで今度こそ終わりです。ぱちぱちばち。」
本「ご飯頼んでいいかな。おれ、おなかすいちゃってるんだけど。
もちろんおごりだよね、森野さんの。」
森「いそがしいんじゃなかったの?早く帰ったほうがいいよ。
スタッフが待ってるんでしょ?(笑)」
本「あはははは。あ、おれ、ヒレカツ御膳がいいな。(と、ウェイターに向かって手を上げる。)」
***********