Maintenance Note No.16
99年12月12日,19日 プラグ7本連続交換&情けないトラブル
今回は7本のプラグを交換する豪華版。これであらゆるプラグ交換が分かる?
ところが,実に情けないトラブルが待ち受けていたのだ

 今回のメンテナンスノートは,「プラグ7本連続交換トラブル付き」だ。なぜ7本? 恥ずかしいトラブルとは? 長いけど最後まで読んでください。
 12月12日(日),おかちんが我が家に遊びに来た。途中でNAPS練馬店で冬物ジャケットとスパークプラグを買い,マンションの駐車場でにわか整備と相成った。
 おかちんが買ったのは,NGKのVXプラグだ。ボクのSRXも同じくVXプラグを使っている。中心電極にプラチナを採用した高級プラグだ。少なくともボクのSRXでは始動性が良くなる効果はあった。メンバーならばご存じの通り,彼のR1-Zは排気煙の多さや始動性などに多少難がある。2ストだから仕方ないと言ってしまえばそれまでだが,なんとかできないものかと考えるのは人情だ。プラグの交換,それもより高級なヤツに換えてみるのは,始動性や燃費の向上が期待できるというもの。
 2ストエンジンのプラグ交換は実に簡単だ。ヘッドに4ストのような弁機構がないから,鍋のフタみたいなアルミヘッドに,角のようにプラグが飛び出ているだけ。ヘッドの上がスカスカに空いているから,手もレンチも簡単に入る。おまけにR1-Zはパラレルツインだから,交換するプラグも2本だけで済む。
 R1-Zの場合,注意するのは左シリンダーのプラグを左側から交換するしようとすると,可変バルブ機構であるYPVSの作動ケーブルが邪魔になること。だから,右シリンダーのプラグキャップを外して,そのまま右側から左シリンダーのプラグも交換するのが正解だ。
R1-Zのヘッド回りはすきまが十分ある



なぜかボクの息子とポーズをとるおかちん
 おかちんはバイクのプラグを換えるのは初めてだというが,交換作業はあっと言う間に終わってしまった。プラグキャップを外し,車載のプラグレンチをはめて回せばプラグは取れるから,新しいヤツを取りつけてキャップを被せたらおしまい。実に簡単だ。
 ただ,彼は車の鋳鉄ヘッドと同じ感覚でプラグを締めつけたため,少々オーバートルクになってしまったようだ。プラグは,一般的には手でいっぱいに締め込んでから,レンチで90〜180°回転させればOKだ。それ以上締め込む必要はないし,やりすぎるとヘッドを痛めてしまう。締めつけトルクで表すと12〜15Nmだ(ハーレーは例外的にもっと高い)。オイルのドレンプラグが43Nm程度であることを考えると,かなり軽く締めるだけでよいことが分かる。
 面白いことに,R1-Zに付いていたプラグはV字電極のSpritFireだった。「前のオーナーもきっとプラグ交換でなんとかしようと思ったのだろうなあ」と二人して笑ってしまった。
分かりにくいが,中心電極が極端に細いイリジウムパワー





OAダスターでゴミを吹き飛ばす。もちろん,エアツールがあればその方がいいけど
4ストは多少面倒だが
 おかちんが遊びに来た翌週の日曜日,今度はSRXとYZF-R6のプラグを交換することにした。簡単だった2ストのプラグ交換に比べると,4ストの場合は多少面倒になる。カムカバーに囲まれるようにしてプラグホールがあり,奥まったところにプラグが装着されているからだ。ヘッドが高くなる分,フレームとの透き間が狭くなるため,手も入れにくくなる。車種によって,やりやすさが大きく違うこともある。
 例えば,FZ400の場合は,4気筒ながら作業は簡単だった。フレームとヘッドとの透き間が十分あるので作業しやすかった。それに比べると,SRXはちょっとやりにくい。レンチを掛けるとフレームに当たるため,30度くらいずつしか回せないのだ。さらに,空冷エンジンのヘッドは水冷に比べてプラグホールが奥まる傾向にあり,手を入れにくい。とはいえ,幸いにしてプラグは1本しかないので,慣れてしまえば15分くらいで交換できるようになる。
 4ストのプラグ交換で気を付けるのは,ゴミの侵入だろう。前述のようにプラグホールは奥の方にあるので,前輪が巻き上げた砂やほこりがたまりやすい。そのままプラグを抜いてしまうと,砂などがシリンダー内に落ちてしまう恐れがある。そこで,プラグキャップを抜いてから,エアーダスター(OA用に売っているやつ)などでゴミを吹き飛ばしておくとよい。一方,プラグを装着する際には,プラグの端子(電極の反対側で,キャップが被さる部分)を潤滑剤で錆止めしておく。4ストのプラグホール付近は水がたまりやすく,端子が錆びてしまうからだ。
 SRXは前回のプラグ交換から5200kmほど走行したのでちょうど交換時期だ。車の場合はプラグ交換のサイクルが1万km以上と長いが,高回転を多用するモーターサイクルではその半分くらいと見た方がよい。5000〜6000kmで換えてしまうのがベターだ。点火回数が2倍になる2ストならもっと早い方がよいだろう。実際,SRXの外したプラグを見ると,中心電極が結構減っていて,プラグギャップが広がっていた。プラチナのVXプラグといえども,この程度の距離で消耗してしまうのだ。
 今回,SRXには話題の「イリジウムパワー」をおごった。デンソーの最高級品で,値段はなんと1本2000円。普通のプラグは400〜600円だからバカ高い。イリジウムパワーはわずか0.4mというシャープペンの芯のように細いイリジウムの中心電極を持つ。中心電極は細い方が火花が飛びやすいが,細いとすぐに摩耗してしまう。でも,イリジウムなら耐久性があるので,極端に細い電極にできたということらしい。
 驚いたことに,プラグだけで2〜3%のパワーアップ効果があるという。ユーザーの間でも評判になっているから期待してしまう。残念ながらプラグを換えてから走っていないので,まだフィーリングや効果のほどは分からない。これは,また別の機会に報告しよう。
手ごわいダイレクトイグニッション
 ここまで交換したプラグは2本+1本で3本。もちろん最後はYZF-R6の4本だ。R6のプラグは非常に特殊である。プラグ自体が側方電極が2本あるCR10EK(NGK)という比較的珍しいものであることはまだよい。変わっているのは,ダイレクトイグニッションと呼ばれるプラグキャップ一体型のイグニッションコイルを採用していることだ。このため,いわゆるハイテンションコードというものが存在せず,1気筒ごとにイグニッションコイルが取りつけられている。
 イグニッションコイルに水が侵入しないよう厳重にシールされているため,プラグキャップに当たる部分を取り外すのが非常に難しい。いやこれは,オレが未熟だからという点を差し引いてもやっぱり難しい。だって,オーナーズマニュアルには「シリンダーにプラグキャップのシールが強く締め込んであるので,プラグを取り外すのは難しいでしょう」(原文は英語)と書いてあるくらいなのだから。でも,「イグニッションコイルを痛める可能性があるので工具は使わないでください」とある。やれやれ。ではどうするかというと,「外すにはねじりながら引き上げてください」とある。ほんとうかよ。
右側の2本はなんとか外せたのだが…
 それで,その通りにやってみた。が,全然取れない。すごくきつくて,いくらやってもちっとも外れない。しかも,カウルサイドの熱気抜きの穴から手を入れているので力が入りにくい。フレームとヘッドとの透き間は,手を入れるとほとんど余裕がなくなるほど狭いのだ。うんうん唸りながら20分以上格闘してようやくイグニッションコイルを外すことができた。はあ,SRXならもう終わってるよ…。
 馬鹿みたいに長いイグニッションコイル一体型プラグキャップを引き抜き,プラグレンチを入れる。どちらも,空間が狭いためにパズルのように動かさないと抜いたり入れたりできない。目では見えないので,完全に手探りの作業を強いられる。抜いたプラグを見てみると,中心電極の側方電極に近い部分だけが少し削れるように減っていた。R6はまだ4450kmしか走っていないのだが,消耗は激しいようだ。
 またパズルのようにプラグレンチとラチェットを潜り込ませてようやく一番右(4番シリンダー)のプラグを交換した。次に,その奥(3番シリンダー)の交換に入る。これがまた外れない。奥まっているうえに,ラジエーターの冷却ファンなどが邪魔をして手が動かしにくい。ガチャガチャやっていると,手がフレームやらファンやらに当たって痛い。後で手を見ると,甲の側が傷だらけになっていた。冬だというのに汗をかきつつ,やっとのことで2本目を交換。この時点で既に1時間半が経過。結構嫌になってくる。
 しかし,ここからさらに冷や汗が出てくる。左側の1番シリンダーのキャップが外れないのだ。左手しか入らないので思うように動かせないのに加えて,左側は冷却水のホースが邪魔をしていっそう作業性が悪い。どうやっても外すことができず,頭を抱えてしまった。さらに奥にある2番シリンダーのキャップを外すのは絶望的と言ってよい。
左が使用済み,右が新品。黒っぽいけど,焼け方はまあまあ。側方電極が2本あるタイプだ

傷だらけの手と残った半分のプラグ
 そこでちょっと発想を変えて,上から作業したらどうかと,タンクを持ち上げてみた。そこにはさらなる絶望が待っていた。まず,タンクを外すには,3本のホースと1本のカプラーを外さないといけない。これはまだよいが,その下のエアクリーナーボックスを取り去るには,ラムエアのダクトを外す必要がある。かなり大ごとになるのは間違いない。ここで,自分で交換するのは諦め,R6を買ったYSP板橋中央に電話する。プラグ交換に挫折したなんて恥ずかしいけど,背に腹は替えられない。作業をしてもらえそうな30分後に行くことにした。
 結局,ショップでも横からのプラグ交換はせず,上から作業することになった。作業はすべて見ていたが,2人がかりで大変だった。なにせ,タンク,カウル,ラムエアダクト,エアクリーナーボックス,その下の泥よけパネルを外して,ようやくプラグキャップにアクセスできるのだ。その間に,たくさんのホースとカプラーを抜かねばならない。奥まったところにあるネジがあるなど,やや特殊な工具を使わないと作業できないところもあった。これはもう素人には無理だ。メカニックも,「工具が相当揃ってないとできないですね」と言っていた。
 2人がかりでも作業は1時間以上かかった。ばらばらになったパーツを元に戻す方が時間がかかっていた。たかがプラグを交換するのに,なんでここまで手間がかかるのだろう。プラグキャップさえ簡単に外せれば,狭いとはいってもなんとか交換作業はできるのに…。プラグ交換に関してメンテナンス性を採点すれば,R1-Zが100点,SRXが80点とすると,R6は10点かな。
 ちなみに,交換工賃は4800円(かかった時間を考えると良心的だ)。プラグ1本800円(高い!)×4本=3200円と合わせて8000円なり(しかも税抜きで)。こんなことなら,最初からやってもらえばよかった…。まあ,こんなトラブルも愛車をいじる楽しみの一部だけど,筋肉痛で傷だらけの右手を見ると,ちょっと悲しい一日だった。