Maintenance Note No.70
2003年3月28日 ニューR6のメカニズムをクローズアップ
今回は'03YZF-R6に採用された新しいパーツやメカニズムを、
簡単なインプレッションを交えて紹介する。R6購入の参考にしてもらいたい

 今回のメンテナンスノートは、'03YZF-R6の購入を考えているライダーと従来モデルのオーナー向けに、新型の詳細をお伝えしよう。バイク誌の記事では紹介されない細かな点にも触れたい。
 '03YZF-R6というバイクを一言で表すなら、「高品質を実感させるスポーツバイク」となる。600ccクラスに「リッタースーパースポーツにも負けない尖ったスポーツ性」というコンセプトを持ち込んだのは初代R6だった。しかし新型は少し軌道修正して、スポーツ性はそのままに、高度な生産技術に裏打ちされた品質感によって、オーナーの満足度を上げる方向に向いてきたように思われる。ライバル車がサーキットでの走行性能を上げ、より先鋭化してきたのとは対照的だ。
 例えば、「CFアルミダイキャスト」技術によって滑らかに成型されたスイングアーム、斬新な機構によって素晴らしい配光と迫力ある外観を実現した「ガトリングビーム」ヘッドライトなど、オーナーが「このバイクを買ってよかった」と思わせる仕掛けが随所にちりばめられてる。店頭価格が98万円もする600ccのバイクは、単に速いというだけではもはや支持は得られない。デザインと品質感、オーナーの満足度が伴ってこそ良いバイクと言える。その点で'ニューYZF-R6は合格点をあげてもよい。
 それでは、その品質感がどのように実現されているのかを紹介していこう。ヤマハの開発陣が相当に頑張ったことが分かるはずだ。
●CFダイキャストによるスイングアーム
CFダイキャストスイングアーム
あたかも樹脂のような質感を見せるスイングアーム。ヤマハ独自の「CF(Controlled Filling)アルミダイキャスト」によって成型された滑らかな造形は今まで見たことないもの。こうしたサプライズがオーナーの満足度を高めている。ダイキャストの肉厚はわずか2.5mmだという。ちなみに、走行中に左足の踵がスイングアームに当たる問題は解消されている。

●これまで見たことのない造形
車体右側から見たスイングアーム
従来は溶接でトラスとボックス構造に組み上げていたものが一体化しているのがよく分かる。溶接と比べて強度の最適化がしやすそうだ。スイングアーム上には長めのインナーカウルが付く。下側のアームにはエキパイとの干渉を防ぐためと思われる樹脂製のプレートが取り付けられている。メンテナンススタンドをかける際、このガードに当たってしまうのが目下の悩み。
●ステアリングヘッドまで一体鋳造
フレームとステアリングヘッドが一体化
ちょっと分かりにくいかもしれないが、ステアリングヘッド部に注目してほしい。普通ならツインスパーフレームと鋳造ステアリングヘッドが溶接されているはずだが、'03R6では継ぎ目が見当たらない。デルタボックスIIIフレームは、なんとヘッド部とフレームが一体鋳造なのだ。フレーム剛性は、従来モデルから50%もアップした。

●フレームの溶接は2カ所だけ
シートレールはCDダイキャスト
フレームはたった2つのパーツで構成されている。ツインスパー部とスイングアームピボット部だ。だから溶接してあるのは左右の2カ所だけ。シートレールに至っては、こんなに大きくて複雑な形状のものが一体構造だというから恐れ入る。溶接工程が減るということは、生産性と精度、そして剛性が上がることを意味する。
●シフトライトの点灯タイミングを設定できる
シフトライトの設定中
メーターは速度がデジタル、回転はアナログ表示。白く光っているのはシフトアップのタイミングを知らせるライトだ。点灯するタイミングはユーザーが決められる。写真では1万rpmで光るように設定している。ライトが消えるタイミングや、ライトの明るさも調整できるなど芸が細かい。同様にメーターの照明も明るさを変えられるが、最も明るくしても眩しいわけではなく、あまり必要性は感じない。液晶パネルの照明は不均一で左側が暗くなるところが惜しい。
リザーバータンクが緑色に光っているのは、ニュートラルランプのLEDの光が当たっているから。暗いところでは間接照明のようで結構きれいだったりする。

●エンジン始動前の儀式
イグニッションオンでのセルフテスト
イグニッションキーをオンにしたときの儀式。すべてのLEDが点灯し、タコメーターの針は1万8500回転まで駆け上がってから0ポジションに戻る。計器が正しく動作しているかを診断する機能だが、オーナーにとってはゾクッとする演出だ。
タコメーター内にある鍵マークのLEDはイモビライザーのインジケーターで、キーを抜くと約10秒後に点滅を開始し、24時間その状態を維持する。高輝度LEDの赤い光はかなり目立つので威嚇効果は高いだろう。キーには固有IDを持ったトランスポンダーが内蔵され、キーシリンダー横にあるアンテナで交信する。同様のシステムは'03モデルのSR400にも採用された。今後、ヤマハ車の標準装備になっていくだろう。
●超軽量5本スポークホイール
タイヤサイズは120/60
5本のスポークは、これで本当に大丈夫なのかと心配になるほど細い。しかも断面はU字型。下手な社外ホイールよりも軽そうだ。フロントキャリパーはおなじみのMOSタイプ。ローターは一見すると変わっていないようだが、インナーの形状が異なり、ホイールとの締結ボルトが5本に減っている。

●チェーンは従来と同じ532サイズ
タイヤサイズは180/55
標準装着タイヤはミシュランの「PilotSPORT」だった。慣らしで軽くワインディングを走っただけなのに、グルーブのエッジが削れていたので耐摩耗性が心配。チェーンは相変わらず532という妙なサイズを使う。このチェーンは重いし、交換時にコストがかかるしと、オーナーにとってはいいことなし。
●チタンエキパイとアルミサイレンサー
触媒を内蔵した排気系
エキパイはチタンの2重管。しかもグラスウールを挟み込んだ状態で曲げ加工するという驚きの構造だ。実際、排気音は従来モデルよりも少しだけおとなしくなったようだ。サイレンサーはアルミ。触媒を内蔵しているが、どこに取り付けられているのかは今のところ不明だ。

●ステップはアルミ鍛造
右ステップ
見過ごしがちなのがこのステップ。よく観察すると、シャープな外観からアルミ鍛造品だと分かる。一般に、鍛造の方が鋳造よりも高強度で軽量化が可能とされる。ヒールガードは肉抜き穴が大きくなった。ステップ周りは質感が向上したので、バックステップに換えるのはもったいないかも。
●「ガトリングビーム」は画期的
「ガトリングビーム」ヘッドライト
「ガトリングビーム」ヘッドライトは2つのプロジェクターを1本のバルブで光らせる画期的な構造。バルブはH7を左右1本ずつ使う。ライトユニットの外側にはポジションランプを内蔵している。
中央のラムエアインテークは2分割式になった。従来モデルも口は1つだが内部で2つに分かれていたので実質的には同じ。

●恐ろしく広範囲を照らすヘッドライト
ハイビーム点灯時
ガトリングビームの配光特性は素晴らしく、高速道路の追い越し車線を走っていても、路肩にある標識をくっきり照らし出すほど広範囲に光が広がる。ハイビームは正面をスポット的に照射する。その迫力ある外観と相まって、車からの被視認性は走っていて実感できるくらい高い。
フロントスクリーンは以前よりも低くなったようだ。その分、防風効果が落ちて、高速では風の抵抗を強く感じる。
●リアサスのボディは削り出し
リアクッションユニット
リアサスは新作だ。リザーバータンク横置きから縦置きのピギーバッグタイプに変更。材質もアルミ鍛造となり高級感が増したのは見ての通り。もちろん、伸び/圧減衰力とプリロードの調整機構付きだ。ただ、頻繁に変更する伸び減衰力調整機構が、ダイヤル式からマイナスドライバーを使うネジ式に変わったのは不満だ。従来モデルと同じセッティングにした場合、サスはやや動きにくくなった印象を受けるが、高速でのフラット感は増し、乗り心地は上質になった。

●ラジエーターはラウンドタイプに変更
ラジエーター
ラジエーターはラウンドタイプとなって容量が増えた。カウルサイドのメインアウトレットは想像以上に大きく、ほかにも小さなエアスクープがたくさん設けられている。総合的な冷却能力は上がっていると見てよいだろう。
中央部のカウルはブラックだが、ソリッドカラーではなく、陽が当たるとキラキラ光るマイカ系の塗装なのは気が利いている。カラーバリエーションの中で、ブルーだけがアンダーカウルも同色塗装となる(ほかはブラック)。
●収納スペースや積載性は最低
リアシート下収納スペース
タンデムシート下の収納スペースは最小限。車載工具のほかはカッパすら入れるのは困難。しかも、U字ロック固定用の突起があったりして、たいへん使いづらい。この後で盗難警報装置を装着したため、スペースはさらに狭くなった。従来モデルはメインシート下にも若干の空きスペースがあったが、新型は全く余裕がない。
荷掛けフックとヘルメットホルダーは車体側には無く、脱着可能なタンデムシートの下にある。といっても、フックはただの紐、ホルダーはちょっと出っ張った金具でしかなく、こちらも甚だ使いにくい。

●ホールド性の上がったタンクとフレーム
タンクとハンドル
スーパースポーツにしては開きすぎのハンドルがR6の不可思議なところ。右スイッチボックスからはライトスイッチが消え、左にはハザードスイッチが追加された。新しいウインカースイッチは(慣れないせいもあるだろうが)どうにも使いにくい。ミラーは'01R6と同じようだ。
ニーグリップ部はフレームが絞り込まれてホールド性が上がった。シートはやや固めで、以前よりも広くフラットになっているように感じる。足つきも比較的良好で、総じてライディングポジションはスーパースポーツとしては楽な部類に入るだろう。
●ニューエッジフォルム
全体にエッジの効いたデザイン
ヤマハが言うところの「ニューエッジフォルム」。ニューエッジという言葉は、98年デビューのフォード「フォーカス」で有名になったから、ちっとも“ニュー”ではないし、形としても同クラスのライバルに比べればむしろオーソドックスと言うべき。しかし、そのデザインにはヤマハらしさがあふれているし、「バイクとはこういう形」と安心できるところが、ニューR6の良さなのだ。

●エンジンの上質感は特筆もの
ブラックアウトされたエンジン
カウル右側の開口部からは分厚いエンジンハンガーが見える。パーツの9割が新作というエンジンは、フューエルインジェクションの効能も手伝って、中回転域では、その存在を忘れてしまいそうになるほどスムーズ。ラムエア効果で600ccから123psを絞り出すエンジンとはとても思えない。シューッと吹け上がるときの抵抗感の無さは、R6の上質感を従来モデルより数段高めている。