もしもR6がCVTだったら
〜バイク用CTVの可能性〜
 4輪のAT化比率が9割を超えていると言われる国内でも、スクーターを除くバイクのトランスミッションはほぼ100%がマニュアルだ。しかも、技術的に大きく進歩したという話を聞いたことがない。エンジンや車体、タイヤなどが長足の進歩を遂げている中、バイクのトランスミッションは取り残された感がある。4輪と同様に、バイクにも「AT限定免許」を導入する動きはあるが、これはもちろん大型スクーターの普及を背景にしたことで、普通のバイクにはほとんど関係ない。
 僕が最近、俄然注目するようになったのがCVT(Continuously Variable Transmission)だ。ご存じの通り、CVTは2つのプーリーと金属ベルトを使って無段階に変速するトランスミッション機構。スクーターのVベルト変速装置も一種のCTVと言えるだろうが、4輪に採用されているCVTは金属ベルトで、プーリーを油圧などで制御している点などが異なる。
坂道でも車速は一定
 CVTに注目したのは、アウディ A4 2.0SEを購入したのがきっかけ。この車はアウディと独LUK社が共同開発したCVT、「マルチトロニック」を搭載している。初めてA4を運転した際、CVTの運転感覚には多少の違和感を覚えた。アクセルをゆっくり踏み込むと、エンジンの回転数は1600rpm程度を保ったまま、スルスルと車速が上がって65km/hくらいに達する。車やバイクを運転している人なら、これが奇妙に感じることは容易に想像できるだろう。「CVTは加速感覚が変」と言われる原因だ。だが意外なことに、この感覚にはすぐ慣れるし、制御プログラムが違和感のないようにうまくコントロールしている。
 それどころか、運転感覚の面では、CVTにはギヤで変速するATやMTには無いメリットがある。まず、極めてスムーズであること。エンジンの回転数を保ったまま、あるいは少しずつ下げながら車速を上げていくため、ギヤによる変速で起こるシフトショックが皆無。クラッチを断続することもないから、駆動力の途切れも全くない。
 エンジンの負荷に応じて自動的に変速をしてくれるおかげで、車速を一定に保ちやすい。例えば、A4は坂道を上り始めて負荷が高くなると、よりローギアードに自動変速(もちろん無段階で)して、エンジンの回転数を高めて車速を保とうとする。ドライバーが坂道の勾配に応じてアクセルを踏み込む必要はない。高速道路では、しばしば坂道で車速が落ちて渋滞が発生するが、全車がこうしたCVTであれば、渋滞はほとんど起こらないはずだ。

A4 2.0SEが搭載する「マルチトロニック」は、マニュアルモードでは6段変速が可能。CVTは無段階変速なので、プログラム次第で段数はいくらでも増やせる。




このエンジンは2リッターで130馬力。これだけのトルクとパワーに対応できるCVTが既に存在するのだから、リッタークラスのバイクにCVTを積むことも実現できそうな気がする。
もしR6にCTVを搭載したら
 ライダーにとってなじみのないCVTのメリットを説明するために前置きが長くなってしまったが、バイクにもCVTを搭載することでかなりのメリット、運転する楽しさが増すのではないかと思う。もし、YZF-R6のトランスミッションがCVTだったらどうなるだろうか? 素早く発進するためスロットルを開けると、電子制御のクラッチがつながって、エンジンはトルクの充実した8000rpmまで一気に吹け上がり、そこから次第にハイギヤードへ無段階変速しながらスムーズにスピードを上げていく。8000rpmはR6にとっては中回転域だが、それでもあっと言う間に100km/hを超えるはずだ。
 スロットルを戻すと、回転数は4000rpmくらいに下がり巡航状態に移る。CVTでは通常の6速以上にハイギヤードにできるから、これでも100km/h巡航が可能になるかもしれない。エンジン回転数を抑えられるので燃費が良くなる。前を走るベンツ(ではなくてもよいが)を追い越したければ、ギヤを2つ落とす代わりに、スロットルを捻るだけでいい。CVTは瞬時に変速比を変え、エンジン回転数は高まって鋭く加速する。CVTは変速が超高速なのも美点だ。
12段変速も夢ではない
 しかし、これではライダーが自ら変速する楽しみがない? いや、そんなことはない。手動変速モードを加えればよい。実際、A4にもマニュアルモードがあって、6速(バイクと同じ!)を駆使して走ることも可能。マルチトロニックのマニュアルモードでワインディングやサーキットを走ると、加速力とエンジンブレーキを思ったとおりにコントロールできて楽しい。
 CVTは制御プログラム次第で何段階にでも変速ステップを刻めるから、往年のGPマシンのように超クロスレシオの12段変速を作るのも簡単だろう。今まで2速を使うか3速を使うかで迷っていたコーナーでも、ぴったり合うギヤ比が選べるに違いない。現実に、世界初の電子制御CVTを搭載したスズキのSKYWAVE650は5段変速のマニュアルモードが使える。オート/マニュアルの両モードがあれば、街中を気楽に走りたいときはオート、峠でスポーツラインディングを楽しみたければマニュアルモードを使えばよいわけだ。

CVTを搭載するSKYWAVE650の変速ボタン。クラッチ操作から解放されればそれだけライディングに集中できるし、長距離での疲労も軽減されるはず。
機構上の課題はありそう
 多くのメリットがあるバイクへのCVT搭載だが、残念ながら完璧とは言えないようだ。最も懸念されるのは、自動変速モードでは駆動力のコントロールが思うようにできないかもしれないこと。少なくともA4のマルチトロニックでは、ハイギヤードの状態からアクセルをジワッと踏んだとき、トラクションがかかる感覚が希薄だ。4輪ならまだしも気にならないが、バイクではコーナーの出口で思ったようにトラクションがかけられないと、加速できないばかりか2次旋回(後輪のスリップアングルが大きくなってコーナリングフォースが高まる状態)ができずに走行ラインを外してしまう可能性がある。ただし、これはマニュアル変速モードを使えば解消できるだろう。
 機構面での問題もある。CVT自体はコンパクトに作れるようだが、プーリーを油圧制御しようとすると、油圧ポンプを追加して重量がかさんだり、ポンプ駆動のためにエンジンパワーをロスしてしまうだろう。この点は、SKYWAVE650のように電動モーターを使えば解決できるのかもしれない。機構上の問題ではないが、SRXのように単気筒エンジンの爆発感覚そのものを楽しむバイクとは相性が良くなさそうだ。
 バイク用トランスミッションとしては完璧ではないにせよ、CVTは大きな可能性を秘めている。極めてスムーズなエンジンフィーリングを味あわせてくれるスポーツバイクを実現する手段として、バイクメーカーは市販車へのCVT採用を真剣に検討してほしいと思う。次の機会に、“オートマチックMT”の可能性について考察したい。

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