バイクにエアバッグが付く日は来るのか?
 10月19日、名古屋で「ITS世界会議2004」で開催された。ITSとは、Intelligent Transport Systems=高度道路交通システムのことで、IT技術を活用した自動車・二輪車の制御や安全システムのことだ。ITS世界会議のニュースを聞いて、2000年に公開されたASVを見に行ったことを思い出した。ASV(Advanced Safety Vehicle)は国土交通省の主導により、メーカー各社が2輪も含む自動車の安全性向上のために研究している実験車のこと(国土交通省のWebページはこちら)。2000年に成果の中間発表として、実車がJARIのテストコース、いわゆる谷田部のテストコースで展示されたのを取材したのだ。

安全装備で立ち遅れる
 最近の自動車が備える安全装備の充実ぶりには目を見張るものがある。エアバックのようなパッシブセーフティーは言うに及ばず、レーザーを使った追突防止装置やカメラの目による車線維持装置など、高度な電子技術を駆使したアクティブセーフティーを備える車も増えてきた。ITS世界会議2004では、さらに進歩した安全装備が多数発表された。もちろん、バイクに関係するものある。例えば、スズキはドアミラーに搭載したCCDカメラによって、左折時のバイク巻き込み事故を防ぐ装置を出展した。
 年々高度化する自動車のハイテク安全装備に比べて、バイクのなんと遅れていることか。14年前に発売されたSRXと、2003年発売のYZF-R6を並べてみて、安全装備の分野で進歩したところはひとつもない。もちろん、ABSや前後連動ブレーキを装備したバイクもあるにはあるが、非常に少数であると同時に、装備の内容は極めて限られている。ドライバーに比べて、ライダーの安全性はないがしろにされていると言われても仕方のない状況だ。

バイクにもエアバッグを装備
 しかし、2輪メーカーは全く手をこまねいているわけではない。4年前にヤマハは、ASVとしてマジェスティをベースに改造した「ASV-2」を谷田部で展示していた。車車間通信システム、アクティブヘッドライト、ブレーキアシスト、そしてエアバッグなどを搭載していた。車車間通信システムとは、バイクの存在を自動車に知らせることにより、出合い頭の事故や右直事故を防ごうというもの。アクティブヘッドライトはバンク角に応じて照射範囲を自動調整してくれる。
 ホンダが展示したゴールドウィングも、同様な装置を積んでいた。こちらのエアバッグはダミータンク部にあり、衝突するとライダーとハンドルの間で膨らむようになっている。これならば、ハンドルやタンクとの衝突を防ぎ、場合によっては車などの衝突相手との衝撃緩和にも役立つかもしれない。
 素人考えでは、エアバッグの収納スペースさえ確保できればすぐにでも実現できそうな気がするが、現実にはそう簡単ではないそうだ。ホンダの開発者に聞くと、車はシートとシートベルトで搭乗者の位置が固定されているが、バイクではライダーの位置が一定でない上、車種によって乗車姿勢が大きく異なるため難しい面があるという。

せめてABSは欲しい
 僕がASVを見た2000年から4年後の今、バイクの安全装備に関する研究はある程度進んだようだ。ITS世界会議でヤマハは、ASV-2に搭載した二輪車用夜間ライティングシステムや二輪車用後方視界補助システムを改良したと発表している。さらに開発を進め、「ヤマハASV-3」として正式発表する予定だ。
 とはいえ、現実に街を走っているバイクを見ると、安全装備で目立った進歩があったとは言い難い。エアバッグのようなパッシブセーフティーはともかく、ABSやブレーキアシスト、自動配分ブレーキ(EBD)、トラクションコントロール、電子制御の車体安定機構など、アクティブセーフティーの面ではすぐにでも二輪に応用できそうな技術があるはず。ABSとEBDがあるだけでも、緊急時の安全性は飛躍的に高まると思う。重量やコストの問題があるのは当然だが、二輪メーカーは安全装備にぜひ積極的に取り組んでもらいたいものだ。
ヤマハASV-2
ヤマハがマジェスティをベースに開発し、2000年に発表した「ASV-2」。エアバッグ、車車間通信システム、アクティブヘッドライトなどを搭載する。後方確認用CCDカメラは、すぐにでも実現して欲しい装備だ。



ヤマハのホームページより
ITS世界会議2004でヤマハが発表した二輪車用後方視界補助システム。ヤマハのニュースリリースより。

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