もしもR6がDSGだったら 〜バイク用ダイレクトシフトの可能性〜 |
|
昨年の春に「もしもR6がCVTだったら」と題して、バイク用CVTの可能性を論じた。今回はその続編、もしバイクにダイレクト・シフト・ギヤボックス(DSG)の搭載したら、どんな世界が開けるのか想像してみよう。 「DSG」はフォルクスワーゲン・アウディグループが開発した新しい変速機だ。マニュアルトランスミッションをベースとしながらも、2重クラッチと2本のシャフト、そして完全な電子制御によって高速な変速を実現した。その仕組みを言葉だけで説明するのは少々難しい。大まかな仕組みは、下の図のようになっている。6速分のギヤは偶数段と奇数段に分かれて配置される。クラッチとインプットシャフトは外側と内側の2重構造だ。 |
|
次のギヤがスタンバイ 1速の時はアウトプットシャフト1の1速ギヤがかみ合って動力を伝える。と同時に、アウトプットシャフト2の2速ギヤもかみ合っているが、2重構造のクラッチは離れていて空回りしている状態になっている。 つまり2速はスタンバイ状態にあるわけだ。ドライバーが2速にシフトアップすると、クラッチが切り替わり、アウトプットシャフト2の動力が伝わって2速に変速する。 |
|
要するに、あるシフトポジションの時、次のギヤは常にスタンバイ状態にあり、2重構造のクラッチをつなぎ替えるだけで変速が完了する。だから変速にはわずか0.2秒しかかからない。どんなにうまいドライバーでも、通常のMT(Hパターン)でそんなに速くシフトチェンジはできない。
DSGはアウディのA3 3.2 quattroやフォルクスワーゲンのGolf GTIなどに搭載され、既に高い評価を得ている。実際、DSG搭載のA3に乗ってみると、まるでCVTのように全くシフトショックがなく、しかもトルク抜けによる加速の途切れもないまま、ぐいぐいと加速していく様は、従来のATやオートマチックMTにはない感覚。パドルシフトを操作すると瞬時に変速するし、自動モードに入れておけば、普通のATと同じように安楽な運転もできる。速くてラクチン。唯一指摘されるのはクリープがかなり弱いことだが、そんなのは左足ブレーキを使えばいいわけで、全く問題ではない。ボク自身、A4に乗っているが、DSG付きのA3に乗り換えたいと思うほど魅力的なトランスミッションだ。 確実に速くなるDSG さて、ここからが本題。もしYZF-R6、いやR6に限らずバイクにDSGを載せたらどうなるか? バイクのトランスミッションはシーケンシャルシフトなので車よりは素早く変速できる。特にシフトアップはクラッチを切らなければかなり速い変速が可能だが、それでもスロットルを戻すのとシフトペダルの操作でロスが出る。低いギヤでのクラッチを使わない変速には無理が生じる。 ところが、もしトランスミッションがDSGだったら、ハンドルにあるボタンを押すだけで瞬時に1速から2速にシフトアップできる。変速時に駆動力が途切れることがないため、確実に速くなる。カーブの入り口で、フルブレーキングしながら4速→3速→2速と落とすのも、ちょんちょんとボタンを押せば済んでしまう。エンジンの回転数を合わせるのは、電子制御スロットルの仕事だ。半クラを使ってリアのホッピングを抑える必要もない。 DSGの搭載により変速時のタイムロスがなくなり、ライダーはブレーキングや荷重移動に専念できる。余計な操作から解放されれば、バイクのダイナミズムをより楽しめるようになるだろう。バイクにDSGを積むには大きさや重さの問題があるものの、近年の異様に軽いスーパースポーツなら搭載する余地はあるかもしれない。いつの日か自動制御のMTがバイクに搭載されると想像するのは楽しいものだ。 |