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今回も、制作後のデザイナーズノートをお送りします。ゲームをプレイしたことのある方向けになるかもしれません。
今回は事前情報で、制作期間がかなり短いことが分かっていたので、負担の少ないゲームをと考えていました。作業実績があって、カードの入稿がなく、印刷物のリードタイムが読みやすいという観点で、紙ペンゲームにしようという感じです。
紙ペンゲームのアイデア自体はストックがいくつかありましたが、2本平行でアイデア出しをして、うち 1本が進められそうだということが分かったので、そちらで進めることに。
ネタ出しは、2023秋のテストプレイが完了するあたりの 9/21 から始めていたようです。ほかの作業も含めて 11/24 にアイデア出しを完了という感じです。
工場で材料を変換して製品を作る紙ペンゲームのアイデアはストックしていましたが、コンポーネント制作の負荷を下げるため、ロール&ライトにすべくダイスを使ったゲームにしようということに。
2023年9月に流行が始まった「スイカゲーム」の、同じ果物を 2つくっつけると、大きな果物に変化するというところから、これを数字でできないかというアイデアが浮かんできました。類似のゲームでは「Threes」や「2048」もありますが、どれも 2次元的なパズルゲームではあります。これを、紙ペンゲームとして 1次元にしてもよさそうだという感じです。
ダイスの出目の都合上 1〜6 の数字を扱い、同じ数字を合わせるという観点だと、2の倍数、3の倍数、5の倍数に分かれることになり、4は2を合成したもの、6は3を合成したものと扱い、使いにくい「1」はたし算に使って 2の倍数と3の倍数をずらすのに使えそうだという感じで、スムーズにまとまりました。
元ネタの「盤面の制約」という観点で、加工後の数を記入できる数に制約を加えることにしています。
これだけだと、ただ数を作る仕組みができただけなので、目標がほしいと思い、ターゲットナンバーを作ることにしました。
ターゲットナンバーは、イギリスのクイズ番組「Countdown」の Numbers Round からアイデアをとりました。ネタ出しのときに、YouTube のおすすめに出ていたのを見ていたので。
Number Round は、1〜9までのスモールナンバーと 25, 50, 75, 100 のラージナンバーが合計 6つを与えられ、それらを四則演算して、30秒以内に 100〜999のなかでランダムに決められた数にするというものです(すべての数字を使う必要はありません)。ランダムなのでものすごく簡単なものも出ますし、得点範囲になる誤差 10以内でも解なしのパターンもあります。
ゲームの特性上、数字の制限は 1〜99 にすることを決め、同じ数2つの合成と 1のたし算だけだと、現実的に作れる数が大きく制限されるので、計算を拡張することにしました。
ダイス目の範囲でたし算とかけ算ができれば 1〜99の数は表現できるので、組立機(たし算)と合併機(かけ算)を使って数を加工するという考えに至りました。
さらに、数学的な話になりますが、たし算は「1」を加える操作を繰り返すことで、かけ算は「かける数」を加える操作を繰り返すことで定義できるので、操作回数の上限を緩和すれば、自由度が増えそうだということで、パワーアップの概念も入りました。組立機は 3まで、6まで、合併機は3個、無限個までという制限は当初案のままです。
ダイナミックな数の動きがほしかったので、数を2倍にする増幅機のアイデアはすぐに出ました。ゲームの構造上、数の大きさはリソースになり、全員が共通のリソースだと点差が出にくくなるのと、「1」を強化する変換機のアイデアも出ました。
当初案では、ターゲットナンバーをすべて消費して、パワーアップすることにしましたが、このあたりはテストプレイで変わってきます。
あとは、得点を獲得できる注文の要素と、最終的なリソース(数字)を得点に加える商品の要素を入れています。基本的にソロプレイの要素が強いので、インタラクションとして、商品ボーナスを入れました。
9/21 に 2つの作品をお披露目し、こちらは先に進めそうだということで、バランス調整に入ることに。プレイヤーを選ぶ感じの作品ということはコメントされましたが、方向性としてはよさそうだったので、今回は突き進むことにしています。
パワーアップ回りは色々と意見が出たりしましたが、どうしても強弱が出てしまうのと、パワーアップしない方が得点的に有利なケースが出てきたので、「数字を消費しない」ように変更しています。
変換機も当初は「1」のみでしたが、「2」も変換できるようにしました。ダイス目の範囲にない「7」と「8」を入れて、大きくリソースを獲得できますが、そのかわりに組立機に入れられないサイズになっています。
その他、もう少し数字をいじれる機械も入れたりしましたが、自由度が高すぎるか、使えなさすぎるかどちらかということで、最終形になりました。増幅器は、2回か3回かで色々と変更しましたが、2回がちょうどいい感じになっています。
得点バランスも、当初よりもレートがよくなっています。ラウンド2の計算に 1/8 が入りますが、このゲームをプレイする対象なら 8で割る計算は問題ないということで導入しています。
テストプレイの中盤から、数字の加工での得点要素を増やすということで、「収益」を追加しました。導入当初はゲーム終了時のみでしたが、ラウンド1終了時にも得点を入れることにし、早取りの要素を少し増やしました。
このゲームのキーは、ターゲットナンバーですが、基本の数以外は色々と割り当てる数を入れ替えています。数の範囲がぶつからないように、作りやすい数、作りにくい数を織り交ぜてという感じです。注文も数が高くなったり低くなったりしています。
リプレイ性のために、ダイスで決めることにしていますが、組み合わせも悩ましいところがありました。変換機の3レベルのあたりは一筋縄に行かないように調整が入っています。この表は、実際にプレイして確認してみてください。
商品ボーナスは、当初案から 1ラウンド目を弱体化しましたが、最終的に当初案に戻りました。
今回も、タイトル、パッケージアートなどに AIを活用しています。今回も、ゲームの概要とテーマから ChatGPTでタイトルを考えてもらうことにしました。「NumberForge」という造語ができたので、そこからつながる言葉を探してもらいました。
パッケージアートとイメージカラー、カラーパレットのグラフィック回りも Stable Diffusion と ChatGPT に協力を仰ぐ形になりました。イメージカラーは、これまでの作品で使ってこなかった、鮮やかな暖色系のフレイムレッドにしました。
今回は、工場での加工をテーマにしたということで、機械の用語も調整を入れたりしました。名称からイメージがつきにくいというコメントもあり、ChatGPTと相談しながらよさそうなアイデアをつまんだりしています。
特に数学的なテーマになっているので、今まで以上に用語の定義には気を遣いました。未定義の用語が出ないようにしつつ、音読したときも含めて、似たような用語にならないかもチェックを入れています。
マニュアルは、かなり前からテキストで下書きを作り、チェックツールをかけて誤字脱字、基本的な表記ゆれ、助詞の連続などをチェックしていますが、今回から ChatGPTでの査閲も導入してみました。ChatGPT 3.5 では、トークン数の兼ね合いで全文は取り込めず、セクション単位でのチェックになりました。例示もいつもよりも多めに入れています。
このあたりもあって、マニュアル作りにはこれまでの 2倍くらいの時間がかかり、ページ数も 1.5倍くらいに膨れ上がりました。制作を始めて20年になりますが、マニュアル作りは一番大変な作業のひとつです。
パワーアップにはいろいろな種類がありますが、ターゲットナンバーを作るには、組立機の2レベルが早いタイミングで必要になり、最終的には3レベルも必要になってきます。合併機はマス数でのメリットと 2レベルでも 2の倍数と 3の倍数を 6の倍数にまとめることができたり、3レベルにすると 5倍や 7倍が作れるという利点があります。
ダイス目の大きさがリソースになり、ダイス目は全員で共通なので、リソースで差が出るのは、変換機のレベルアップのタイミングと、増幅器の使用タイミングです。変換機レベルアップは早ければ早いほどリソース面で有利になります。
ターゲットナンバーは、組立機レベル3で少しずつ増やす方法がやりやすいです。3や5で偶数奇数を入れ替えつつ、必要なものから作っていくことになるでしょう。
ラウンド1は、注文1つ、商品1つなので、ターゲットナンバーのために数を大きくして、最終的に消費することを考えてみましょう。大きくする数を 2つに絞るとすべて納品できて効率はいいですが、グループIIやグループIVの連番や、グループIIIの取り方が難しくなるので、3つの数を作るのが安全ではあります。この場合は、納品せずに残す数には注意が必要です。
ラウンド2は、パワーアップが完了していれば、急いで作る数はないので、あとから調整したほうがやりやすいです。納品する数は、通常は 4つなので、組立機に入れられない 7以上の数が余らないように気をつけましょう。
増幅機は、49までしか入れられないので注意が必要です。大きい数を入れるほど効率がよくなりますが、収益のターゲットナンバーを取るかどうかの兼ね合いもあります。
変換機のレベル3で作れる「7」と「8」は組立機に入れられないので注意が必要です。組立機も活用して使いやすい数に調整するか、収益や注文の数に寄せる使い方があるかと思います。
使い勝手のよい数の作り方をいくつか把握しておくといいでしょう。具体的には 16, 18, 20, 24, 30 と、最大数狙いの 98 や 99 などです。商品で得点効率がよいのは、5の倍数、8の倍数、10の倍数ですが、5 は材料として登場しにくいです。
今回も、デザイナーズノートをお送りしました。20周年の作品ということはあまり意識していませんでしたが、ターゲットをかなり絞った作品になり、ある意味、Hammer Works のスローガンである「つくりたいものを つくりたいときに つくりたいだけ」を体現した形になったかと思います。気になる方に届けば幸いと思っています。