嚮導駆逐艦に匹敵するほどの排水量で重武装を達成した特型は諸外国から大きな注目を集めたが、その従来型駆逐艦とは明らかに一線を画す高性能は、同時に列強各国の危機感を煽る結果となった。海軍内部においても、戦力増強に固執するあまり大型駆逐艦の建艦競争を引き起こす事は得策ではない、とする意見が支配的となったため、当初36隻の建造が予定されていた特型の建造は第二艦隊二個水雷戦隊用の24隻で打ち切り、それ以降の一等駆逐艦は以前と同じく1400トン級とすることになった。これが後の初春型である。 この1400トン級駆逐艦については1929年から検討が始まり、配属先が第一艦隊という事で、砲撃力を重視した艦隊直衛型の艦になる予定だった。このときの計画では、雷装は睦月型などに準ずる発射管6門とする一方、主砲については前部に3門、後部に3門の計6門が搭載搭載される事になっていた。なお、この3門配備というのは対空射撃を考慮してのもので、高角砲に比べて発射速度が落ちる通常砲において射撃速度を確保するためであった。したがって、同時期に12.7センチ三連装砲塔が研究されているが、実用化に至らなかったため、それぞれ砲塔二基に振り分けるものとなったようである。また、特型に比べて不足する雷撃力は隻数でもって確保する事とされ、昭和6年度からの補充計画で1400トン級16隻、発射管4門を有する1000トン級32隻、計48隻を6ヶ年で整備する事とされていた。しかし、1930年のロンドン海軍軍縮会議において補助艦艇の保有量にも制限が設けられたことで、巡洋艦以下の艦艇においてもアメリカに対抗できるだけの戦力を整える事が出来なくなった。そこで、少ない保有量の中で戦力を整えるために個艦性能を可能な限り向上させる事が求められ、いまだ計画段階にあった初春型もまた、設計を変更して大幅な兵装強化が図られる事になった。
このとき軍令部から艦政本部に対して示された要求は、基準排水量1400トン、速力37ノット、主砲5門、魚雷発射管9門、このほか各種装置は特型に準ずるものとする、というものだった。特型に比べて270トンも排水量が少ないにもかかわらず、特型に匹敵する性能を求めるもので、いきすぎた兵装の詰め込みに対して批判の声が上がったものの、結局この要求性能に沿って設計案がまとめられた。
1番艦初春の竣工は1933年9月のことである。主砲5門は連装砲塔二基、単装砲塔一基に収められ、そのうち連装一基、単装一基は艦橋前方に背負い式に搭載されて、艦隊直衛用として前方投射量を重視した配置になっていた。魚雷発射管9門は特型と同じく三連装発射管三基の配置となったが、初春型からの新装備として次発装填装置が加えられている。これは、次発魚雷を発射管の背後に備えておく装置で、魚雷の再装填までに要する時間を大幅に短縮する事が可能となっており、以後の日本駆逐艦における標準的な装備となった。だが、これらの兵装を1400トンの基準排水量で収めるために、船体寸度、及び重量が大きく削減され、特型に比べて小型化された船体の上に各種装備がひしめき合う状態になっていた。また、艦橋も特型後期艦と同様に各指揮所を雛壇型に重ねた大型のものが設けられており、煙突にいたっては、煤煙の逆流を防ぐために特型よりもさらに高さを増すなど、重心点を上昇させる要素ばかりがそろう結果となっている。ここから予想される復元性能の悪化についてはGM値の増大によって確保する事が可能とされており、船体長に比べて船体幅の広い艦となった。
しかし、公試運転においては、速力こそ最大37.5ノットと満足すべき数字を示したものの、旋回試験中に異常傾斜が生じるなど、復元性能の劣悪さを感じさせる事態が頻発している。このため急遽船体水線部にバルジを装着、GM値をさらに増大させて復元性能の改善が図られたが、初春の竣工から半年後の1934年3月、同じような設計思想で建造された水雷艇友鶴が転覆するという事故が起きた(友鶴事件)。この結果、重心が高くてもGM値によって復元性能を確保できる、という考え方にたいする欠陥が指摘され、初春型は緊急に性能改善工事を受ける事になった。この結果、バルジの撤去、三番連管の撤去と同連管用次発装填装置の撤去、前部単装砲塔の後部への移設、艦橋小型化、煙突の短縮などが行なわれ、これらの改善は当時竣工したばかりの若葉や初霜、建造中だった有明、夕暮にも施されている。これらの改善工事の結果、ようやく実用に耐えるとして艦隊に編入された初春型だったが、1935年9月に起きた第四艦隊事件によって船体強度への不安がもちあがり、再び改善工事が施されている。
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基準排水量
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1400t
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約1700t(個艦毎にバラツキあり)
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t
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公試排水量
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1680t
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約2069.7t(個艦毎にバラツキあり)
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t
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全長
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109.5m
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109.5m
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m
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全幅
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10m
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10m
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m
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機関出力
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42000hp
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42000hp
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42000hp
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最大速力
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36.5kt
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33〜35kt
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kt
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航続力
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4000海里/18kt
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4000海里/18kt
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4000海里/18kt
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兵装
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50口径12.7センチ連装砲2基
50口径12.7センチ単装砲1基 61センチ三連装魚雷発射管3基 |
50口径12.7センチ連装砲2基
50口径12.7センチ単装砲1基 61センチ三連装魚雷発射管2基 |
50口径12.7センチ連装砲2基
50口径12.7センチ単装砲1基 61センチ三連装魚雷発射管2基 |