航空母艦 加賀型(加賀 土佐)


 航空母艦加賀型の母体となったのは、八八艦隊計画において長門型に続く16インチ砲搭載艦の第二グループとして計画された戦艦加賀型である。当初は長門型の三、四番艦として建造されるはずだったが、第一次大戦中とあって予算がなかなか承認されず、着工が大幅に遅れた事から、その時間的余裕を利用して設計を大幅に改め、攻撃力、防御力を共に充実させることが図られたものである。技術革新によって機関関係の重量や容積を大幅に削減する事が可能になったためで、これと船体の延長によってできた艦内スペースに砲塔を一基追加し、装甲については傾斜装甲方式を日本で初めて採用していた。

 加賀型は両艦ともに1919年中に着工され、加賀は1920年末に、土佐は1921年初頭にそれぞれ進水、ワシントン海軍軍縮会議を見越して急ピッチで艤装が進められていたが、結局会議には間に合わず、未成艦として破棄されることになった。しかし、同時に未成戦艦(及び巡洋戦艦)の航空母艦への改装が一定の範囲内で認められており、日本はここに4隻を充てることが可能だった。そこで天城型の2隻(天城、赤城)と共に加賀型2隻も空母へと改装される事になった。本来加賀型はそのまま廃艦となり、天城型4隻が改装される事になっていたのだが、ワシントン海軍軍縮会議に間に合わないと判断された天城型三、四番艦の高雄と愛宕は竜骨を据え付けた段階でほとんど建造が放置されていた為に見送られた。軍縮会議開催中、日本が4隻の有力な大型高速空母を保有することにアメリカから非公式ながら懸念が伝えられた、とする記録もあり、いたずらに国際関係に緊張を招く事を避ける目的もあったもののようである。

 もっとも、加賀型の改造については赤城型以上の苦労が付きまとった。既に上部構造物の儀装が始まっていた事からもわかるように建造の進捗度が非常に高く、機関の据え付けや弾火薬庫等の配置も終了していた事から、改装にあたってはこうした船体内の再配置を行なう必要があるなど非常に手間のかかるものであった。また、既に取り付けが終了していた装甲についても空母としてはあまりにも厚すぎるもので、重量軽減の目的からも鋼鈑の再圧延が図られた。このような行為が認められたのは、軍縮条約において必然的に発生した仕事量の減少によって工員に多数の休業が出た事から、これら職員の雇用確保と同時に建造技術の維持を図る目的があった為である。また、他国が保有していた戦艦の航空母艦への改装枠が2隻であることから当面は赤城型によって制空権が確保できると判断されており、加賀型については先に竣工する天城型や他国の改装空母の動向を見た上でその建造案を決定する予定があった事も、竣工を急がなかった理由の一つであろう。

 航空母艦としての加賀型の設計がまとまったのは1926年のことである。天城型においては発艦時間の大幅な短縮を狙って三段式飛行甲板を採用したが、加賀型においては鳳翔をそのまま拡大した形の全通式一枚甲板が採用された。この背景には発艦時間の短縮と搭載機数の増加、どちらを重視するかで設計陣や軍令部の中で意見の衝突がいささか深刻な形で発生している現実があり、この両者を実際に運用して検討を行なおうとしたものである。なお、加賀型が全長、速力とも天城型に劣り、将来を見通した場合天城型に比べて早期に航空機運用能力の限界がくるのではないかという将来の展望に関する考察も理由の一つではないかと見られているが、そうであれば天城型の最上甲板の短さも問題になっているはずで、さすがにこの意見はうがちすぎであろう。ただ、速力が低かった事は確かで、既に船体が完成していた事から機関の換装は困難であると見なされて実施されておらず、戦艦時に予定されていた91000馬力の機関がそのまま搭載される事になった。そのため最大速力は天城型の30ノットに対して27.5ノットと、いくらか低いものになっている。 当時わずか三国しかなかった空母保有国のうち他の二国に倣ったわけだが、実際に運用してみると多数機を短時間で発艦させる事が可能であるとされた三段甲板は不都合ばかりが多く、アメリカ式の一枚甲板の方が空母としての機能性に優れている事が判明する。後に、空母艦載機すらも新設の空軍管轄として航空行政を艦政から完全に切り離したイギリスに倣って日本海軍でも航空機への傾倒に反発する空気が生まれるが、そのような意見が最終的に覆されたのもこの時の儀装方式に関わる議論が尾を引いての事であった。




新造時
第一次改装後後
第二次改装後
基準排水量
26900t
38200t
38200t
公試排水量
33693t
42541t
42541t
全長
230m
240.3m
240.3m
全幅
29.6m
32.5m
32.5m
機関出力
91000hp
138000hp
138000hp
最大速力
27.5kt
29.6kt
30kt
航続力
10000海里/16kt
9700海里18kt
9700海里/18kt
兵装
50口径20センチ単装砲8基
40口径12センチ連装高角砲6基
航空機60機
50口径20センチ単装砲8基
40口径12.7センチ連装高角砲6基
航空機/常用72機、補用18機
50口径20センチ単装砲8基
65口径10センチ連装高角砲6基
航空機/常用80機、補用16機


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