1839峰の彼方に・・・
〜転換点をむかえる〜

      2009年9月19日〜21日 同行者: 札幌山びこ山友会
 すでに秋の気配が漂うなか、ぼくたちは1839峰に向かう。陽射しは強く、水はまだぬるみ夏の面影をそのきらめきのなかにあらわしている。

 これまでの挑戦は雨が降ったためすべて撤退を余儀なくされた。一緒に歩く仲間もそうである。ODASHIさんは、すでに2回、1839峰に登ったがいずれもすっきりとしない天気のなかで、ほとんど展望もない状態だった。OOSAWさんは2年前も諦め、そして、今年の7月のときも雨によりコイカクの夏尾根で撤退している。TADOさんとIIZIMさんは初の挑戦である。
 一人ひとりの想いの重なりのなかで、天はその意を汲んでくれたのか・・・。そして、ぼくにとっても、大切な山行となった。
 山が呼びかけてくる。「あなたは変わるときです」と・・・。

コイカクシュサツナイ川を歩く・・・


 上二股で沢靴をぬぎ、急登の尾根をあがる。4時間以上をかけて、ゆっくりと夏尾根の頭に向かう。
この急登は一挙に千mもあがり、その平均斜度は30度を越えると聞いている。日高の数ある山のなかでも、そのきつさは随一かもしれない。


 見れば南に1823峰が佇み、その向こうにカムエクからの南西稜だろうか・・・。そして、手前の稜線は一月前にカムエクからの縦走で歩いた小径・・・藪だらけのネ。


 もうすぐ、夏尾根に着く。ここまで来るとかなり気持ちは楽になる。長い時間の辛いのぼりはもう終わりなのだ。そして、そこからは、目指す頂が広がっているに違いない。


 これが日高なのだ。コイカクの険しさを知れ!


 ついに、コイカクの夏尾根に着いた。そこにはすでにテントがひとはり。そして、その向こうには1839峰が何食わぬ顔で佇んでいる。けっして、その姿を顕示するのでもなく、ただ、ひとつの山としてそこにある。
 静かで穏やかなる風景が広がる・・・。


 しかし、ドラマは始まるのだ。
 日が射し、雲がわき、風が流れる。太古の昔から続いてきた絵姿を一瞬にして述べつくす。
 君は見ているのか?君との約束は今から始まる光景のうちに開かれる。


 光は動き、山々のいのちを伝える。君はしっかりと覚えておいてほしい。連綿と続くいのちの流れ、それは君のいのちと源は同じだということを。


 1839峰が呼びかけてくる。君は明日ここに来るだろう。そのとき、君は知る。それは、君の目覚めの合図となる。


 光と風のなかに雲は舞う。


 雲は起ち、大いなる存在のエネルギーの大きさ・広がり・・・すべてを物語る。そして、この姿をしっかりとその目に焼きつけて欲しい。その心に深く刻みこんでほしい。


 二日目の朝、1839峰に向かう日、劇の幕はあがったのだ。


 まずはヤオロめざして行こう。雲がこの世とあの世をわけ隔てている。道は拓かれた・・・。


 コイカク夏尾根のテン場が見える。右手の白いテントがぼくたちのパーティのものだ。そして、遠くにはカムエクが聳え立つ。


 「我、ここにあり・・・」1839峰が、はじめて自らの存在を知らしめる。


 近づく1839峰。ときおりガスが流れ、その姿を隠し、また、現われる。


 近づきつつあるも、そのピークまではどれほどの歩みが必要なのだろうか。しかし、行かねばならぬ。そこへ行って確かめなければならない。


 来し方を見れば、カムエクがその姿を見せているではないか。


 ヤオロはとうに過ぎた。目指すピークはそう遠くない。到達できる想いで心が打ち震える。


 はるかナナシ沢を見おろせば、すでに秋色がきらびやかに映えているではないか。


 1839峰の前峰の手前から顧みるヤオロ方面。ずいぶんと歩いてきた。


 前峰がある。そして、1839峰はガスに隠れているが、もうそこだ。
一人ひとりの想いを載せて、風は吹いている。


 そう、目の前にくっきりと山は浮かぶ。あたかも、「待っていました・・・」と微笑みながら話かけてくるかのごとく。
 そして、新しい世界が始まる。それは宇宙と人間との間に繋がる理の体現。これは偶然ではない。1839という数字のもつ意味を、後から知ることになる。


 帰りみち。あらためて振り返る。そこには無言の響きを発するその山があった。


 三日目。下界に降りる日の早朝。気温は零度までさがる。





 すべてが懐かしい。すべては理のままに動いている。ぼくらのいのちもまたそうなのだ。
あの世との邂逅。肉体のままにして、霊的な世界との邂逅。

                              (了)


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