小漁山(2009)
〜念願のピークを踏む〜

2009年2月28日〜3月1日 テント泊 同行者: さっぽろやまびこ山友会 
 昨年、小漁山に向かいながらも、1128Pのポコで時間ぎれで撤退したそのリベンジであった。
そして、今回のメンバーの主役は、言うまでもなく5回目の挑戦となるARAさんである。天候悪化、アクシデント、時間ぎれ等の様々な原因によって、今度こそは、という意気込み高く臨んだ。

 今回はSHIMさん、TAKさんという屈指のメンバーも参加し、かつ、昨年も一緒だったリーダーのKINOさんと僕で総勢5名で向かったのである。
 SHIMさん、TAKさんは、実はARAさんと一回目のトライも一緒であり、そのときも1128Pポコを超えるあたりまで進んだものの悪天によって撤退せざるをえなかった。
 さらに、今回はまちがいなくピークに到達するために余裕持って行動する保証としてテント泊の設定をしたのである。オコタンペ湖を通り湿地帯も歩くという行程では、いろいろなトラブルが起きる可能性がある。昨年も湿地帯の通過ではスキーのシールが濡れてしまい、その対応で少なからずの時間をとられた。また、狭い急斜面のジグでは雪質も原因してスムーズに登れなかった。
 日帰りで往復するためには、すべてがスムーズに進むということが前提となるが、厳冬期の冬山では何が起きるか想定できないのである。

 車をオコタンペ分岐に置き、展望台への道路を歩く。途中、オコタンペ山へ行ってきたという単独の方とすれ違う。この三角点のある山も、インターネットで紹介されてから随分と人が歩くようになった。

 展望台からははっきりと小漁山〜漁岳の稜線が窺える。

 昨年と同じように展望台から少し歩いて、湖への傾斜が緩んだあたりから降りる。今日は素晴らしい天気だ。明日も同じ天気ならあの輝くピークに立つことができるだろう。

 さらに漁岳もすっきりと見える。真っ白く覆われたこの山も美しい。多くの人が憧れる山だ。今日も漁岳林道の入口には数台の車が停まっていたから、この山に向かった人もいるのだろう。

 オコタンペ湖の上では、テントを張り魚を釣っていたらしい二人連れがいた。そして、湖の上にはけっこう足跡があって、人が入っているようだ。

 オコタンペ湖を渡り終えたあたりから眺める恵庭岳。冬にこの山を歩くには、写真の左手の尾根を使い、山頂直下をトラバースしながら上がると聞いた。このルートは僕もまだ未踏でそのうち歩いてみたいが、トラバースは結構怖そうである。行ってみないとわからないが、雪がどのような状態で張り付いているかが鍵となりそうだ。

 湿原を超え周囲が次第に狭まり沢状の地形に入っていく。昨年のルートと比べるといくらか北側を歩いている。たしかに、この方が出発点からみれば、一直線で無駄のないルートとりのようだ。小沢もあるがスノーブリッジも大丈夫である。
 結局、予定よりも沢の奥に入り、標高700mあたりにテントの設営となる。C1だ。皆、冬場のテント泊も慣れたメンバーばかりだから、スムーズに出来上がっていく。トイレづくりも始まるが、トイレに厳しいARAさんが目を光らせる。

 テント泊はいつも楽しい。とはいっても、この日の僕は、腹具合がよくない。それで、美味しいカレーライスもほんのわずかしか食べられない。
 特筆すべきなのは、生米をもっていって、コッヘルで弱火にして一時間くらいかけると、なんと、素晴らしい御飯が炊き上がる。このすべてをKINOさんが「監督」している。
 ろうそくの火が微かに揺れるのも、また情緒がある。
 僕はほとんど飲めないが、ビール、日本酒などがだされて、味わいながら胃袋におさまっていく。外に出ると小雪が舞っているが、きらきら輝く星空が明日の晴天を約束している。

 朝5時に起床する。ぐっすりと眠れた。
 今回はエアーマットは持たずに、ロールマットを持ってきたのだった。たしかに、ロールマットはかさばるから、ザックにくくりつけるのは面倒なのだが、地面からの冷えを防ぐには、エアーマットより有効なのではないか、という仮説を検証しょうと思ったのである。エアーマットでは、中の空気が地面からの冷気で循環して決して暖かくはないという記事を読んだのだ。

 お茶漬けを食べて7時にテン場を出発する。ここから一挙に1100まで急斜面を登ることになる。当然、雪崩を警戒してのピットチェックをおこなう。新雪の下約20cmにいくらか固いしまり雪(?)の層があり、さらに30cm下にしもざらめの固い層がある。なかなかに難しい雪で急斜面でもあるから、各自接近しての歩きは厳禁である。
 ところで、ARAさんは北海道雪崩研究会の講師でもある。70歳を過ぎて冬山それもヒマラヤも含めて活発に活動している女性は少ないと思う。登山者の鑑のような人なのだ。

 昨年のルートより東側を登り、地形図にもある小さな沼のほとりから1128Pポコをどう攻略するか考える。
 SHIMさん、KINOさんは、そのポコの下をトラバースして、1128Pの北側に出ようと言う。一箇所だけ崖斜面を登ることのできる場所があるのだ。
 実はこのトラバースは昨年も考えた。その一箇所も確認していたが、そのときは雪が少なくて、崖斜面を這い上がることは不可能だと判断したのだ。でも、今年は雪が多く埋まっている。
 そして、二人がトラバースを先行する。見ている方もハラハラしてしまう。

 次の写真は、昨年の1128Pの雪庇の状態である。さて、どうだろうか?雪は少ないものの、大丈夫そうにも見えるのだが・・・。

 トラバースを終えて、稜線に戻ったところからの1128Pである。上は細尾根となっていて、スキーで歩くには怖い斜面だった。風と雪があるときは、ここで撤退するのはやむをえないと思う。西側も相当な急斜面になっているから、滑落したらかなり下まで落ちるかもしれない。

 ここからは順調に登る。隣の漁岳が光る。
それにしても、標高が高くなると晴れているとはいっても、天候はそれなりに厳しくなってくる。風が違う。体感温度も下がってくる。ひとくちに冬山だからといっても、たしかにそうだが、あらためてその厳しさを識ることになる。

 着いた!小漁山ピークに!
ARAさんにとっては5回目の挑戦での嬉しいピーク。もちろん、ほかのメンバー、僕も初のピークだ。それも、厳冬期に登れたのだ。たしかに、4月〜5月の残雪期なら漁岳経由で難しくなくこのピークに立つことはできるだろう。しかし、そんな楽な登山をしていいのだろうか?それこそ、どんな山に登ったか、ではなくて、どんな山に、いつ、どんな条件のときに登ったのか、ということではないか?
 実は次の写真は編集の際に明るく設定している。でないとかなり暗いのだ。

 小漁山から降りてきたところから振り返って見た。厳しい世界のなかで、しかし、だからこそ美しいのだろうか?冬山に登るということは、美しさを求めるということだけど、それは、同時に僕らの心のなかに厳しさも求める、厳しさのなかに包まれることを欲しているのかもしれない。



 原始の雰囲気を漂わせている湿地帯。どの木も年輪を重ね生きてきた風格をもっている。このなかを歩いているとき、人は世界のあらゆるいのちによって生かされていることを感じる。



 



                               (了)


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