日本山岳会の分水嶺踏査に参加して(1)
〜果てしない分水嶺〜

平成16年〜17年 いずれも積雪期 同行者: 日本山岳会メンバー
 山歩きのなかで何年かたってのちに振り返ったときに、大切な経験として思いおこされるものがいくつかある。そのなかの一つに日本山岳会が実施した分水嶺踏査がある。

 北海道の最北端である宗谷岬の先端から南は九州鹿児島の最南端まで、数年かけて多くの岳人がその分水嶺を歩き通したのである。それは想像以上に困難なみちのりであっと思う。
 北海道においてもこの広大な土地の中央分水嶺は約1132kmにおよび、この踏査に参加した人数は延べ968人と報告されている。
 分水嶺のほとんどが未知の領域であり、したがって過去の記録に残されているものはほとんどなかったのではないかと思う。
日本山岳会には周知のように様々な山岳会の岳人たちが集っている。だから、あらゆる記録を調べながら踏査の計画を練ったのだろう。これだけでも相当の労力を使ったものと思う。

 ぼく自身はわずか8回のみの参加であり、実際に歩いた距離もあえてここに載せるほどのものではない。加えて、高澤 光雄氏、京極 紘一氏、安田 成男氏以下そうそうたる方々が率先して歩いていることを聞けば、まだまだ未熟の自分が「踏査した」なんて大きな声で言えるはずもない。

 ところで、今やどんな情報でもたやすく手に入る時代になった。山歩きについてもガイド本やインターネットを使って、山を詳細に調べてから行くこともできる。しかし、これは率直にいってつまらないのではないか。この先に何があるのかわからないから、それを知る期待に胸ふくらませて歩くことが面白いのではないか。むろん、期待だけではなく、不安と恐怖もあわせもっているのだが・・・。

(その1)オサワ信号所から北の分水嶺

 ぼくが踏査した地域は、ひとつは穂別町の穂別ダムの北側に位置する分水嶺がある。

 <地図へ>

 上の地図では、赤線のトラックは二度目の実際の踏査ルートである。緑のトラックは最初の踏査の予定ルートで実際にはたしか標高448mあたりまで行っているはずだ。
 どちらも低山帯なのだが、等高線ではわかりずらい細かな尾根があちこちに派生しており、2万5千の地形図だけでは到底歩けなかっただろう。経験豊かなY.Hasegawa氏とK.Yokosuka氏そしてGPSがあればこそ歩けた。帰り道の林道では日が暮れて1月という厳寒期にもかかわらず雨が降り、まったくの暗闇のなかをとぼとぼ歩いた記憶が懐かしくもある。

(その2)夕張〜穂別 登川トンネルから南西側の分水嶺

 夕張市と穂別町の境の分水嶺についての情報は調べてもまずなかった。そりゃそうだろう、この辺はせいぜい高くて600mぐらいの低山地帯で名のある山はほとんどなく、三角点名があるだけの稜線なのだ。山を歩く人もほとんど登山対象の地域とはみなしてはいないだろうと思う。しかし、意外におもしろい稜線歩きとなる。当然、積雪期にしか歩けないがもともと雪の少ないところであり苦労する。

 踏査は平成16年2月1日とその翌年の平成17年2月26〜27日の一泊二日の雪中泊である。この二回の踏査で国道274号線の登川トンネル付近から続く分水嶺を、夕張市滝の上地区からのチョボツナイ川の源頭にある標高点577mまでをつないだのだった。分水嶺そのものはここからクオベツ山へと続いていく。

 最初の踏査では登川トンネルの穂別側の駐車場から一気に稜線に上がった。かなりの急斜面でスキーをはずし、落ちないように支えとしながら登った。
 分水嶺の稜線は低山帯にもかかわらず、西側へのほとんど垂直に落ち込むような崖が印象的だった。少なくとも100mはあるだろう。樹木が生えているけど、落ちてもけっして支えてはくれないだろう(笑)。

 そしてまた稜線は総じて広くはないしアップダウンがきついのだ。山スキーで登るのはそれほど問題はないとしても降りるのが辛い。塞ぐように倒木があり、藪がある。ましてや、もともとこのあたりはそれほど雪の多いところではないから歩きづらい。山スキーには向いていないところだ。

 ただ、これだけ細くきりたった稜線だけに分水嶺そのものはわかりやすい。支稜線も少なく間違うことはない。ただ、地形図ではつながっているはずなのに、ほとんど崖のような斜面があって数十m降りてまた登りかえさなければならない、なんてところもあった。いったい、これは分水嶺といってもいいのかと疑問に思ったが、考えてみれば、崖の下に降った雨も当然どちらかに流れていくわけで、それは日本海か太平洋かのどちらかしかないわけである。これでも、やはり、分水嶺なのだ。
 この崖は、当然スキーをはずして降りるものだと思ったら、なんとK.Nakamura氏はそのまま降りていった・・・。もちろん、ぼくはスキーをはずして雪まみれになりながら降りた。

 かなたに三角錐の美しい山が見えた。あれは標高640m無名峰なのだろうと思った。であれば、必ずあの山に行かねばならぬと誓った。白い稜線のなかでそのピークがひときわ高くそして気高く感じた。青空が目に沁みる。 (つづく)

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