愛山溪温泉から愛別岳周遊
〜大雪の紅葉を狙っていたのだが・・・〜

    2008年9月21日 同行者: 札幌山びこ山友会
 大雪の紅葉は日本一美しいといわれている。しかし、僕はその美しい紅葉はまだ見たことがない。数年前に訪れた高原温泉からの沼めぐりも雨が落ちてくるような空でその素晴らしさを味わうまでには至らなかった。
 今回、O会長とI氏と三人でその紅葉の大雪に向かったのである。ただ、入ってくる情報は、今年の紅葉はイマイチというものばかり。

 まず、一日目は愛山溪温泉から沼ノ平を経て、当麻乗越から当麻岳、愛別岳、比布岳そこから戻って永山岳を経て愛山溪温泉に戻ってくるというルートである。
  
 当日の早朝、愛山溪温泉に着くと、天気も良くこれからの山行にも期待のもてるはじまりだった。
ぼくは久しぶりの山歩きだった。7月にコイカクメナシュンベツ川からの楽古岳の沢登りで右手小指を怪我して以来である。だから、健脚で鳴る二人についていくことができるか一番の心配はそこにあった。
 沼の平へは部分的にやや急な斜面が続き、日高よりはずっと楽であるはずの歩きがこんなに辛く苦しかったのかと思わずにはいられなかった。そして、やはり、二人は余裕をもってズンズン進んでいった。けれども、ありがたいことにところどころで気を遣ってもらい待っていてくれていた・・・。
 そして、沼の平に着き目の前にがった景色は・・・やはり、紅葉はくすんでなんとも秋にもなりきれず、さりとて夏からも脱しきれない姿が広がっていたのであった。

 沼のあちこちを移ろいながら、道は次第に登りとなり当麻乗越に向かう。
あまり楽しめない紅葉という情報が伝わっているのか、歩く人も少なくところどころに一眼レフと三脚を携えた登山者がいるぐらいで、ひっそりとした山歩きであった。

 きっと最盛期の紅葉はこんなものではないだろうと想いつつ、しかし、紅葉がそれなりだからといってどうのこうの不満を言うのは、この大雪に対して礼儀を欠く心と態度ではないかと考える。
 そのときでしか味わえない何かがあるのであり、また、このような風景を見せていただくのも何かの意味をもって呼びかけてきているのだと思えば、逆にその問いに答えなければならないのだろう。
 それにしても、会長と氏はたんたんと歩いていく。二人とも日帰りにしては、それ以上の装備をザックに積めているのだろう。多分、50リットル以上の大きさだ。


 だんだん高度を上げていくと、当然ながら沼々が小さくなりだす。そして、ところどころに「朱」が目立ちはじめることになる。
 夏の面影がしっかりと残っているなかでの、突然の秋色はそれはそれで鮮やかに目に飛び込んでくる。もう、ここまで来ると行き交う登山者もほとんどいない。
 我々は当麻岳を目指していく。ぼくにとっても、ここいらは始めて歩く領域だ。

 だんだんと高みに上がっていく。眼下には箱庭のごとくなりきれない秋が広がっている。そして、その向こうには御鉢平が隠れているに違いない。
 みちに関係なく歩ける季節はやはり5月となるだろうか?であったとしても、この高地はそんなにあまいものではなさそうだ。
 充分なる装備と食料そして予備日も含めた日数が前提となるだろう。



 当麻岳のピークから来し方を見る。
ところで、この当麻岳ピークは意外と地味な山であって、うっかりすると見過ごして通り過ぎてしまう。しかし、そこからの眺望は絶景であって、これを見ずして何を見る・・・と言ってもよいのではないか。
 ここから、みちは稜線上を歩くことになり、安足間岳に向かうことになる。そして、今日の目標の一つの愛別岳へと歩みを進めることになる。
 広々とした稜線歩きはとても気持ちがいいものだ。もちろん、天候に恵まれていることが一番だ。ガスのなかなら、もっとも、つまらないものになってしまうに違いない。


 これも、当麻岳ピークからの熊ヶ岳、旭岳方向だ。


 そろそろ、愛別岳が近くなってきた。風もなくのどかな秋の稜線歩き。空気はどこまでも澄み、寒くもなくほどよい暖かさのなかで、何一つ苦にすることもない。こんな良い日に山歩きができて、まったくこれは神様のおかげではないかと感謝したくなる。
 そういえば、感謝は義務的にすることなのではなく、おのずと自らの心のうちから湧き出てくるものである、という言葉を思い出した。


 いよいよ、愛別岳への分岐となる。滑りやすい急斜面を降っていくのだが、普通どおり確実に歩いていけば、何も難しいところもなく危険なところもない。ただ、ひたむきに地面と対話しつつ足を運ぶだけのことかもしれない。


 一見、細尾根のように見えるが実はかなり広い。雄大な景色に見ほれて転んで怪我しないように歩く必要はあるけれど。
 それで、愛別のピークまではそれなりの距離がある。すぐ着くようにも思えたがそうは問屋はおろさない・・・。


 見渡せば降りてきた稜線の高さに驚かされる。大雪の山のなかで荒々しい場所のなかの一つといってよいのだろう。いや、大雪は2千mの領域にあがれば広々とした高原だが周囲は大きく険しい壁なのだ。また、それが魅力のひとつなのだろう。たとえば、黒岳は七合目から登山道を歩き、ピークに到達する。そのピークはたしかに、1984mの高みにあるのだが、そこからの眺望ははるか遠くまで広がる高原に目をみはる。それはまさしく別世界。別次元の空気が漂っている。


 愛別岳のピークを踏み、再びみちを戻る。そのとき、凌雲岳とその向こうに黒岳の姿が垣間見える。
歩いたとしたら4時間程度で着くだろうか。のんびりと歩くにはうってつけのみちかもしれない。
そういえば久しく黒岳のテン場におじゃましていない。たまには、暇つぶしでいいかもしれない。ただし、今日はこれから比布岳に行き、愛山溪温泉に降りなければならない。今日の宿はあの黒岳の麓の駐車場でテン泊だ。


 稜線に戻る帰り道もそれなりに遠く感じてしまう。そして、その高いこと。ピークで会った軽装の方はランニングしながらの登山だという。相当脚力のある方のようで、ピークを我々よりもいくらか早く出発したが、見る間に遠ざかってしまった。



 多少疲れ気味の僕はそれでもなんとか稜線に戻るための最後の壁を歩く。先行する二人のスピードも早くてついていけない。しかし、絶対の安心感に包まれている僕には何の不安もない。
 足元も意外に滑らず、もちろん歩きやすいとはいえないがこんなものだろうと思っている。


 永山岳のピークから降りてくると再び沼の平が見える場所となる。ここは何年か前に会社の山仲間とも来たところである。そのときは、永山岳のピーク付近はガスに覆われていて、全く何も見えなかった。そのガスは晴れる気配もなくそこで引き返すことにしたのだ。
 この場所は草紅葉の美しいところであって、誰もがここからの写真を撮るようだ。
 ここから愛山溪温泉へと沢コースを歩いていくのだが、まだまだその距離はあり夕方になるのは想像できた。しかし、危険なところはなく注意深くまちがいのない一歩一歩を積み重ねればおのずと登山口に着く。
 やはり、山のスケールと美しさは大雪と日高が双璧をなすようだ。この北海道に生まれてこれらの山を歩くことをゆるされたその感謝と恩恵を大いなる自然、神様にささげよう。
                               (了)


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