沢からのトムラウシ

地獄谷〜ワセダ沢〜ヒサゴ沢を歩く

平成18年8月11日〜13日  同行者: 札幌やまびこ山友会 3名
 夏は(平成18年)には、トムラウシに行って来た。
トムラウシ川本流から歩き出し地獄谷で一泊し、二日目はワセダ沢を遡行しトムラピークを経てヒサゴ沼でテン泊、最終日はヒサゴ沢を下降しトムラウシ川を出発点まで戻る、という道程である。
 同行者はぼくの所属している山岳会の仲間でみんな沢登りに熟練したエキスパートばかりである。
 
 ぼく自身はもう何年も前からこの「地獄谷」に来たかった。川のふちに温泉が涌き出し、地熱の暖かさでテントで寝るにしても心地良く眠れる場所は、他にはそうないだろう。条件が良ければ、焚き火もできる、魚も釣れる・・・。

 札幌を早朝に出発した僕らのパーティは車を順調に走らせトムラウシ温泉に着く。少し休憩ののち、林道に入る。トムラウシへの短縮登山口への道を過ぎいよいよ奥に踏み入る。
 西沢・・・場所がわからなかったのだが、ここを越えると道路の両側の笹がかぶりだす。何台か駐車できるスペースがある場所を過ぎるとすぐに倒木が道を塞いでおり、ここで車を置く。この駐車地点から本流の入渓地点までは歩いて10分程度だった。

 沢は水量が多い。両岸にもけっこう巻き道がついている。沢そのものは滝もなく難しいところもない。
途中にはテン場もあり、焚き火のあともある。それなりに人も入っていることが窺える。釣り人も来ていると聞いた。
 約3時間ほど歩くと右岸から沢が入り込んでくる。明日以降、遡行するワセダ沢とヒサゴ沢に連なる沢である。両岸が狭くなり、滑状になってくると硫黄の臭いが鼻につきだした。地獄谷が近い。

 しかし、残念ながら「地獄谷」のその日は霧雨だった。
テン場はかなり広く、おまけにスコップやバケツまで用意されている。テン場の奥への小道を歩いていくと、熱湯が大きく湧き出しているところがある。触れたら火傷だけではすまないほどの規模だ。
 沢のすぐ傍に小さな”風呂”がある。さきほどのスコップで掘らないといけない。かなの熱いお湯だから川の水を入れる。油断するとすぐ熱くなるし、素足もけっこう辛いものがある。

 熱めのお湯に浸かりながら、また、ここに来ねばならぬと誓った。その所為か写真を撮るのを忘れてしまった(~_~;)。
 シュラフに潜り込むと地熱がぼくの身体を包み込むようだった。大自然の懐に抱かれているように感じた。

 翌日はワセダ沢を歩く。心配した天気も急速に良くなり、青空が広がる。
ほんとに小さなワセダ沢はその分岐を見落としてもしかたがないほどの沢だ。しかも、その手前で、広がる大量の倒木のなかを乗り越えまたぎ、あるときはその倒木を一本橋を渡るように歩いてきた僕たちにとって、ほんとうにささやかな沢だった。
 リーダーは地図とGPSとで確認しこの沢に入る。

 この沢の記憶があまりないのだ。印象に残るような滝もなく、ザイルをだしたかさえ記憶のかなたにいってしまった。
 しかし、水流がほとんどなくなったあたりからの眺望はすばらしかったのである。
 ある人は北海道の沢のベスト3に、このワセダ沢をあげる。クワゥンナイ、ヌビナイとこの沢だ。それぞれ、美しい沢として名高い。

来し方を見る・・・

 源頭部をつめていくと北沼の縦走路にとびでる。そこはなんとものどかな景色がある。風に小さく波をたてながら佇んでいる北沼が広がる。

 それから、疲れた体をしばし休め、トムラウシのピークに立つ。
 写真はピークから山座同定する仲間。

さて、ここからヒサゴ沼までは二時間くらいだろうか・・・。

 
 ヒサゴ沼は青く澄んで美しい。
この美しさのほとりに佇んでいると次元の違う世界を訪れているような感覚になってくる。

 テン場には学生のパーティをはじめとして多くの人がきていた。(ちなみに、この学生たちは翌朝二時から起きて出発していった)。

 最終日はヒサゴ沢の下降である。まず、下降口までの藪漕ぎに苦しめられる。また、ヒサゴ沼からの水が小川となっているはずなのに澱んでいるだけなのだ。ところどころ、水がまったくない。
 ところが、平坦地から急な沢への降り口にくると、それまで姿を見せなかった水が迸るように流れている。

 この沢には大きな滝がいくつかある。ぼくの技術では滝の下降は無理なので、どれもこれも急斜面のトラバースをしてからの懸垂下降である。

 下の写真の滝は右岸から懸垂下降して降りた。

 リーダーと二人のメンバーの巧みな技がさえる。

 トムラウシ川との合流地点まで戻るとあとはひたすら歩くのみである。
天気は下降ぎみで雨も降り出した。川はいったん雨が降ると濁りだし渡渉すべきところを見出すのが困難になる。場合によっては大きく高巻かねばならないだろう。
 けれども、さすがにリーダーをはじめとして慎重に確実に判断し実行していく。

 実は山で三日間歩いたのは初めてである。そしてかけがえのない体験を得た。これほどまでに自然のなかに浸りきったことはなかっただろう。

 人は経験した記憶はいつかさりげなく消えていくのだろうか?どれだけ文章や写真に表しても表しきれないもどかしさを感じる。
 ぼくは深く味わい尽くされた記憶は永遠に残っていくと信じたい。(了)


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