届かなかったトヨニ岳

〜南日高の春〜

平成19年4月29日 前日夜車中泊 同行者: 息子
 息子が南日高のトヨニ岳に行ってみたいとのことで前日夜に札幌を出発する。車を天馬街道の駐車場に停めて寝ることにした。ここには快適なトイレもある。

 翌朝、野塚トンネルの北側駐車場に車を停めて、朝6時10分に歩き出す。目指す稜線はトンネル側にやや戻ってまだ雪に埋もれている沢を越えていくのだ。

 日高の急登が始まる。かすかに先日以前のトレースがある。朝まだ早いからそれほど雪には埋まらない。かといってクラストしているわけでもないから、アイゼンはつけないで歩く。ガスがかかっており、視界はあまりよくない。予報では晴れてくるということだったので、これを期待して歩みをすすめる。


 写真は標高約770m地点の傾斜が緩まったあたりである。このあたりは尾根もそれほど細いわけではなく歩きやすい。そして、標高をどんどん稼げるところでもある。
 
 標高1100mを過ぎて雪庇を乗り越え稜線に飛び出る。ガスはまだまだあるものの、少しずつ流れ見えてくる範囲が広がってきた。これは楽しみだ。
 稜線のアップダウンをいくつもこえながら歩みを進める。トヨニのピーク付近もそのうちに見えるようになるだろう。



 風がガスを追い払い目指すピークの一角が見えてくる。これが日高だ、と言わんばかりにその姿を見せてくれる。これを待っていたのだ。

 僕たちは午前10時前に1322mピークの手前のテン場跡につき、ピッケルとアイゼン仕様にきりかえる。トヨニ南峰までは標高差約170m。遠くはない。

 ところが、1322ピークを過ぎて岩場に着くと激しい風が吹いている。氷の塊りが風にのって飛んでくる。これはどうしたものか・・・。
 息子はこのようなシチュエーションの経験は少ない。くわえて、まもなく、妻の両親、妻の弟家族とのメモリアル旅行を控えている。妻からは旅行があるので絶対に怪我をしないようにと釘をさされて出てきた経緯もある。万に一つでも事故は許されない。

 しばらく停滞して様子をみることにした。しかも、後方からはひとつのパーテイが近づいてきている。

 そのパーテイは小樽のZ氏だった。ピリカヌプリまでいくという。ちょうど、やや風が弱くなったときでもあり、三人は進んでいった。

 息子も行きたかったのに違いない。もちろん、ぼくも行きたかった。でも、今回はやめておこう。父と息子がもし事故を起こしたら残された者の悲しみは想像だにしたくない。



 写真はトヨニ南峰にむかう小樽のZバーテイ。
行けなくはなったが、この山のこのかたちをしっかりと焼き付けておこう。また、来年ここに来よう。



 来し方を見る。何もかもが美しい。

 息子は何度も何度も振り返りながら歩いていた。もう少しで手の届く範囲でありながら止めたのが残念だったのだろう。でも、チャンスはまたあるさ。



 少しずつ降り口に近づいてきた。それにしても、山はなにもかもが美しい。(了)


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