「リハビリ」って誰でも簡単に口にしていますけど、すごく奥の深いものなんです。
リハビリテーション(rehabilitation)とは「訓練」と言う意味だと思われがちですが、この言葉はラテン語のハビリス(habilis)と言う「適した、(人間に)ふさわしい」と言う意味の形容詞を語幹にした言葉です。
人間が何らかの原因で人間にふさわしくない(望ましくない)状態に陥った時に、そこから救い出して、ふたたびふさわしい状態に復帰させる、と言う意味を持っています。
歴史的にも中世のヨーロッパから「身分・地位・資格の回復」「破門の取り消し」などの意味で使われていて、近代では「無実の罪の取り消し」「名誉回復」「権利の回復(復権)」などの意味にも広がって現代に入ると犯罪者の「更生」「社会復帰」などの意味にも使われるようになりました。要するに「権利・名誉・資格の回復」と言う人間全体の価値または尊厳に関わるような重大な意味を持つ言葉です。
リハビリテーションの定義
* Krusen博士
リハビリテーションとは、患者が身体的、心理的、精神的、社会的、職業的にその正常な生活が営めるように、そのポテンシャル(可能性)を最大限に発揮する事を目的として治療訓練をする事である。
* WHO,1969年
医学的、社会的、教育的、職業的手段の組み合わせ、かつ相互に調整して訓練あるいは再訓練する事によって、障害者の機能的能力を可能な最高レベルに、達せしめる事。
* 障害者インターナショナル・上田 敏 訳 1981年
身体的、精神的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能にする事によって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していく事を目指し、かつ時間を限定したプロセスであると表現している。
身体障害者リハビリテーションの推移
1.無視冷遇時代(古代) 農業・漁業
2.被護救済時代(中世・宗教) 弱音
3.リハビリテーション時代(第二次世界大戦以降)
4.1945年以後近代リハビリテーション
戦傷者の社会復帰
医学的リハビリテーション:日常生活動作(ADL)
職業的リハビリテーション:一般雇用
社会・心理的リハビリテーション:施設収容、経済的援助、家族間の調整
5.1973年リハビリテーション法アメリカ議会通過
1981年国際障害者年(完全参加と平等)
Independent Livings(自立生活)
ADL〜QOL(生活の質向上)
リハビリテーション医学の歴史
1741年 内科医のニコラ・アンドレの著書で身体の変形を装具により矯正することが可能である事を強調し、それをオルトペディー(Orthopedie)と呼んだ。これが今日の整形外科学の語の起源である。
1780年 軍医として一生を過ごしたティソーJ.C.Tissotは「内科的および外科的体操」(Gymnastique Medicinale et Chirurgicale)という大著を出版した。これは優れた臨床的洞察に満ちており、既に褥創の予防法や作業療法(仕事と遊びの治療的応用)についても述べられていた。
1821年 デルペッシュJ.M.Delpechは整形外科医のパイオニアの一人であるが、脊柱側彎の少女のための学校を設立した。これは大きな体育館を備え、最初のリハビリテーション・センターと呼んでよいものであった。
1887年 神経内科医のフレンケルH.S.Frenkelは多数の脊髄疾患者を診ているうちに指鼻試験を繰り返し練習して改善した例を経験し、この治療体操の体系を生み出し1889年にそれを発表した。これは現在でも一部で行われている失調症に対する治療体操である。
フュルジャンス・レイモンFulgence Raymond(1844〜1910)
サルペトリエール病院におけるシャルコーJ.M.Charcotの後継者であったが、フレンケルの業績に感銘を受けてサルペトリエール病院に運動療法室を設立したのがおそらく病院における運動療法室の最初のものである。レイモンはここで行った訓練を機能的再教育(reeducation fonctionnelle)と呼んだ。
1917年 第一次世界大戦の際にアメリカ陸軍軍医総監部の下に「身体再建およびリハビリテーション部門」(Division of Physical Reconstruction and Rehabilitation)が設けられ、モックH.E.Mock軍医大佐が責任者となった。これは医学の世界で「リハビリテーション」の語が使われたほとんど最初のことであった。
1920年 職業的リハビリテーション活動を促進するためのスミス・フェスSmith−Fess法が出されている。
1926年 前記のモックが「物理療法アーカイヴ」誌に初めて初めてリハビリテーションの語を用いて、総合的なアプローチの重要性を強調している。
1945年 ジョージ・ディーバーGeorge G.Deaverと理学療法士のブラウン女史Eleanor Brownと共に「松葉杖の挑戦」(The Challenge of Crutches) と「日常生活に必要な身体機能ー日常生活動作」(The Physical Daily Life−The Activities of Daily Living)という2冊の名著を書いた。これは現代のリハビリテーション医学の医療技術面での礎石を置いたもので、それまでの医学で「生命」の視点が支配的であったのに対し、日常生活動作(ADL)の概念を提唱する事によって医学の世界に初めて「生活」の視点を導入した。この時点で、もはや単なる運動療法でも物理療法でもない、現代的なリハビリテーション医学が誕生した。
障害の意味
1.impairment(機能障害・形態異常を含む)
障害の一次的レベルであり、直接疾患(外傷を含む)から生じてくる、生物学的レベルで捉えた障害である。能力障害または社会的不利の原因となる。またはその可能性のある、機能(身体的または精神的な)または形態の何らかの異常をいう。
2.disability(能力低下)
障害の二次的レベルであり、機能・形態障害から生じてくる、人間個体のレベルで捉えた障害である。与えられた地域的・文化的条件下で通常当然行う事ができると考えられる行為を実用性をもって行う能力の制限あるいは喪失をいう。
3.handicap(社会的不利)
障害の三次的レベルであり、疾患、機能・形態障害、あるいは能力障害から生じてくる、社会的存在としての人間レベルで捉えた障害である。疾患の結果として、かつて有していた、あるいは当然保証されるべき基本的人権の行使が制約または妨げられ、正当な社会的役割をできないことをいう。
リハビリテーション医学の概念
1.第Vの医学
「予防」「治療」「リハビリテーション」
2.障害学(障害に関する医学)
診断、評価
障害発生の予防
治療と再定着(訓練、補装具、リハ機器、環境調整)
3.目的:復権の医学、障害の医学
症状が固定し、これ以上の改善が期待できなければ、医学として後は何もやる事が無いと考えがちですが、「復権の医学」であるリハビリテーション医学は、そのような状況になっても決して諦めず、治癒は不可能になっても患者さんのためにはまだまだ医学としてできる事があると考えて、色々な手技を駆使して、工夫を凝らすのです。
4.対象:障害(者)
リハビリテーション医学の特徴は、その対象とするものが「疾患」ではなく、「障害」「能力」であると言うことです。この意味でリハビリテーション医学は対象において「障害と能力の医学であります。
注)リハビリテーション医学は決して障害だけしか見ない医学ではありません。障害は疾患から起こってくるものであり、その経過や最終結果は疾患の経過によって決定される面が大きいと言うことです。
5.方法:障害予防、治療、代償医学
リハビリテーション医学の方法は理学療法、作業療法、言語療法にせよ、訓練と呼んでいい面をもっていますが、その本質は「繰り返しやらせて習熟させる」という意味の「訓練」ではなく、患者さんの「可能性を引き出し、発展させる」と言う意味の「教育」なんです。運動機能や言語機能の再教育、新しい運動パターンの学習、代償的機能の開発、新しい生活パターンの学習による「生活の活発化」を通じて体力の増強、あるいはより高度な心的態度(人生の新しい生き方)の発展による「障害の受容」の達成など、これらは基本的に広い意味での「教育」であり「訓練」と違って患者さん本人の自発性や自覚に支えられ、患者さんの隠れた能力を引き出すという性格の強いものです。患者さんが主体となって「自らのリハビリテーション(復権)を勝ち取る医療」であり「教育」の対象は家族も重要な対象になります。この他に、義肢、装具、車いすなどを用いる事で、また現存機能を活用し開発することで能力障害の克服を図るという重要な側面があります。これは「代償的」なものといって良いでしょう。
医学的リハビリテーションの実施の流れ
第一段階 評価 (障害)・全身管理
第二段階 治療 (手術・投薬・義肢装具の処方・完成)
第三段階 訓練 (基礎・応用・日常生活動作・職業前評価)
第四段階 再評価 (中途・最終)
第五段階 治療・訓練
義肢装具士講習会テキスト医学編 財団法人テクノエイド協会
リハビリテーション医学の世界 上田 敏 著
から引用させていただきました。