慢性脳血管障害の装具の保険適応について
[はじめに]
今回、下肢に軽度の運動麻痺のある慢性脳血管障害で在宅生活を行っている患者に対して、継手付きプラスチック製造下肢装具を処方し、若干の知見を得ることができたので報告する。
[下肢装具の使用目的]
一般的な下肢装具の使用は異常歩行パターンの補正を通じて麻痺側下肢への体重の移行、体重の支持、麻痺側下肢の離床などの補助をすることにより歩行能力を向上させることを目的とする。
[軽度の運動麻痺に対する装具]
軽度の運動麻痺に対する一般的な装具としては、Rie strap、HFG、オルトップAFO、靴べら式短下肢装具などが挙げられる。
[装具紹介]
処方した装具は継手付きプラスチック製短下肢装具。継手はオクラホマジョイントを使用。オクラホマジョイントの特徴は側方の安定性がある、内反足に対して矯正力をもつ、足関節運動の底屈運動は制動し背屈運動はある程度の可動を許容する。の三点である。(写真1)
写真1
これがオクラホマ継手付きのプラスチック製短下肢装具である。足関節内果・外果の部分に継手が付いている。
このスライドでは継手付き短下肢装具と一般的な靴べら式短下肢装具の足関節の可動性を比較した。右上の継手付き短下肢装具は足関節の背屈方向の可動性を許容している。比べて右下の靴べら式短下肢装具は強い外力を加えてわずかな背屈方向の可動性を有する程度である。底屈運動に関しては両者の間に大きな差は認めない。(写真2)
写真2
さらに装具使用時として階段昇降においての足関節可動性を比較した。上の2枚の継手付き短下肢装具は足関節の背屈方向の可動性を許容しています。それに対して下の2枚では靴べら式短下肢装具は背屈方向の可動性がほとんどなく、左下写真の昇りでは歩幅の制限、膝屈曲位。右下写真の降りでは足関節背屈運動を制動しているため左下肢の接地困難となっている。1足1段での昇降には適していない。(写真3)
写真3
[継手付き短下肢装具の利点]
足関節内反の抑制が可能、応用歩行が容易、筋緊張の高い症例にも使用可能、慢性患者への受け入れ良好の四点である。
[継手付短下肢装具の欠点]
継手の強度に不安がある、装具にあう靴の選択が困難、靴べら式短下肢装具に比べ価格が高い、底屈補助機能の欠如の四点である。
[歩行に対する満足度の評価]
評価には視覚的アナログ目盛り法、Visual Analog Scale Method;VASを使用した。方法は両端に0と10の目盛りをふったスケールを用意し、各状況下での歩行の満足度が、このスケールの目盛りのどこにあるかを患者自身に判断してもらい記入した。0は不安が強く歩けない、10はまったく不安がなく歩けるとした。条件として装具使用せず、継手付き短下肢装具使用、靴べら式短下肢装具使用の各状況での歩行を評価した。
[装具使用の満足度]
装具使用せずと継手付き短下肢装具使用の状況での歩行に対する満足度の比較である。どの症例においても装具使用せずに対して継手付き短下肢装具使用での歩行が高い満足度を示している。
[装具使用の満足度2]
靴べら式短下肢装具と継手付き短下肢装具使用の状況での歩行に対する満足度の比較である。どの症例においても靴べら式短下肢装具使用に対し継手付き短下肢装具使用での歩行が高い満足度を示している。
[結果]
平成12年11月から平成13年5月にかけ在宅生活の慢性脳血管障害患者5名に対し、継手付き短下肢装具(オクラホマジョイント)を処方した結果、一般的な装具に比べ異常歩行の抑制、応用歩行の向上等が認められた。また装具使用をためらう患者も、受け入れが良好であり、歩行の安定化につなげることができた。
[考察]
継手付き短下肢装具オクラホマジョイントは、慢性脳血管障害患者で内反程度の軽い麻痺に対して有効であると考えられる。今後は他のタイプの継手付き短下肢装具についても積極的に適応を検討し、患者の能力を最大限に引き出す装具処方をしていきたい。
質疑応答
大槻:従来の装具の症例と継手付きプラスチック製短下肢装具の症例では足関節の可動域の改善度に差違があるのでしょうか。
桐田:装具使用の目的には足関節の可動域改善の要素はありません。下肢の運動麻痺による異常歩行パターンの補正をすることで麻痺側への体重の移行、支持などを補助し、歩行能力を向上させることが目的です。
山上:靴べら式に比し、足関節の前屈が楽になり階段での昇降が楽になると思いたいのですが、その点に関して使用者の満足度はいかがでしたか。
桐田:今回、継手付き短下肢装具を処方した5名については靴べら式短下肢装具の使用時よりも高い満足度が得られています。具体的な意見としては階段昇降を含めた段差の昇降時について。また不整地での歩行、屋外歩行の場面での良好な意見が挙がっています。