演題名:脳卒中片麻痺患者の歩行獲得と下肢荷重率の関係

演者名:桐田泰蔵),三岡相至1),小堺里美1),阿波根朝光2),松岡利光3),吉田康成2)

所属:1)葛西循環器脳神経外科病院 理学療法室

2)葛西循環器脳神経外科病院 脳神経外科

3)早川義肢製作所 

キーワード:歩行・下肢荷重率・装具

【目的】脳卒中片麻痺の歩行改善のために短下肢装具を用いることが勧められている。装具選択は病態、機能障害、ADL、予後、社会的因子などを考慮する必要がある。患者に装具が必要か、適応した装具であるかの判定は患者の主観や処方者の考え方に影響を受け、臨床の経験に基づいた面もあり、客観的評価法が確立されているとは言い難い。今回、装具処方の客観的指標として下肢支持性の定量的評価である下肢荷重率を計測し、装具・歩行との関連を検討したので報告する。

【対象】発症後6ヶ月以上経過の外来脳卒中片麻痺で装具使用により屋内歩行が可能な31例とした。内訳は男20例・女11例、平均年齢61.4±10.6歳、脳梗塞20例・脳出血11例、右片麻痺20例・左片麻痺11例であった。

【方法】下肢荷重率と使用装具を調査した。測定機器は重心動揺計(アニマ社製GS-30P)を使用し、下肢荷重検査を実施。条件は裸足で60秒間立位保持にて下肢荷重率を測定した。分析は麻痺側下肢荷重率と使用装具の関連をスペアマンの順位相関係数、歩行との関連はt検定にて検討した。有意水準は5%未満とした。

【結果】使用装具は靴ベラ式短下肢装具(以下SHB)16例(51%)、Semi―SHB3例(10%)、継手付きSHB8例(26%)、OMC型SHB4例(13%)であった。麻痺側下肢荷重率の平均値は38.7±8.4%、信頼区間は35.6から41.9%であった。使用装具別ではSemi―SHB(44.4±3.4%)、OMC型SHB(44.2±4.5%)、継手付きSHB(42.1±7.2%)、SHB(34.6±8.5%)の順で高い荷重率を示した。麻痺側下肢荷重率と装具は有意な相関関係を認めなかった。

【考察】従来の装具種類の選択は、麻痺回復度に対して装具の支持性機能により適応を選択する分類が多く、客観的指標が少ない。よって患者・処方者の主観により選択、決定がされることがある。本研究ではSHBの下肢荷重率はばらつきが大きく、各装具間の差が少ないため、下肢支持性と装具支持機能の間には関係がなく、麻痺側下肢荷重率は装具の種類選択に影響を与えていないと考えられる。装具使用で屋内歩行自立の患者に裸足で下肢荷重検査をした結果、荷重率は最小値15%、最大値50%であった。荷重率が15%以上であれば装具使用により歩行獲得の可能性があると考えられる。15%以下では可能性が少ないが、装具が必要ないのではなく経過や意欲を含めた総合的評価による判断が必要である。信頼区間の35.6から41.9%では装具使用により歩行獲得の可能性が高く、装具の適応になると考えられる。また荷重率は最大値でも50%であり、屋内歩行が可能な維持期片麻痺患者の重心は非麻痺側に偏位していると考えられる。脳卒中患者は片麻痺により非麻痺側へ重心偏位があり、装具使用で歩行を獲得していると考えられる。