日本語の授業をしていると、学生から類義語の違いについて質問がよく出ます。この説明というのが、なかなか難しいのです。学生が何を知りたいのか、瞬間に判断しなければならないからです。 例えば、この前、「怒る」と「叱る」の違いは何かと聞かれました。私が、まず、答えたのは、 ✖ 私は、今、とても叱っています。
@1 母親は、汚い手で物をさわった子どもを怒った。 @2 母親は、汚い手で物をさわった子どもを叱った。 この二つの文は何が違うのでしょう。(*)と関係しているのだと思いますが、@1は、感情的に自分の腹立たしい気持ちが優先しているような感じがします。それに対して、@2は、理性的に、子どもにわからせることを目的としているようです。 『朝日新聞』(2007.7.22付)の「おやじの背中」で大黒摩季さんは次のように書いていました。 ・・・・父との思い出で、強烈に覚えているのは、小学校低学年のころの出来事です。学校で「生命と親子」というテーマでエを描くよう課題が出て、私はアリの絵を描きました。一生懸命に食べ物を運ぶアリと、その横で人間に踏みつぶされて死んだ血まみれのアリ。担任の先生に出すと、「まじめに描いていない」と怒られました。
人は誰でも「怒る」のではなく「叱りたい」のだと思いますが、なかなか難しいですね。
円 「もちろん通うよ」 これは、ゲストのグラビアアイドルが、辛かった仕事の話をしていたときのことです。店員なのに、なぜか、水着を着て、エプロンをつけ、店卸しをしている写真撮影をしたそうです。 簡単なやりとりですが、「行く」と「通う」の違いがはっきり出ていて、面白いなあと思いました。「行く」と「通う」はどちらも自動詞で助詞は「に」(or「へ」)をとります。「行く」には習慣性はありませんが、「通う」には、そこに何度も、習慣的に行くという意味があります。授業では「通う」ところとして、 学校、教会、病院・・・・ を挙げています。卑俗な例かもしれませんが、上の例の話をしても面白いですね。
安倍首相のスローガンが「美しい国日本を作る」であることや、自身の政権を「美しい国づくり内閣」と命名したのは、皆さんもよくご存知のことです。 ところで、似た言葉に「きれい」がありますが、「美しい」と「きれい」は何が違うんでしょう。まず、品詞が違います。「美しい」は形容詞(イ形容詞)ですが、「きれい」は「きれいだ」の語幹ですから、形容動詞(ナ形容詞)です。(したがって、「きれかった」「きれくない」というのは文法的に間違っています。) 次に意味ですが、どちらも*「姿・形・色・音などが、整っていて鮮やかで快く感じられるようなさま」という意味です。では、何が違うのでしょう。次の例を見てみましょう。
つまり、「きれい」は、汚れていなくて清潔なさま、残りの全くないさまにも遣われます。具体的ですね。それに対して、「美しい」は、人の行為や態度にも遣われますが、かなり抽象的ですね。雰囲気はわかりますが、具体的に何を言っているのかはわかりにくいです。 話は戻りますが、「美しい国」というのはイメージ優先で具体的ではありません。それを意識しているのかどうかはわかりませんが、ある地下鉄構内でこのようなポスターを見つけました。 「きれいな国・日本へ!!」 参考文献 『使い方の分かる類語例解辞典』(1994)小学館
「から」と「ので」の違いでまず挙げられるのは、後ろの文に命令形や禁止形が来るときは、「から」を使うことでしょう。 @「はずかしい(から○/ので×)人の前で泣くな」 やっぱり、「から」はニュアンスがきついんですね。次の文を比べるとよくわかります。 @「気分が悪い(から/ので)、休みます」 「から」を使うと理由を強く言っている感じがします。だから、柔らかく丁寧な感じを出すために、「ので」を使うほうがいいのです。自分のことでも、客観的に伝えることができるんですね。日本語はそのような表現を好みます。 @「気分が悪いので、休ませていただきたいんですが・・・」 留学生の皆さん、学校を休むときは、このように言いましょう^^ つまり、日本語では客観的に伝えることによって、丁寧で柔らかい表現になるのです。主観的な表現は好まないんですね。 だからといって、接続詞のように「なので」を使うのはどうかと思うんですけど・・・。この変化も日本語の特徴に沿った自然な流れなのかもしれませんが・・・。
・・「それで」と「だから」の違いは何でしょう?・・・ 接続詞の違いは微妙なものも多く、何をポイントにするか悩みます。「それで」と「だから」もその一つです。この二つはともに前に言ったことの結果、後のことが起こるという共通の意味を持ちます。従って次の文のような場合、どちらでも使えます。 a「彼女は美人でやさしい。(だから○/それで○)男性に人気がある。 しかし、、次の文ではどうでしょう。 b「時間がありません。( )急ぎましょう。」 「それで」は、後ろに「~しましょう」とか、「~なさい」とか「~てはいけません」とか、相手に働きかける文は来ませんね。 c「ここは危ないです。(だから○/それで×)入ってはいけません。」 つまり、「だから」のほうが使用範囲は広いわけです。しかし、「だから」は理由を伝える言葉としてはちょっとニュアンスが強いんです。理由を前に出しているような感じがしますから。日本人としては、強いニュアンスは避けたいですね。
ちなみに、「そこで」も順接の「接続詞」ですが、こちらはもっと使える範囲が狭いです。「そこで」は「~ことがあって、~ということになった」という場面で使いますから、後ろの文は普通、過去形(日本語教育では「タ形」と言います)が来ますね。 d「お金を忘れた。(だから○/それで○/そこで○)友だちに借りた。」 a「彼女は美人でやさしい。(だから○/それで○/そこで×)男性に人気がある。 b「時間がありません。(だから○/それで×/そこで×)急ぎましょう。」 c「ここは危ないです。(だから○/それで×/そこで×)入ってはいけません。」
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