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韓国の大学で日本語を教えていたときの話です。 お客さんに食事を勧めている A「どうぞ。もっと食べてください。」 B「いえ、もうたくさんです。」 私がお客さんに食事を勧めて、「もうたくさんです」と言われたら、とても悲しいです。勧めて悪かったと反省するかもしれません。 「たくさん」には、「もう十分だから、これ以上は必要でない」という意味があり、否定的なニュアンスを伴います。次の文を見ればよくわかります。 A「ごめん。もう決して浮気しないよ。だから、別れるなんて言わないでくれよ。」 B「あなたの言い訳はもうたくさん。これ以上、聞きたくない。私たち、別れましょう。」 あるいは、 確かに、十分だということが言いたいのだから、「もうたくさんです」でもいいような気がしますが、やはり必要以上だというニュアンスがありますから、実際の会話では、このようには言いませんね。十分だということが言いたいのなら、 A「どうぞ。もっと食べてください。」 B「いえ、もう十分いただきました。(ありがとうございます)」 というのが一般的で失礼がないのではないでしょうか。あるいは、「いえ、もうたくさんいただきました」にすると、問題ないですね。 横で黙って聞いていられなかった私は、その日本語が間違っていることを女子高生に話しました。「ええ~、先生、間違ってる。明日、話さないと・・・」と彼女たちは言っていましたが、さて、その後、どうなったのでしょう・・・。ね・・・。
先日、某番組を見ていたら、細木数子が「知らなすぎる」と連呼していました。あれ?「知らなさすぎる」じゃないの?と思った人もいるかもしれません。どっちが正しいのでしょう? 「すぎる」は名詞やナ形容詞(形容動詞)イ形容詞(形容詞)の語幹、動詞のマス形(連用形)につき、その程度が大きいというマイナスのニュアンスを含む表現です。 「私のもとカレは、子どもすぎて、話にならなかったわ。
✖「あなたは常識がなすぎる」 cf 「いい(=よい)」は「よすぎる」 「あなたは常識を知らなすぎる」 「あなたは常識を知らなさすぎる」 と、両方の形があるようです。『問題な日本語』(2004)大修館書店では、これをコラムで取り上げ、 「さ」が入るのは、助動詞「ない」と形容詞「無い」とを混同したもので、一般的には「~なすぎる」。 と、説明しています。でも、この説明じゃわかりにくいですね。確かにイ形容詞「無い」と助動詞の「知らない」は品詞は違いますが、助動詞「ない」の活用は形容詞と同じですし、また、助動詞の場合、普通、語幹は考えませんから、「知らなすぎる」と「な」でつなぐ根拠にするのはちょっと・・・。 文法を教えるときにも面倒だし、どっちも遣われているから、どっちでもいいと言うべきか、どちらか一つにするべきか・・・。規範って難しいです。
「女性で唯一の怖い芸人に選ばれてしまいましたが・・・・」 すると、マチャマチャはちょっとムッとしたようにこう答えました。 「『・・・てしまいましたが』ってそれは、あんたの取り方じゃないか。逆に私はうれしいよ!」 マチャマチャは言語感覚に優れた人ですね。『みんなの日本語初級Ⅱ 教え方の手引き』には、「~てしまう」の用法として次の二つを説明しています。 ①動作動詞について、ある行為を完全に終了する。 *おいしかったので、ごはんを全部食べてしまいました。 ②不都合な事態に対する遺憾の気持ちを表す。 *間違えて、私は彼のごはんを食べてしまいました。 つまり、マチャマチャは「選ばれてしまう」というのを②の意味で素早く理解したのです。リポーターが、女で怖い芸人に選ばれるということは、女性にとって不都合な事態だと思っていることを、マチャマチャは快く思わなかったのでしょう。だから、「『逆に』私はうれしい」と言ったのだと思います。もちろん、マチャマチャは芸人ですから、これも冗談かもしれませんが・・・。 なんてことはない、「~てしまう」ですが、場面によっては、このように相手に不快感を与えることもあります。日本語ネイティブでもこのようなことがあるのですから、外国語として勉強しているときは気を付けなければなりません。 せっかく、ご馳走になっているのに、とても辛い、多いということが伝えたくて、自分の知っている文法知識だけで 「この料理は辛すぎます」「多すぎます」 というと、相手に対して失礼です。「~すぎる」はマイナスのニュアンスを含むということも知っておかなければなりません。外国語を勉強するときは、このような場面性、ニュアンスも同時に学ばなければならないので大変です。
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