「悪いけど、君の気持ちは受け取れない」
放課後の教室前の廊下。春海は自分に告白してきた女子生徒に冷たく言った。
里見学習院に入学してから、数え切れないほどの女子生徒が愛を告白してきた。
彼女達はそれぞれの想いを胸にして告白したが、春海はまったく関心がないと言わんばかりの態度で断る。
「もったいないよなあ・・・中には学校一の美人がいたってのに。お前って、いるか以外の女には本当に興味ないんだな」
偶然告白の場に出くわした巧巳は、泣きながら春海の前から走り去っていく女子生徒を見ながら、後ろから話しかけた。
「当たり前のことを聞くな」
からかう口調の巧巳に対して、春海は表情一つ変えずに答えた。
「少しは別の女に目を向けようなんて思わないわけ?」
「興味のないものに目を向ける時間があるくらいながら、勉強をしていた方がマシだ」
春海は左胸のポケットから眼鏡を出し、それをかけると手に持っていた古文の教科書に目を向けた。
「相変わらずポーカーフェイスな奴」
春海の冷静沈着ぶりは時に怖いくらいだ。
冷静で丁寧に断っているつもりでも、相手から見れば恐怖を感じることがある。
でも女心というのは複雑なもので「それがたまらなくいいのよね〜」とかえって人気を大きくしている。
その事に彼は気づいているのか、いなのかは分からないが・・・
冷静沈着・文武両道・眉目秀麗の四文字熟語を並べ立て、一年に引き続き、生徒会長を務め、
生徒の憧れの対象、教師・理事長・私学連会長の信頼を集める山本春海。
でも、それは彼の仮面を被った顔にすぎない。
(優等生の春海に隠れた一面を知ってるのは、学校の男連中の中じゃ俺くらいのもんだろうな)
いるかを巡って春海と喧嘩した昨年の夏、自分に拳を向けてきた熱く燃えた春海を初めて見た。
「これが、あの春海なのか・・・?」
学習院の中で生徒の模範とも言われる冷静な春海の隠れた姿。
「いるかは誰にも渡さない!!」
心の叫びと思える声で拳を向けてくる熱く激しい春海に巧巳は驚いた。
そして、あの喧嘩で初めて春海という男が判った気がした。
優等生の仮面を被っていても、自分と同じ変わらない男なのだと。
だから彼の友人と付き合っていこうと思った。
そう決めたのはいいが、やはり春海の性格がよく分からなくなる時がある。
冷静沈着で優等生、硬派で激しい姿、そして・・・
「あ、春海〜」
前から1人の少女が、右手を大きく振りながら春海の名を呼びながら走ってくる。
その姿を目にした途端、春海はポーカーフェイスの顔から一転、優しい笑顔になった。
「今日は生徒会の会議も部活もない日でしょ。久しぶりに一緒に帰ろうよ」
無邪気な笑顔で話しかける、少女の名はいるか。
「そうだな」
春海は手にした古文の教科書をパタンと閉じる。
「ね。本を読む時、いつも眼鏡をかけてるけど、目が悪いの?」
いるかが春海の眼鏡を見る。
「目が悪いわけじゃなく、目を守るためにかけているんだ。お前もかけてみるか?」
春海はそう言って眼鏡を外し、いるかにかける。
「あ、ホントだ。度が入ってないね。って、これ大きすぎてズレちゃうよ〜」
眼鏡のズレを懸命に直そうとするいるかを、春海は愛しげに見つめる。
柔らかい口調、愛に満ちた瞳、包み込むような優しい微笑。
いるかだけに向けられる春海のもう一つの姿。
他人には厚い壁を作って中に入れようとしない春海が、いるかの前だと、その壁を軽く壊し、手を差し伸べる。
そして、いるかは春海に手を預けて壁の向こう側の心の中に入っていく。
まるで別人のように変わる態度の変化に巧巳は少々戸惑いながらも、
春海のいるかに対する想いが、以前より遥かに大きくなっている事に気づいた。
(ま、新潟までいるかを追跡するくらいだからな。その時点で俺はお手上げだ。
だか、こう目の前でいちゃつかれたら、さすがに辛いぜ)
巧巳は口元で「フッ」と笑うと、からかう口調で2人に話しかけた。
「おいおい、お2人さん。いちゃつくのは別の場所でやってくれ。一応、公共の場だぜ。ここは」
「い、いちゃつくって・・・」
ゆでダコのように顔を赤くしたいるかに対し、
「それはすまんな」と不敵な笑みで答え、いるかの肩を抱いて去っていく春海。
「ふー、アイツと付き合って2年目に入るが、やはり性格がよくつかめん」
巧巳は溜息をつきながら、2人の姿を見送った。
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秋猫さん、ステキなお話ありがとうございました。
当サイト初の頂き物。大感激ですっ!
いるかだけが特別ってとこが、たまらなくいいのよね〜
誰にでも優しいんじゃなくて、いるかだけに優しいとこが、たまらなくいいのよね〜
その他大勢の女には冷たいってとこが、たまらなくいいのよね〜
って、いるかちゃん本人はどう思っているのでしょう?
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