いるかちゃんヨロシク妄想話

お題「その2」 『PLAY BACK』(前編)

1.写真

「うわぁー なつかしー!」

里見学習院での新しい生活がスタートして間もない頃

いるかは、春海のマンションで倉鹿修学院の卒業アルバムを見ていた。

「おまえ、これ見るの初めてだろ?」

「うん・・・」



2年前の陸上オリンピック――――

(この時は、春海と思いっきり張り合ってたよね・・・)

アルバムのページをめくりながら、写真の頃の自分と春海を思い出す。

(ソフト部の試合の時は、ボールの投げ方教えてくれて
 ホータイ巻いてくれて・・・・
 サッカーの時は、ケンカしたけど
 練習試合のセッティングしてくれて――――

 ・・・やだっ あたしったら春海のことばっかり考えてる)



「なにニヤついてんだ おまえ」

「あっ なんでもないっ へへへっ」

「もう全部見たのかよ」

「ま、まだ あともう少し・・・ あっ 春海いたっ!」



クラス毎の集合写真



クラブ毎の集合写真



大勢で写っていても、すぐに春海を見つけ出す。



でも・・・



8月の終わりに倉鹿を離れたいるかの姿はない。



(なんか・・・ さびしいなあ 春海と一緒に卒業したかった・・・)



アルバムの最後のページをめくる――――



「きゃ――――! なにこれっ はずかしいっ」

「プッ・・・ やっと気づいたか?」



見開き2ページにわたり

鹿鳴会会長『山本春海&如月いるか』の2ショット写真特集だった。



ウェストサイド物語の名場面

二人ならんで一緒に学校から帰る様子

中庭で剣道の稽古をする姿・・・



(いっ・・いつ撮ったんだぁ? こんな写真)

「はっ はるうみっ! あんた、何考えてんのよっ!」

春海の仕業だと思い、まっ赤な顔で文句を言う。

「バカ、オレじゃねーよっ おまえのせいだぞっ
 おまえがみんなに黙って東京に帰っちまったから
 あいつらに仕返しされたんだよっ!」

進、一馬、兵衛の3人が、春海に内緒でアルバム編集委員とグルになり

最後のいたずらをしたのだった。



いや、このページは――――



『東京行ってもうまくやれよ

 10年たっても

 20年たっても

 このまんまの二人でいろよな』



そんなメッセージだったのかもしれない。



「オレだって、東京に帰る日、知らなかったのになー」

「ご・・・ごめん・・・」

「――――ったく、これ、みんなに配った後・・・ 大騒ぎだったんだぜ」

春海も、当時を思い出し赤くなった。

「え――――っ! やだぁ みんな持ってるの――――っ!
 そ、そうだよねー あっ! でも、あたし持ってないよっ
 じーちゃんに頼んで送ってもらおうかなー」

「・・・その必要はないさ」

「へっ?」

「見たくなったら、ここで見ればいいだろ?
 これからは、ずーっと一緒なんだから・・・」

春海は、いるかの肩に手をまわすと、そっと抱き寄せた。

「もう、どこにも行くなよ」

「・・・うん」

「もう、隠し事はするなよ」

「・・・うん」

「約束だぞ」

「・・・!」

いるかの返事を待たずに、春海は誓いのキスをした。


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2.溜口

カ――――ン コ――――ン

ザワ ザワ・・・

休み時間、騒々しい1年1組の教室に、いるかの大声が響く。

「巧巳、英語の教科連絡行ってきて」

「おい、おまえ行けよ」

「あたしは昨日行ったじゃん、交代交代だよっ」

「フン・・・」

東条巧巳は、しぶしぶ教室を出て行った。



「おい、あの東条さんにタメ口きいてるぞ」

「すげーよなー 如月いるかって新顔組だろ?」

「あの二人付き合ってるって聞いたけど・・・」

「そーいえば、二人とも軽音部だよな」

男子生徒が小声でひそひそと話していた。



数日前



「ねえ、いるかちゃん いるかちゃんは、東条君のこと怖くない?」

一子が遠慮がちにたずねてきた。

「へっ!? 何で? 別に怖くないよ、あんなヤツ」

「あんなやつって・・・。 東条君って何か近寄りがたい雰囲気だし
 年上だし・・・ そのー 私・・・」

「わかった、一子 巧巳と組んで英語の係するの困ってるんでしょ?
 いーよ、かわってあげる。あたし数学の係だったから――――」



一子と教科係を代わったことで、噂は一気に広まった。



「いるか、おまえが東条さんと付き合ってるってウワサ知ってるか?」

春海と一緒に学校から帰る途中、何の前触れもなくそう言われ、いるかは戸惑った。

「へっ!? ・・・なっ 何それ?」

「クスッ やっぱりなー おまえ、噂にはうといから・・・」

「やっ やだなあ、はるうみっ あたしがあんなヤツと付き合うわけないじゃん」

「フ・・・ 当たり前だ おまえは、俺の彼女なんだからな
 ――――おまえが東条さんに溜口きいてるから付き合ってるんじゃないか・・・
 ってことだけど――――


 このガッコのやつら、ガキだよなー」


そう言ってニッと笑う。高校生になって、自信がついてきたようだ。

「まあ、東条さんは俺にとっても憧れの人だし、あんまり失礼なことすんなよ」

(こいつが敬語使うトコなんて想像できねーもんなあ)



春海は思い出す――――



同級生、先輩からも一目置かれ、

山本会長、山本さん、春海さん、と呼ばれていたあの頃



『あんたにだって負けないぜ 山本春海!!』



誰もが恐れおののくこの俺に、平気でつっかかってきた

そんな彼女に魅かれて、夢中になっていったっけ・・・

あの頃からくらべると ・・・ずいぶん女っぽくなったよなぁ



「し・・・ 失礼なのはあいつの方だよっ もうっ!」

『俺の彼女』とハッキリ言われ、いるかは照れているようだ。



「――――そうだ、いるか、俺、明日からしばらく一緒に帰れないから・・・」

「え――――っ」

いるかは、不満そうにぷーっと頬をふくらませた。

「そんな顔すんなって ちょっと生徒会に勧誘されてさ、野球部の練習もあるし」

「ふーん、わかった・・・」

「じゃあ、何か食べに行くか?」

「うんっ!! ケーキ食べ放題!!」

食べ物の話になったとたん、嬉しそうにはしゃぎ回る。

(ゲンキンなやつ・・・ こーゆーところは、ちっとも変わってねーぜ・・・!)

春海は、微笑みながら空を見上げた。


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3.ノート

「ハイ いるかちゃん 今日のノート」

バサ バサ バサ

晶は、いるかの机にノートをおいた。

「ありがと 晶」

「発声練習の前にすませてね」



軽音部部室の片隅で、いるかは、授業中に書き取れなかった所を必死に写していた。

「しっかり勉強しとけよ、これ以上、軽音からオチコボレを出したくないからな」

辻村は、自虐的な笑みを浮かべていた。



「なんだ、おまえ、また晶にノートかりてんのか」

「るっせーなっ 先生の板書が早すぎるんだよぅ」

巧巳はニヤニヤしながらいるかの手元を覗き込んだ。

「こら、数学は丸写ししたってダメだぞ、ちゃんと理解してんのか?」

そう言って、要領よく解き方を教えてくれる。



「巧巳ってさー そんなに頭いいのに何で留年したんだよ?」

「・・・おまえ、本人に向かって聞きにくいことハッキリ言うなぁ
 俺は、生徒会の役員を殴って停学くらったんだよ それで、結局留年」

「へっ?! そんな それくらいで留年するくらい停学くらうの? あたしも気をつけなきゃ・・・」

「あのなぁ・・・
 このガッコはさ、生徒会の連中が一番エラいんだ。で、次にエラいのが運動部
 文科系はもともと肩身が狭いからな 勉強できないヤツのいる部は、即廃部さ」

「ふーん、じゃあ、どうしてあんたはエラソーな野球部やめて 軽音なんかにはいってんの?」



「おい、いいかげんにしろよっ」

(人の心の傷に触れるようなこと・・・)

辻村がみかねて口を挟んだが、巧巳は平然として答えた。

「ま、いろいろあってね・・・
 ――――っつーか、部活は面倒くせーからな、今はリトルリーグの方が楽しいし・・・」

「アハハ・・・ あたしも中学ん時、剣道部サボって小学生とチャンバラゴッコしててさ――――」

なごやかに話す二人を、晶と辻村は不思議そうに見ていた。



(巧巳に野球の話は禁句のはずなのに・・・)



(東条くんって、いるかちゃんの前だと雰囲気がなんとなく違うような・・・)



辻村が、いるかの肩をポンッとたたいた。

「とにかく生徒会役員にだけは逆らうなよっ おまえ1年のくせに態度でかいからなー
 おまけに巧巳と噂になってるし・・・」

「ぶ――――っ」

「フン・・・」

巧巳は、ほんの少し顔を赤らめて、そっぽを向いた。


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4.夢

「ね それじゃ帰りにちょっとより道して、なんか食べてかない?」

「やったあ! あたし、お腹すいてたんだぁ〜」

いるかと晶は、軽音部の練習が終わると、ファーストフード店に行くことにした。



「へぇー 晶ってプロのミュージシャン目指してんだあ すごーい!」

いるかは、ハンバーガー2個をぺロッとたいらげ、ポテトに手を伸ばしていた。

「でもねー 両親が反対しててね、音楽じゃ食べていけないって
 で、里見で10番以内キープしたら、大学は好きなトコ行かせてくれるって約束なワケ」

「それで勉強もがんばってんだ」

「そういうこと 留学もしたいし」

「晶ってカッコイイね」

「そーかなー いるかちゃんの夢は?」

いるかは、飲みかけのジュースをおくと思いめぐらす。

「うーん・・・ そういえば、あたしって将来何になりたいか、なんて考えたことないんだなあ・・・
 この前まで、里見合格が夢だったけどね」

「じゃ、夢がかなったんだ」

「うん でも・・・」

「でも?」

「やっと春海と同じ高校に入れたのに、思ったより一緒にいる時間なくってさー
 中学ん時は、クラスもおんなじで、クラブもおんなじで、鹿鳴・・・生徒会も一緒だったのに――――」



(せっかく・・・がんばったのにな・・・)



フウッとため息がもれた。



「なにを暗くなってんのッ 東条くんがいるじゃない?」

晶は、ちょっとからかってみたくなった。

「はあ? 何でアイツが出てくんだよっ」

「だって、クラスも一緒、軽音部も一緒、教科係も一緒でしょ?」



(――――そうだよね、春海より巧巳と一緒にいることの方が多いかも・・・)



いるかは、ブンブンと頭を振ると、残りのポテトを物凄い勢いで食べ始めた。


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5.本気

「わっ」

ガックン

いるかは、北校舎の裏庭で、寝転んでいた巧巳の足につまづいた。

「も――――っ 巧巳っ! こんなとこで何やってんのさっ!」

「悪ィ 寝てた」

「あのねー 人を呼び出しといて・・・ 用があるなら教室で言ってよね」

「まァ そうふくれんなよ」

巧巳は、ゆっくり上体を起こすと、「う〜ん」と伸びをした。



「おまえ・・・ ニブイな」

「はあ?」

いるかは、芝生の上にペタンと座り込む。

「その・・・ おまえのこと、好きなんだ」

「へっ!?」

「おれと付き合ってくれ」



「ちょっ ちょっと待ってよ、いきなりそんなっ えーっと・・・ じょ 冗談でしょ・・・」

「――――俺はマジだぜ」

「あっ あのっ ごめん、あたしには、つっ つ つ つ つきあってる人が・・・」

いるかは、ゆでタコのようにまっ赤な顔で、しどろもどろになった。

「フーン 誰だよ?」

「1年2組の山本春海・・・」



巧巳の顔色がサーッと変わった。



「山本春海・・・? おまえ・・・ ヤツの女かよ」

巧巳の豹変した態度に、いるかはビクッとした。

力にものを言わせて、いるかの手首を無理やり握りしめる。

「いたい・・・ はなして」

「あいつ生徒会役員になったんだってな・・・ フッ・・・ そのうえ野球バカか
 悪いことは言わねえよ あいつとは別れな おまえ絶対泣かされるぜ」

「なんであんたにそんなことが―――― はなしてってば――――っ」



ドサッ



巧巳はいるかを押し倒した。



「いっ・・・ いやっ なにすんのよっ」

「騒いだって誰もきやしねえよ!」

「いたっ・・・」

巧巳は、いるかの両手首をつかむ手に、さらに力を入れる。

いるかは、完全に押さえ込まれてしまった。

「山本なんざ、学校側に洗脳されるのも時間の問題さ 役員どもみたいな冷血漢になりさがるのもな!

 ・・・俺にしとけよ――――」

「・・・んっ!」

巧巳は、いるかの唇を奪った。



乱暴で、荒々しく、激しいキス――――



春海とは、全然違う・・・



いるかは、全身の力がぬけていくのを感じた。



「――――どうした? 急におとなしくなったじゃねえか」

巧巳の舌が首筋を這う・・・



パン



「いって・・・」

いるかの平手が巧巳の頬を打った。

「いいかげんにしてっ!!」

「フッ その気になったんじゃねーのかよ」

「変なこと言わないでっ!!」

カッとなったいるかのケリが巧巳を襲う。

だが――――



「おっと あぶねー」

巧巳は、ひょいと後ろによけるとニヤリとして言った。

「怒った顔もカワイイぜ」



(こっ・・・ こいつ あたしの本気のケリをかわした――――)

「あっ あんたなんか大っきらいっ!! 最低っ!!」

いるかは、捨てゼリフを残し、一目散に駆け出した。


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