いるかちゃんヨロシク妄想話

巧くんヨロシク

1.合縁奇縁

高校1年の2学期が始まる日

秋の台風のごときあの子がやってきた――――



「1年2組に転入してきた子のこと聞いたかい」

「すっげーかわいい子なんだって?」

いつもより早く登校したいるかは、ザワザワした教室でそんなウワサを耳にした。

(・・・なんか、どっかで聞いたことあるよーな話だなあ)

「それが、あの山本会長のいとこなんだってェ――――っ!!」

ぼとっ

「ぶへっ」

いるかは、カバンを足の上に落としてしまった。

(まっ・・・ まさかっ!!)



「いるかちゃーん!お久しぶりィ!」

(この声は・・・ やっぱり!!)

廊下から大声でいるかを呼んだのは、山本まのかだった。

満面の笑顔で手を振っている。

「ど、どうしてまのかちゃんがここに? ドイツに行ったんじゃ・・・」

いるかは、まのかの近くに駆け寄ると、目を丸くしながら尋ねた。

「あっ パパの会社がね、ドイツから撤退することになっちゃって
 里見の編入試験受けたの あっ! 春クンだっ!」

「まのか!! まのかじゃないか! なんでこんなとこに・・・」

まさに青天の霹靂!

普段冷静な春海も驚きを隠せない。

彼は、授業前の早朝から生徒会室で一仕事終えて、教室へ向かうところだった。



「あら? おじさまから聞いてなかったの? 
 今日からまのか里見の生徒よ、ヨロシクねっ!」

いるかと春海は顔を見合わせ、ハァ〜と大きなため息を吐くと脱力した。



「春クン、一緒におべんと食べよ♪」

「あ いや・・・ ちょっと・・・」

昼休みはいるかとふたりきりで過ごしたい春海であった。

「もちろん、いるかちゃんと一緒にね♪ ね? いいでしょ?」

そう言われると、きまり悪くて断れない。

まのかは昔みたいに病弱でもなく

新しい友達をつくるためにも放っておいた方がいいのは分かっていた。

だが、長年の習慣とは恐ろしいものである。

春海は、まのかには逆らえないような気になっていた。

「・・・しかたないな・・・っ じゃ、生徒会室行こうぜ」



まのかと並んで歩くと、すれ違う生徒たちが皆振り返る。

「あの子だ! 1年2組の転校生!」

「美男美女でお似合いねー」

なんて声が聞こえてきた。

春海はイヤな予感を抱きながら生徒会室のドアを開けた。



「たっ 巧巳! 何でここにいるんだ?」

いるかと巧巳が一緒にお弁当を食べているところだった。

「あのなあ、俺は一応役員だぞ。おまえこそ部外者の女連れか?
 関係者以外立入禁止じゃねーのかよ、生徒会長さん?」

巧巳は高飛車に言い返す。

生徒会長自ら役員でもないまのかを招き入れるとは

公私混同は絶対にしないのがモットーの山本春海一生の不覚だった。

「いーじゃん、まのかちゃんはまだこのガッコに慣れてないんだし」

「おまえがそう言うならいーけどな」

いるかの言葉には従順な態度を示す巧巳を春海は苦々しく思った。

(巧巳のヤツ、まだいるかのことあきらめてねーのかよっ!!)



(わぁ!この人もいるかちゃんのこと好きなのね!)

さすがにまのかはカンがいい。

他人の恋愛感情にも敏感だった。

「わたし、山本まのかです。はじめまして。東条巧巳クンでしょ?」

「そうだけど」

巧巳は、ちょっと気取ったように答えた。

「まのか、あなたとお友達になりたくて・・・春クンに無理言って
 ついてきちゃったの、ごめんなさい」

とっさにこんなウソを思いつくとは、頭脳明晰のなせる業である。

「ああ」

「巧巳ったら照れてやんの」

テキトーに答える巧巳に、いるかがツッコミを入れた。

「うるせっ」

ちょっと赤くなりながら、巧巳はいるかの頭にポンと手を置いた。

春海がジロッと睨むが、誰もが怯える殺気立った視線も何のその

巧巳は平然として言った。

「早く食わねえと昼休み終わっちまうぜ」

まのかはクスッと笑い、お弁当を広げた。


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