いるかちゃんヨロシク妄想話

巧くんヨロシク

3.有難迷惑

放課後

いるかは、めずらしく生徒会室で書類の整理をしていた。

(春海遅いなぁ・・・ 何やってんだろ?)

いつもは真っ先に生徒会室に来ているはずの春海の姿が、今日はない。

一人で仕事に集中できるはずもなく、いるかは窓からぼんやりと校庭を眺めた。



バ――――ン



まのかが、プッツンしたように勢い良くドアを開け、いるかに詰め寄る。

「いるかちゃん、大変よっ! 

 今ね、春クンが、うちのクラスの栄子さんに告白されてるのっ!!!」

「ふーん・・・」

「ふーんって、それだけ? 早く行って止めなきゃ!!」

「えーっ!?」

いるかは内心穏やかではないものの、告白現場に行く気にもなれなかった。

売られたケンカは必ず買うけど、女同士の闘いにはめっぽう弱いのだ。

「いるかちゃん、ボーッとしてるとほかの女に横取りされちゃうよ!!」

「・・・」

「だいたい、春クンも春クンよっ! いるかちゃんという彼女がいるのに

 この前の球技大会でも女の子に囲まれてヘラヘラしちゃってさ――――」
 
「そっ そうだったっけ?」

まのかは、演歌歌手のように拳を握りながら言いたてる。

「そうよっ! もしかしたら、春クン、アレかも

 いるかちゃんは自分に惚れてるから大丈夫って自惚れてるのよ、きっと
 
 こうなったら、いるかちゃんが誰かと浮気して、春クンにヤキモチ妬かせるしかないわっ!!」
 
「あのねー」

声高にまくしたてるまのかにいるかは困惑し、顔をひきつらせた。



「まのか、ここには来るなと言っておいただろう・・・」

参ったなぁ、という面持ちの春海が生徒会室にやってきた。



「あら、春クン! 栄子さんとはどうなったの?」

興味津々のまのかに、春海は努めて冷静に振舞った。

「もちろんお断りしたさ」

チラッといるかの方に視線を送り、片目をつぶる。



二人は目と目で会話する。



――――心配すんなよ



――――うん



いるかは、小さく頷くと顔をほころばせた。



「そうすんなりお断りできたのかしら?」

まのかは、口元に小悪魔の微笑を浮かべている。

「栄子さん言ってたわよ。『絶対、如月さんから奪ってやるっ!』ってね

 春クン、彼女がいてもいいから付き合って、とか言われたんじゃないの?」



ギクリ



『私、あきらめませんから! 如月さんになんか負けないっ!』



そんなセリフを残し、栄子は立ち去ったのだった。



「まのか・・・ おまえ、何でそんなこと知ってんだ?」

「本人から直接聞いたんだもの」



クスクスッ



まのかは、お嬢様らしく口元に手を当てた。

「栄子さんだけじゃないわ、美伊子さん、詩依子さん、D子さん

 春クンに告白する子って、ほとんどみんな私のトコに事前調査に来るのよ。
 
 いとこの私から春クンの情報を聞き出したいってとこかしら。
 
 『山本くんの好きなタイプってどんな子?』なーんてよく聞かれるから
 
 『いるかちゃん』って答えてるの」


 
「・・・それだけじゃないだろ?」

春海は怪訝そうな顔をする。

最近告白してくる女達はやたらしつこいと思っていたが・・・



「春クンは、いるかちゃん以外の女の子に興味ないわよって教えてあげてるわ

 他人の恋路を邪魔するんじゃないわよってね」
 
 
 
「自分だってやったくせに・・・ 中学ん時」

いるかがボソッとつぶやいたが、まのかの耳には自分に都合の悪い事は届かないらしい。



「なのに、あの子たちったら、いるかちゃんと張り合おうなんて・・・

 フッ・・・ 身の程知らずもいいところね」
 
 

まのかは、本気で春海といるかの幸せを願っていた。

だから、春海に告白する前にあきらめさせようとしていたのだが――――

まのかの言動は、春海に恋する乙女の情熱の炎に燃料投下したようなものだ。

他人に思いを断てと言われれば、さらに熱くなり感情に走る。それが恋。
 
彼女たちは、いるかに激しいライバル心を燃やすようになってしまった。



「大丈夫よ、いるかちゃんっ!」

まのかは、いるかの両手をガシッと握り締めた。

「春クンに悪い虫がつかないように、あたしがちゃんと見張っててあげるからっ!

 ――――じゃ、そろそろ行くね、もうすぐ会議でしょ?」

まのかは、意気揚々とスキップし、生徒会室を後にした。



るー。さまから頂いたイラストです。
3人の表情がよく出ていて、まのかちゃんの手の動き
チッ チッ チッ
と聞こえてきそう!
るー。さまの小話はこちら 小姑まのか


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