音楽劇
不思議の種


天王洲アイル アートスフィア





なぜか最初にフィナーレの様子
右端にDr、市原氏の姿もあります

フィナーレ

 1月のこと、ある人を介してミュージカルに友情出演してくれないか、とのオファーがありました。主演は以前ぺトラライブにゲスト出演してくださった佐渡寧子さん。そしてこのミュージカル開催の目的の中に、いろいろな境遇にある子供たちを招待して楽しんでもらうということがあるとのこと。

 私はミュージカルに出演した経験はありません。実をいうと映画のミュージカルでさえ、まともに見たことがない私。今回はまず子供たちを招待するということに共感したこと、さらに友情出演ということで、本番の直前に3日程リハーサルをすればよいと言われたことが重なって、いつもの調子で「イーヨ!」と答えてしまったのです。

 さてさて話はここから本題。しばらくして台本が送られてきましたが、先に封を切って読んでいた妻が「キャー!台詞があるよ、歌もけっこうあるし、アレ!ここは踊りもあるんじゃないの。ワー!キャー!」と大騒ぎ。「何!」と台本に目を通してみると本当に台詞がある。タラーッと冷や汗がでてきました。

 なんで「イーヨ!」なんて言ってしまったのだろう。でも後の祭り。早速妻に予定が空いている日は全部稽古に行く旨を伝え、最優先にスケジュールを押さえることにしました。

 さて忘れもしない2月17日、出演者の顔合わせ。その日は午後15時7分の新幹線で仙台を発ち、池袋の芸術劇場リハーサル室へ17時30分到着。

 顔合わせは18時からなのでお茶を飲みながら待機。時間になって会場へ行くと、見知らぬ人ばかり。さりげなく佐渡さんを探す。「アッ、いた!」 軽く挨拶を交わし、ひと安心。やがて周りの人達に促されるようにして席につき、ひとりずつ紹介がはじまります。

 続いて演出の安崎求さんからお芝居の流れの説明があり、全体が2部構成で、1部は「不思議の種」というミュージカル、2部は「コンサート」であることがわかりました。帰り道、1部で共演させていただく佐藤薫さんと一緒になり、駅まで話しながら帰ることに。お互いが誰なのかよく分からない同士で話をしながら歩くなんて久しぶりのこと。短い時間でしたが、佐藤薫さんのやさしい心づかいを感じた帰り道でした。

ところで1部の私の役は「おじいさん」。佐藤薫さんが「おばあさん」で夫婦の設定。早速翌日から稽古がはじまります。

 稽古の場所は阿佐ヶ谷。稽古場に着いてもどんな段取りで稽古が進むのかがわからず、精神的にやや不安定。初日は場面ごとに台詞を読んでゆきます。うー、だんだんおじいさんの場面が近づいてくる。

 私はこう考えました。「最初の台詞を恥ずかしがってしまったら、その後がもっとしんどくなるにちがいない」。ゆっくりと覚悟をきめてゆきました。

 さあいよいよ私の番がまわってきます。「お芝居は初めてなので、どんなふうに台詞を言えばよいのか教えてください」と安崎さんに質問。後で佐渡さんが言っていたのですが、この時の僕は恐い感じがしたそうです。

 おじいさんの台詞は「あー!これはこれはきれいな花だ〜」ではじまります。さあ僕のお稽古デビューです。 自分の中にある、かつて見たおじいさんのイメージを凝縮しながらGO!その結果、「まんが日本昔話」風のおじいさんになっている私。しかし皆さんはやさしく「よかった」と言ってくださり、たくさんの励ましをもらいながら、やっとこさスタートした次第です。

 台詞を語る上で驚いたのがその声の大きさ。まあ日常生活ではありえない程の大きな声でドラマの登場人物の心の動きを表現していくことは、私にとって容易なことではありません。もちろん自分が役を演じられるなどとは最初から思っていないので、安崎さんのアドバイスを少しでも忠実に表現できるようにと、ただただ頑張りました。


稽古場にて

何のビン持ってんの?

稽古場にて

後列中央が 登坂良樹さん 右が坂田梁山さん

前列左から
石田尚美さん 佐渡寧子さん 加藤さん 古町さん



 そのころの不安のひとつは、稽古の中で、いつごろ台詞を頭に入れれば良いのか?みなさんが台本を見ているので安心していたら、翌日突然「台本無しで通しましょう」などということになりはしないか?

 音楽のリハーサルならば演奏の出来具合やこれからすること等、全体の流れが見えるのですが、お芝居に関しては先がまったく見えません。

 そんな中、稽古帰りにラーメンを食べにゆくことになり、そこでいろいろなことを教えてもらうことができました。なにより出演者のかたがたと親しくなれたのがよかったです。普段の私はあまり付き合いが良い男ではないのですが、この時ばかりは仲間に加わろうと積極的でした。


その時のラーメン屋の面子
佐藤薫さんと坂本法子さん

薫さんと法ちゃん

またまたその時のラーメン屋の面子
パントマイムの石田尚美さんと

尚美さんと

 さて稽古も進み、稽古場に音響さんや照明さんが顔を出すようになりました。音響の鈴木氏とは20年ほどのお付き合いがあります。友人の前で、はじめておじいさんの演技を披露することになり、彼の顔を見たとたんに私は舞い上がってしまいました。やっと憶えた台詞が、チリバラになてゆきます。今まで身につけたおじいさんの感覚もどこへやら。しかし今思えばここで舞い上がる練習ができて良かったと思うしだいです。本番でこんなことになったら、私の春は涙と悲しみの春になってしまったことでしょう。

今回私は1部ではおじいさん役とギターを2曲弾くことに。2部では5曲ほどを歌わせていただくことになりました。本番も近くなって、音楽関係のリハがはじまります。編成はピアノ(玉井悦子さん)、尺八(坂田梁山さん)、琴(稲葉美和さん)チェロ(高橋泉さん)、ドラム(市原康様)、そしてギターという異色の組み合わせ。

 1部だけでも10数曲というボリューム。しかも台詞とのタイミングや、踊りとの微妙なスピード感を調整しながらのリハーサル。テンポやきっかけを出す玉井さんの活躍ぶりは金網デスマッチのようでなんだかステキでした。ブラボー、ビバ玉井!

 さて公演当日。2部公演の最初は13時から。開演と同時に稽古をしてきた20日間が光のように飛び去っていく、そんな感じで舞台が進みます。

 不安になって真っ白になってはいけないと心に言い聞かせて、自分自身を緊張させないようにする。最初はおじいさんの衣装でギターを弾く。もちろん1部はバンドの姿が客席からは見えません。その曲が終わるとおじいさんの立ち位置へ移動。杖をもらい、いよいよ出番です。

 台詞が身体に入るという言い方があることを今回知りましたが、不思議に自分の言葉のような感じで台詞が出てきます。頭でおぼえているというよりは、脊髄でおぼえたという感じ。

 その中身はというと、おばあさんが重い病気で医者からも数日のいのちといわれている状態。病院へ向かう道すがら、良太君(内藤大希君)と遥ちゃん(塚田唯依ちゃん)の家の庭先に咲いている花、不思議の種から咲いた美しい花を見つけ、それをおばあさんのためにもらえないか?と願うが、良太君に断られてしまう。

 そこで不思議な花が、「おじいさんに訳を聞いてみたら?」とアドバイス。おばあさんの病気のことを知った子供たちは、そのことを花に伝える。黄色い花が「私を切り取っておじいさんにあげて」と子供たちに語りかける。

 その花をもらったおじいさんはおばあさんの入院している病院へ。ベッドの上におばあさん。その脇におじいさん。ここからはデュエットで、深い絆で結ばれて歩んできた二人の人生を歌い上げる。照明が落ちて場面転換。


感動のシーン?

舞台のおじいさんおばあさん


 出番が終わり舞台袖に入った瞬間の安堵感、充実感はちょっと癖になりそうな感覚。すぐにギターの席に戻り1曲演奏。

 さあ1部のフィナーレです。出演者が舞台にそろい、いのちは受け継がれていくものであることを心に刻みながら遠くを見つめる。舞台のホリゾンが宇宙に変わり、どん帳が降りる、

 1部終了。ほっとする間もなく、15分後にはじまる2部の準備に入ります。私はおじいさんのメイクを落とし、衣装を着替え、ギターのチューニングと小道具をチェック。


同じ楽屋だった藤浦功一さん

藤浦さんは本番3日前に肉離れになってしまいましたが
痛み止めも打たずに出演
「肉離れなんて油断したからですよ」
との言葉が心に残っていますよ

藤浦さん


 2部は楽園をテーマにしたコンサート。全体をマイマー(石田尚美さん)が進行してゆきます。最初は南の島に嵐が来たところからスタート。エネルギッシュなジャズダンスが繰り広げられています(みんな踊りながら歌も歌うんですよ)。

 2部では私のオリジナル曲「楽園」を歌ったり(市原氏のドラムとデュオ)、佐渡さんと「花」「島唄」をデュエットさせていただいたり、新しい挑戦をさせてもらいました。

 そうそう赤いばらを手品のように出すということもしたんですよ。アッハッハ。

 2部の最後は佐渡さんのオリジナル曲「あなたの光に照らされて」を会場と一緒に歌います。出演者は手話をしながら会場を巻き込むような形で歌いました。どん帳が降りて2部が終了。


佐渡寧子さんとのデュエット
美女となんとか

デュエット


 20日間に及ぶ稽古、そしてあっという間に終わった2回の公演。終演後、「わたしゃ明日からどうすればいいの?」という感じでした。

 しかししかし、丁寧な制作現場の空気から、私は多くのことを学ばせていただきました。演出の安崎求さん、そして演出をサポートしてくださった小川美也子さん。本当に良い出会いをさせていただきました。

 突発的な出来事や時間の足りない稽古の中で、一度も声を荒げることもなく、忍耐強く演出されている姿に接し感動しました。

 本番の前日、ゲネプロが終わってダメ出しの後に、安崎さんがこう言いました。「今私は船を見送ります。明日は精いっぱい楽しんで演じてください」。舞台の稽古は船に例えるそうです。そして本番を前にして船を見送る。

 なにか今年成人を迎えた私の娘とのことと重なる思いがしました。親である自分は何かにつけてグダグダとつきまといがち、時には船を見送ることって大事ですね。


左から
伊藤ひさ子さん 小川美也子さん じいさん 安崎求さん
 
制作陣と


 舞台は大勢の方の力が結集されてできあがっています。文中に登場しなかった、子役で素敵なダンスを披露してくれた柴原史佳ちゃん。舞台監督の島さん、音楽を担当した伊藤ひさ子さん、衣装の安間さん、音響の鈴木さん、照明の瀧山さん、ありがとうございました。

 今年の春は「不思議の種」からいい夢を見せてもらった春になりました。今、私の家の回りには良い香りの花がたくさん咲き始めています。

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