新しい公益法人制度について

(平成19年8月4日)

平成18年5月26日、国会で「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(いわゆる「公益法人改革三法」)が成立し、同年6月2日に公布されています。施行日は、公布の日から2年6月内政令日とされていますが、具体的な施行日はまだ決まっていません。
 本稿では、これらの法律による新しい公益法人制度について説明します。

1 新法の概要
 これらの法律によって具体的に何が変わるかというと、まず民法上の社団法人・財団法人の制度を廃止し、これら従来の「公益法人」は、法人格の認定と公益性の認定が別の手続きになります。
 法人を設立するには、会社と同じ準則主義で設立できる「一般社団法人」及び「一般財団法人」を設立し、公益性の認定を受ければ「公益社団法人」「公益財団法人」となり、従来の公益法人が受けてきた税制上の優遇措置を受けることができるようになります。
 そして、一般社団法人は、現行法の中間法人と趣旨を同じくするものですので、中間法人法は公益法人改革三法の施行とともに廃止され、有限責任中間法人はそのまま一般社団法人に移行します(ただし、名称変更の手続が必要となるほか、定款の規定の一部が強制的に変更されるので注意が必要です)。無限責任中間法人は、新法の施行後1年以内に、一般社団法人への移行手続きをしなければならず、期限内に移行の登記の申請をしないときは解散したものとみなされます。
 有限責任中間法人については、不動産の証券化スキームにも使われたりして、最近ちらほら見られるようになりましたが、無限責任中間法人は実際のところほとんど使われていないようなので、このような経過措置になったものと思われます。
 なお、非営利団体に関する法人制度には、他にも特定非営利活動法人(NPO法人)がありますが、この法人は設立時の認証の際にもある程度公益性の審査が行われるなど、一般社団法人制度に統合するには無理があるため、新法施行後もそのまま存続するものとされています。

2 一般社団法人の組織等
 一般社団法人において、必ず置かなければならない機関としては、社員総会と理事があります。ほか、任意設置の機関として理事会、監事、会計監査人がありますが、理事会または会計監査人を置く場合は監事も置かなければならず、また最終事業年度における貸借対照表上の負債額が200億円以上となる一般社団法人(大規模一般社団法人)には、会計監査人の設置が義務づけられます。
 理事の中から代表理事を選任することとするかどうかは原則として自由ですが、理事会を置いている場合は、必ず代表理事を選ぶ必要があります。
 また、大規模一般社団法人については、会社法上の大会社と同様に、理事会における内部統制システムの構築が義務づけられます。
 理事の人数には制限はありませんが、公益認定を受けるには、理事を3名以上置く必要があります。
 基本的には、社員=株主、理事=取締役、理事会=取締役会、監事=監査役と考えて大体間違いないと思いますが、これに公益認定の問題が絡むと、話が非常に複雑になります。
 なお、現行の民法法人には、必置機関としての理事、任意設置機関としての監事に関する規定しかありません。中には、定款の規定で理事会を置いている団体もありますが、これは必ずしも新法の理事会には該当しないため、現行制度が新法の理事会制度に適合するかどうかをチェックする必要があり、場合によっては組織の大幅な見直しを迫られる団体も出てくるでしょう。

3 一般財団法人の組織等
 一般財団法人において、必ず置かなければならない機関としては、評議員、評議員会、理事、理事会、監事があります。また、大規模一般財団法人(定義は大規模一般社団法人と同様)については、会計監査人の設置も義務づけられます。
 一般社団法人には、有限責任中間法人のような設立時基金の金額に関する規制は特にありませんが、一般財団法人については、設立時の拠出財産が300万円以上必要になります。
 評議員及び評議員会は、概ね一般社団法人の社員及び社員総会に相当する権限を持つ機関ですが、一般財団法人には社員に相当する者がいないため、評議員も法人の役員であり、財団とは委任関係にあり、報酬も定款で定める必要があります。評議員の任期は原則4年ですが、定款の規定で6年まで伸長することができます。
 評議員は3人以上選任する必要があり、その選任または解任の方法は定款で定める必要がありますが、理事の業務執行を監督するという地位に鑑み、評議員を理事または理事会が選任することはできません。
 なお、財産の拠出という形で法人を設立するには、現行法では民法の財団法人として、設立時に主務官庁の許可を受ける必要がありましたが、新法の施行に伴い、財団組織も準則主義で設立できるようになったというのが大きな特徴です。なお、新信託法においても、これに合わせて受益者の定めのない信託に関する規制が緩和されていますが、公益目的以外の受益者の定めのない信託については、別に法律で定める日までの間、政令で定める法人のみを受託者とすることができるものとされています。

4 公益認定の意義
 公益目的事業を行う一般社団法人及び一般財団法人は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益認定法)による行政庁の認定(公益認定)を受けることができます。
 認定を受けられる法人は、一般社団・財団法人法により新設された法人のほか、有限責任中間法人から名称変更した一般社団法人、無限責任中間法人から移行した一般社団法人も含みます。
 なお、既存の民法法人については、新法施行後5年間の移行期間中に、公益法人法による公益認定ではなく、整備法の規定による公益法人への移行の申請をすべきことになります。
 一般社団法人及び一般財団法人が公益認定を受けるメリットは、公益社団法人(公益財団法人)の名称を名乗ることにより団体・事業の公益性をアピールできること、及び税制上の優遇措置を受けることの2点であると考えられます。
 現行法における中間法人は、法人税法上の普通法人であり、清算所得以外は会社と同様に法人税が課税されますが、民法法人は法人税法上の「公益法人等」とされ、収益事業(製造業、販売業その他政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるもの)以外の所得及び清算所得については非課税、収益事業に対する所得に対しても22%の軽減税率(ただし、地方税は別途かかります)が適用されています。
 新法施行後は、おそらく公益認定を受けた団体に限り、現行の民法法人に認められるような税制上の優遇措置が認められるようになると考えられます(ただし、新法施行に伴う具体的な税法の改正はまだ行われていないので、現行税制の枠組みが今後も維持されるとは限りません)。

5 公益認定等を行う機関
 公益認定を行う行政庁は、次のいずれかに該当する場合は内閣総理大臣、それ以外の場合は事業所所在地の都道府県知事とされています。
(1)二以上の都道府県の区域内に事務所を設置するもの
(2)公益目的事業を二以上の都道府県の区域内において行う旨を定款で定めるもの
(3)国の事務又は事業と密接な関連を有する公益目的事業であって政令で定めるものを行うもの

 ただし、内閣総理大臣が行う公益認定や、公益認定を受けた団体に対する監督については、原則として内閣府に設けられる公益認定等委員会に諮問し、その答申に基づいて行うものとされています。都道府県知事が行う公益認定等についても、公益認定等委員会に準ずる審議会その他の合議制の機関(名称は各都道府県の条例で定められます)を置き、原則としてその機関への諮問及び答申に基づいて行うものとされています。

6 公益目的事業
 公益認定の対象となる公益目的事業は、学芸、技芸、慈善その他の公益に関する次のいずれかに該当する事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとされています。

一 学術及び科学技術の振興を目的とする事業
二 文化及び芸術の振興を目的とする事業
三 障害者若しくは生活困窮者又は事故、災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
四 高齢者の福祉の増進を目的とする事業
五 勤労意欲のある者に対する就労の支援を目的とする事業
六 公衆衛生の向上を目的とする事業
七 児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業
八 勤労者の福祉の向上を目的とする事業
九 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業
十 犯罪の防止又は治安の維持を目的とする事業
十一 事故又は災害の防止を目的とする事業
十二 人種、性別その他の事由による不当な差別又は偏見の防止及び根絶を目的とする事業
十三 思想及び良心の自由、信教の自由又は表現の自由の尊重又は擁護を目的とする事業
十四 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
十五 国際相互理解の促進及び開発途上にある海外の地域に対する経済協力を目的とする事業
十六 地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業
十七 国土の利用、整備又は保全を目的とする事業
十八 国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業
十九 地域社会の健全な発展を目的とする事業
二十 公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上を目的とする事業
二十一 国民生活に不可欠な物資、エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業
二十二 一般消費者の利益の擁護又は増進を目的とする事業
二十三 前各号に掲げるもののほか、公益に関する事業として政令で定めるもの

 ここでいう「不特定かつ多数の利益の増進に寄与する」とは、公益性を認めうるに十分な広い範囲に利益が及ぶことを意図しており、かつ実際にその効果が及ぶことが必要であると説明されています。
 公益認定を受けるには、単に事業内容が上記一から二十三までのいずれかに該当するだけではダメで、この「不特定かつ多数の利益の増進に寄与する」という要件を満たすことも必要であることに注意する必要があります。
 なお、上記の二十三には「政令で定めるもの」という記載がありますが、これは公益性を認めるのに相応しい団体であるものの、一から二十二のいずれにも該当しないという団体が現れた場合に備えて念のため規定されたものに過ぎません。
 特に、十四号の「より良い社会の形成の推進を目的とする事業」などは、考え方によってはいくらでも広く解釈できるので、およそ公益性を認めうる団体であれば一から二十二までのいずれかには該当するだろうと考えられており、二十三号に相当する政令が定められる予定は今のところありません。

7 公益認定の基準
 公益認定の基準については、公益認定法5条に列挙されていますが、政令や内閣府令への委任事項も多く、また基準の具体的解釈については今後ガイドラインが発表される予定であるため、詳細はそれらの発表を待つ必要があります。
 公益認定法5条及び6条によると、公益認定を受けるには、以下のすべての要件を満たす必要があります。

(1)公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること。
 「公益目的事業」については、上記6で述べたとおりです。

(2)公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること。
 「技術的能力」については、その事業内容により基準は様々であると思われますが、「経理的基礎」というのは、単に財産上の問題だけではなく、財政状況の開示(ディスクロージャー)に公認会計士や税理士など会計の専門家を関与させるなど、公正な経理処理が行われる体制が整っていることも必要であると考えられています。

(3)その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること。


(4)その事業を行うに当たり、株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。ただし、公益法人に対し、当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合は、この限りでない。
 要するに、特定の個人や団体に特別の利益を与える事業を行ってはならないということです。

(5)投機的な取引、高利の融資その他の事業であって、公益法人の社会的信用を維持する上でふさわしくないものとして政令で定めるもの又は公の秩序若しくは善良の風俗を害するおそれのある事業を行わないものであること。
 これは、特に説明するまでもないでしょう。

(6)その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること。
 要するに、必要以上に収益が貯まる状態であってはならないということです。

(7)公益目的事業以外の事業(以下「収益事業等」という。)を行う場合には、収益事業等を行うことによって公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。
 ここでいう「収益事業等」は、法人税法に規定する収益事業(法人税法施行令5条で具体的な事業が列挙されている)とは異なる概念であることに注意する必要がありますが、公益認定を受けた団体が行う事業のうち、具体的にどこまでが公益目的事業であって、どこからが収益事業等とみなされるかについては、今後制定されるガイドラインで明らかにされるものと思われます。

(8)その事業活動を行うに当たり、第十五条に規定する公益目的事業比率が百分の五十以上となると見込まれるものであること。
 ここでいう「公益目的事業比率」とは、その団体における経費全体(公益目的実施のための費用+収益事業等実施のための費用+経常的経費)のうち、公益目的事業の実施に係る費用の割合をいい、公益認定を受けた団体はこの比率が50%以上となるように公益目的事業を行うことが義務づけられます。
 公益目的事業比率の具体的な計算方法は、今後内閣府令で定められることになりますが、経常的経費については、公益法人会計基準に定める「管理費」の概念が用いられることになりそうです。

(9)その事業活動を行うに当たり、第十六条第二項に規定する遊休財産額が同条第一項の制限を超えないと見込まれるものであること。
 遊休資産額とは、公益法人による財産の使用若しくは管理の状況又は当該財産の性質にかんがみ、公益目的事業又は公益目的事業を行うために必要な収益事業等その他の業務若しくは活動のために現に使用されておらず、かつ、引き続きこれらのために使用されることが見込まれない財産として内閣府令で定めるものの価額の合計額をいいます。
 公益認定を受けた団体の各事業年度末日における遊休資産額は、同一内容・同一規模の公益事業を翌年度も引き続き行うために必要な額として、公益目的事業の費用等を基礎として内閣府令で定める金額を超えてはならないものとされています(16条1項)が、その規制に抵触するような余剰財産を抱える見込みであってはならないということです。

(10)各理事について、当該理事及びその配偶者又は三親等内の親族(これらの者に準ずるものとして当該理事と政令で定める特別の関係がある者を含む。)である理事の合計数が理事の総数の三分の一を超えないものであること。監事についても、同様とする。

(11)他の同一の団体(公益法人又はこれに準ずるものとして政令で定めるものを除く。)の理事又は使用人である者その他これに準ずる相互に密接な関係にあるものとして政令で定める者である理事の合計数が理事の総数の三分の一を超えないものであること。監事についても、同様とする。
 要するに、理事または監事の3分の1以上が、親族など特定のグループによって占められてはならないということです。これは、理事などの大多数が特定のグループによって占められると、事実上特定の個人や団体に特別の利益を与える団体になってしまうおそれがあるという理由から設けられた規制です。

(12)会計監査人を置いているものであること。ただし、毎事業年度における当該法人の収益の額、費用及び損失の額その他の政令で定める勘定の額がいずれも政令で定める基準に達しない場合は、この限りでない。
 一般社団法人及び一般財団法人では、負債総額が200億円を超えている場合にのみ会計監査人の設置が義務づけられますが、公益認定を受けるには、原則として会計監査人を置く必要があります。

(13)その理事、監事及び評議員に対する報酬等(報酬、賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益及び退職手当をいう。以下同じ。)について、内閣府令で定めるところにより、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該法人の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定めているものであること。
 理事等について、不当に高額な報酬を定めている場合には、それによって事実上特定の者に特別の利益を与えることになってしまうため、そのような事態を防止するために設けられた規制です。
 不当に高額な報酬等の支給が現に行われていないだけでなく、その支給の基準が定款や社員総会決議で定められている必要があります。

(14)一般社団法人にあっては、次のいずれにも該当するものであること。
イ 社員の資格の得喪に関して、当該法人の目的に照らし、不当に差別的な取扱いをする条件その他の不当な条件を付していないものであること。
ロ 社員総会において行使できる議決権の数、議決権を行使することができる事項、議決権の行使の条件その他の社員の議決権に関する定款の定めがある場合には、その定めが社員の議決権に関して、当該法人の目的に照らし、不当に差別的な取扱いをしないものであり、かつ、社員が当該法人に対して提供した金銭その他の財産の価額に応じて異なる取扱いを行わないものであること。
ハ 理事会を置いているものであること。
 会員の入会資格を定めている団体などは、この規制に抵触しないかどうか検討する必要があります。また、通常の一般社団法人と異なり、理事会及び監事は必ず置かなければなりません。

(15)他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産を保有していないものであること。ただし、当該財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合として政令で定める場合は、この限りでない。
 これは、他の団体の意思決定に関与することによって、実質的な公益目的事業規制の逸脱などが生じることを防止するための規制と考えられます。

(16)公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産があるときは、その旨並びにその維持及び処分の制限について、必要な事項を定款で定めているものであること。
 特に説明の必要はないと思われますが、具体的にどのような事項を定める必要があるかは、ガイドラインなどに委ねられることになるでしょう。

(17)第二十九条第一項若しくは第二項の規定による公益認定の取消しの処分を受けた場合又は合併により法人が消滅する場合(その権利義務を承継する法人が公益法人であるときを除く。)において、公益目的取得財産残額(第三十条第二項に規定する公益目的取得財産残額をいう。)があるときは、これに相当する額の財産を当該公益認定の取消しの日又は当該合併の日から一箇月以内に類似の事業を目的とする他の公益法人若しくは次に掲げる法人又は国若しくは地方公共団体に贈与する旨を定款で定めているものであること。
イ 私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第三条に規定する学校法人
ロ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条に規定する社会福祉法人
ハ 更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)第二条第六項に規定する更生保護法人
ニ 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人
ホ 国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人又は同条第三項に規定する大学共同利用機関法人
ヘ 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人
ト その他イからヘまでに掲げる法人に準ずるものとして政令で定める法人
 これは、公益認定の取消や合併による法人消滅の際、公益目的事業のために取得した財産が散逸することを防止するための規定です。なお、政令で定める法人については、法人の類型が定められるのではなく、規定に適合する法人の実質的要件が定められる予定になっています。

(18)清算をする場合において残余財産を類似の事業を目的とする他の公益法人若しくは前号イからトまでに掲げる法人又は国若しくは地方公共団体に帰属させる旨を定款で定めているものであること。
 前号と同趣旨の規制です。

(19)以下の欠格事由のいずれにも該当しないこと。

一 その理事、監事及び評議員のうちに、次のいずれかに該当する者があるもの

イ 公益法人が第二十九条第一項又は第二項の規定により公益認定を取り消された場合において、その取消しの原因となった事実があった日以前一年内に当該公益法人の業務を行う理事であった者でその取消しの日から五年を経過しないもの

 ロ この法律、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定(同法第三十一条第七項の規定を除く。)に違反したことにより、若しくは刑法第二百四条、第二百六条、第二百八条、第二百八条の三第一項、第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律第一条、第二条若しくは第三条の罪を犯したことにより、又は国税若しくは地方税に関する法律中偽りその他不正の行為により国税若しくは地方税を免れ、納付せず、若しくはこれらの税の還付を受け、若しくはこれらの違反行為をしようとすることに関する罪を定めた規定に違反したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者

 ハ 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者

 ニ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第二条第六号に規定する暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者(第六号において「暴力団員等」という。)

二 第二十九条第一項又は第二項の規定により公益認定を取り消され、その取消しの日から五年を経過しないもの

三 その定款又は事業計画書の内容が法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反しているもの

四 その事業を行うに当たり法令上必要となる行政機関の許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等をいう。以下同じ。)を受けることができないもの

五 国税又は地方税の滞納処分の執行がされているもの又は当該滞納処分の終了の日から三年を経過しないもの

六 暴力団員等がその事業活動を支配するもの

 なお、各要件の該当性については、公益認定の審査にあたり警察庁、国税庁など関係各省庁の意見を聴くこととされています。
 いずれにせよ、公益認定の要件は以上のように規制が多く厳しいので、少なくとも相談を受ける弁護士としては、公益認定の申請をしたいと言われても一筋縄では行かないということは心得ておくべきです。

8 行政庁による監督等
(1)行政庁の認定が必要な事項
 次のいずれかに関する変更は、内閣府令で定める軽微な変更を除き、行政庁の認定を受けなければなりません。この場合には、前記7の要件を満たすか否かが再度審査されることになります。
一 公益目的事業を行う都道府県の区域(定款で定めるものに限る。)又は主たる事務所若しくは従たる事務所の所在場所の変更(従たる事務所の新設又は廃止を含む。)
二 公益目的事業の種類又は内容の変更
三 収益事業等の内容の変更

(2)認可が必要な事項
 公益法人が消滅法人となる新設合併により、新設する公益法人が旧公益法人の地位を承継する場合には、行政庁の認可が必要です。

(3)届出が必要な事項
 合併や事業の全部または一部の譲渡、公益目的事業の全部廃止については、認定または認可が必要な場合を除き、事前の届出が必要となります。
 名称や代表者の変更、認定不要とされる軽微な変更、定款変更その他内閣府令で定められた事項については、事後遅滞無く行政庁に届け出る必要があります。
 解散については、その後1ヶ月以内に届け出る必要があります。

(4)行政庁による監督の手段
 行政庁は、公益法人の事業の適正を確保するために必要な限度において、公益法人に対する報告徴取、立入検査及び関係者に対する質問の権限が認められています。
 公益法人が、公益認定の要件に適合しなくなり、または公益認定法その他の法律による規制や法令の規定に基づく行政機関の処分に違反していると疑うに足りる相当の理由があるときは、必要な措置を行うべき旨の勧告を行い、正当な理由なくその勧告に従わなかったときは、当該措置をとるべき旨の命令をすることが出来ます。勧告の内容は公表され、命令は公示されます。
 公益法人が正当な理由無く命令に従わない場合などの事由があるときは、行政庁はその法人の公益認定を取り消すことができます。公益認定が取り消されたときには、定款の定めに従い1ヶ月以内に公益事業目的取得財産の残額を贈与する必要がありますが、期限内に書面による贈与契約が成立しなかった財産は、監督行政庁が内閣総理大臣である場合には国、都道府県知事である場合には当該都道府県に、それぞれ書面により贈与したものとみなされます。

9 既存の民法法人について
 現行民法34条、及び現行民法施行法の規定により設立された社団法人や財団法人は、新法の施行後5年間、整備法の規定による特例社団法人または特例財団法人(特例民法法人)として存続することができます。
 特例民法法人は、建前上一般社団法人・一般財団法人に含まれますが、名称については従来どおりであり、その他経過措置が多く設けられ、概ね従来どおりの組織形態のままで存続できるようにされています。旧主務官庁による監督も従来どおりであり、一定の場合には旧主務官庁による措置命令や解散命令の権限も認められています。
 特例民法法人は、新法施行後5年間の移行期間中に、公益社団法人(公益財団法人)へ移行するか、一般社団法人(一般財団法人)への移行しなければならず、そのいずれも行わない場合は、移行期間の満了時に解散したものとみなされます。
 特例民法法人の、公益社団法人または公益財団法人への移行の認定の申請は、法律上公益認定法による公益認定の申請とは別個の手続きとされていますが、認定をする行政庁及び認定の基準はほぼ同じです。
 一方、特例民法法人が一般社団法人・一般財団法人に移行するには、移行の認可を受ける必要があります。
 認可をする行政庁は公益法人への移行の場合と同じであり、認可を受けるには、(1)定款変更案が一般社団・財団法人法及びこれに基づく命令に適合していること、(2)現行民法72条の規定により、解散した場合には当該法人の目的に類似する目的のために処分し、または国庫に帰属すべきものとされる残余財産が一定額以上存在する場合には、その財産を公益目的に支出することにより零とする計画(公益目的支出計画)を作成し、当該民法法人がその計画を確実に実施すると見込まれること、が必要になります。
 その他の選択肢としては、旧主務官庁の認可を経て他の民法法人と吸収合併する、社団法人については移行期間内に総会決議で解散してしまうといったものがあります。特例民法法人の清算手続については、現行民法82条の例により、裁判所の監督に属することとされ、清算人については裁判所に選任・解任の権限が認められています。
 なお、新法の施行により、民法の法人に関する規定の多くが削除されますが、司法試験に出てくる現行民法44条(法人の不法行為能力等)に関する規定は一般社団・財団法人法78条に移り、他の法律で民法の法人に関する規定が準用されていたものについては、現行民法44条を除き、概ね各法律に独自の規定を設ける旨の改正がなされています。

10 今後の展望
 前回にも触れたとおり、公益認定の基準等に関する具体的な中身は、今後制定される政令・内閣府令やガイドラインによって初めて明らかにされるところが多く、現段階ではまだ白紙の事項も多いです(ただし、公益認定等については、実質的審査は内閣府に設けられる審議会である公益認定等委員会によって行われるものであり、NPO法人のように国税庁が公益性を審査するわけではありません)。
 ただ、これまで既存の民法法人については、法律より主務官庁の監督に頼るところが大きく、あまり法務体制等は重視されてこなかったところも少なからずあると思われるところ、新法施行後は、既存の民法法人も規模によっては大企業並みに法律及び経理に関する体制を整備する必要に迫られ、関係する法律もこれまで見てきたようにかなり複雑で専門的な知識が必要なものですので、公益法人関係も弁護士の新たな専門分野となってくる可能性があると思われます。


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