簡単なことを難しくしてはいないか

 講演会やお話を聞いていると、簡単な内容をことさらにむずかしく話している人がおります。 とくに日本人は簡単な内容でもむずかしく話す人をありがたがるようです。 むずかしい話を聞くと、とっても大事なことを聞いたような気になるし、むずかしい言葉や横文字を多用されると、これまたありがたく聞こえがちなものです。 まるで仏教のお経のようなものです。 訳が分からなければ分からないほど、ありがたみが増すのです。 皮肉混じりに書きますと、日本人はむずかしく話すことやむずかしい言葉を使えば、自分が偉く見られるとでも思っているかのようです。

  しかし、私はそうは思いません。 むずかしいことを分かりやすい言葉で分かりやすく話す、英語なども必要最小限にとどめて話すことが、ものごとをよく理解している人だと思います。 ずっと以前のことになりますが、ラジオで講演会を聴いたときにその講演者は30分位の話の中で英語はほんの数語しか使わなかったことが印象深く残っています。 それでいて話の内容は分かりやすく、感銘を受けました。 むずかしい言葉を多用したり、横文字を多用する人は、自分でも話すことの内容を十分に理解していないのではないかと思うこともあります。 自分を権威づけるために、話をむずかしく話しているのかも知れません。 本人は意識していないと思いますが。

  生きていくことは確かにむずかしいことだと思います。 しかし自分が考えているほどは、むずかしくないかも知れません。 つらく苦しいことですが。 自分が必要以上にむずかしくしているのかも知れないのです。 信念が明確な人にとっての人生は、そんなにむずかしいものではないと思います。 ここで言うむずかしいとは悩みが少ないということであって、苦労が少ないということではありません。 苦労が少ないことと悩みが少ないことは、似ているようですがよく考えてみると大分違うことのように思われます。 うまく表現することはできないのですが、本質的に違うような気がします。 

   人生が複雑になるのは、自分なりの信念や一定した問題解決の方法を持たずに、その場その場でよく言えば臨機応変に、悪く言えば行き当たりばったりに対応しているからではないでしょうか。 ものごとの基本をいつも変えるから、複雑になるのではないでしょうか。 と言うよりは基本を持ち合わせていないことが、人生を複雑にするのだと思います。 もちろん若いときから信念を持てと言われても、それは無理ですが、人生を積極的にとらえて、年代に応じた経験を積むことが必要だと思います。 ここでも経験がものを言います

 だが、いつかはいまの自分の基本を変えなければならないときもあることを、忘れてはなりません。 基本を変えないことと、基本を変えなければならなくなることとが、人生には必ずあるのです。

  人生をむずかしくすることのひとつは、自分のことは冷静に見つめることができないということでしょう。 そのために迷路に迷い込み、堂々巡りを繰り返すことが多くなります。 自分を冷静に見つめられないのか、わざと避けているのかということも考えなければなりません。 冷静に見つめるとどんな思いがけないことが浮かんでくるかも知れないので、できることなら避けて通りたいという気持ちが無意識に働くからです。

  人生を必要以上にむずかしくするのもしないのも、自分の考え方次第だと思います。 そんなときは「迷ったら原則に帰れ」、「ぼけっとする」ことが、いい薬になるのではないでしょうか。 一度試してみては、いかがでしょうか。 

  簡単なことや日常茶飯事に起きていることを、軽視してはならないと思います。 そのようなことの中にも、大切なことや真理はたくさん含まれているのでから。 簡単なことだから、ささいなことだから、重要ではないとは言えないのです。 ささいなことを軽視すると、ささいなことで足をすくわれることもありますから十分注意することです。 なにが重要で、なにが重要でないかを知るには人生経験を積むしかないでしょう。

  逆に、日頃から自分にとって重要だと思っていることも、ときどき考え直してみることも必要です。 先入観を持たずに考え直してみることです。 随分と余計な荷物を抱えているかも知れませんよ。 役にも立たない荷物は、捨てて新たに役に立つ荷物を手にすることができれば、生きることから苦痛が大幅に減ると思います。 いくら大きな荷物でも、自分にとって役に立たなければ持っている意味はないのですから。 持っていることに意味があるのではなくて、持っていて役に立ってこそ意味があるのです。

  ただでさえ生きることには困難と面倒くささがつきまとうのですから、簡単なことやどうでもいいことを難しくしてしまう必要はありません。 ものごとを見極めることができるように、日頃から訓練を積むことが必要なのです。

 「何が大切なことなのか」、このことさえ押さえられるようになれば、生きていくことの苦しみや悩みの多くが消えていくと思います。

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