「その場しのぎ」と「先送り」

 別のページで「現実から逃げるから、生きることがますます苦しくなる」と書きましたが、そのことを言葉を変えて書いているようなものです。 「現実から逃げる」ということは、実際に起きていることをありのままに理解しようとしないことです。 その理由は、ここでは考えません。 自分に都合の悪いことを見ようとしなかったり、自分に都合よく解釈しようとしたり、避けることのできないことを避けようとしたり、さまざまのことが上げられます。 その場しのぎや先送りは、まさにその典型的なことです。 問題を先送りすることによって、一応その場をしのげることはありますが、問題が解決したわけではありません。 

 私もずいぶんとその場しのぎをやり、上司やお客様にも迷惑をかけ、また怒られてきましたから、「その場しのぎ」が生きることをどんなにつらく苦しくするが分かっているつもりです。 また個人的なことでもずいぶんと迷惑をかけてきました。 「やってはいけない」と分かっていながらやってしまうからなおしまつが悪いのです。 後になれば問題は大きくなるだろうと分かっていても、「いま」を乗り切りためにやってしまう、あるいはなにもしないでしまうのです。 人間の弱さに根ざした根本的な問題だと思います。 

  「先送り」も「その場しのぎ」の一種であり、その場しのぎのために用いられるもっとも一般的な方法です。 先送りは読んで字のごとく「いまやるべきことを、将来にのばすこと」で「先延ばしにすること」とまったく同じことです。 先送りをする口実として言われる言葉は

忙しいからあとでする
勉強しているからあとでする
疲れているからあとでする
分かっているから、同じことは何度も言わないで
だれもしていないから、自分もしない
やっても仕方がない、どうにもならないから
どうせ結果はやるまえから分かっているのだから

 このような言葉は、だれでも幾度となく使ったことがあると思います。

  今やるべきことを将来にのばして、そして明日にでも確実にやるならば「先送り」もそんなにいけないことではないのですが、ほとんどの場合なにもしないでしまうから悪いのです。 要するに「先送り」は、「なにもしないこと」と同じ意味になってしまうのです。 いまの日本の政治家や官僚と同じです。上の言葉に共通して含まれている意味は、「結果的になにもしない」ということです。 自分のしたいことがあれば、少々疲れていても、少々仕事がたまっていても頑張ってするはずです。 したくないことをしないための口実として、先送りやその場しのぎをしてしまうのです。  

  その場しのぎや先送りがなぜ悪いかと言えば、そうすることによって多くの場合事態はかえって悪い方に向かうからです。 問題の起きた時点ですぐに対応すれば、大きくならなかったことも先送りすることによって、深刻な事態になるものだからです。 そんなことはだれでもが分かっているのに、だれもがやってしまうのです。 これは無意識のうちに人生に逃げ場があると思っているからでしょう。 決して逃げ場がないのだと身をもって経験していれば、一日や二日の先送りはしても、なにもしないでそのままにしておくということはなくなるでしょう。

  たとえば仕事上でのトラブル対応は、どこの会社でも最優先課題としているではありませんか。 解決の時間が長くなればなるほど顧客を怒らせてしまい、解決が困難になることを経験的に知っているからです。 またそのことが会社全体の評価につながるからです。 

  もう一つの理由は精神衛生上も大変有害であり、ときによってはその場しのぎや先送りが原因で会社に勤めていられなくなることもあります。 このことは重要だと思いますので詳しく書きます。 ぜひ参考にして、このような状況にならないようにしてください。

  ① 顧客とトラブルが発生した
  ② 上司に怒られるのが怖くて、上司に報告できず一人で抱え込んでしまった
       ※報告のタイミングを失ってしまった
  ③ 顧客からは催促の電話が頻繁に入る
  ④ その都度いい加減な返事をして時間を稼ぎ、解決策を一人で模索する
  ⑤ だれにも報告していないので、他の人に電話を取られてばれるのが恐ろしい
  ⑥ 昼休みも休めなくなるし、休暇も取れなくなる
       ※ 使い込みをした人が捕まると、「あんなにまじめな人が…」ということがよくありますが、ばれるのが恐           ろしいから会社も休めないし、昼休みも十分にとれなくなるのです
       ※ そのために、はた目から見ると「まじめ人間」に見えるのです
       ※ 業務上横領などをした人が明るくてまじめだと言われるのには、それ相応の理由があるのです
  ⑦ いつ、どこにいても、そのことが気になる
      ※家にいても、頭から離れなくなる
  ⑧ 会社に行くのがつらくなる
  ⑨ 最悪の場合は生きているのがつらくなる
  ⑩ 精神的におかしくなる可能性がある
 
      
※ このことに関しては実例として、下記の本をお読みになることをすすめます。
             「自殺したい人びと」
                宝島社編    別冊宝島445
                          ドキュメント! 失踪者 
           もし自分が同じような問題を抱えて苦しんでいるのなら、ぜひお読みになることを薦めます。

  こうなるとその場しのぎや先送りのためにしたことが、サラリーマンとしての人生を終わりにし、最悪の場合は自殺という結果をももたらしかねないのです。 こうならないためには、どうすればいいのでしょうか。 次のことは社会人としての基本姿勢なので、どんなことにも応用できますので覚えておいて損はありません。 社会人に限ったことではなく、人生全般に言えることです。 そんなことはとっくの昔から知っているという方は、読みとばして結構です。

  ① トラブルが発生したら、すぐに上司に報告する
      ※ これが基本中の基本です
      ※ 怒られるでしょうが、あとで一人で悩むことを考えたら、どうということはありません
      ※ 上司は部下の育成と業績向上と、そして部下の責任をとるためにいるのですから
  ② 事実をありのまま報告する
  ③ 上司の指示を受けて対応する
  ④ 途中経過と結果を逐一上司に報告する
  ⑤ 結果の責任は上司とともにとる
 こうすれば、怒られることはあっても悩みを後々まで引きずることはなくなるはずです。  

  「その場しのぎ」を始めると、「嘘の上塗り」をしなければならなくなります。 嘘の上塗りを始めると、はじめのうちは嘘をついてもごまかしができると思います。 嘘で人生や仕事がごまかしきれるのならばこんな楽なことはありませんが、ごまかしきれるものではありません。 嘘を何回もつくということは苦しいものです。 自分の人生を苦しいものにするのは、だれでもない。 自分自身なのです。 人生を楽しいものにするのも、自分自身なのです。 

  大切なことは

言われたことはすぐにする
一人で抱え込まない
報告する
できないことは、はっきりと理由を言ってことわる

  ひとつひとつのことを、その都度片づけて先送りやその場しのぎのない生き方が、生きることをどんなに楽にしてくれるかは経験した人でないと実感が湧かないと思います。 もしどうしても自分にはできないことならば、理由を説明して断れば、ことはそれで済むのです。 しかし、周囲からよく思われようとして八方美人になっている人には、断ることができないのです。 そして自分で自分の首を絞めてしまうのです。

  その場しのぎや先送りをやめるための最良の方法は、自分にはできそうもないと判断したら、理由を行って断る以外にないのです。 これをできる人とできない人とでは、生き方がまったく違ったものになるはずです。

  その場しのぎや先送りほど自分をなくす遠因となるものはないのではないでしょうか。 自分が自信をなくした原因が分からなくなることが多いからです。 これこそは毎日のささいなことの積み重ねなので、あまりにも当然のこととしてやっていることなので、身近なことのためにかえって原因が分からなくなるのではないでしょうか。 「灯台もと暗し」と言いますから。

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