感情は嘘をつかない

  私たちはよく「理屈では分かるが、感情的にどうにもならない」という場面に幾度となく遭遇することがあります。 私も最近そのような経験をしました。 私の妻が車を運転していて、右折してきた車に側面衝突されました。 損害保険会社による過失割合は、9対1と圧倒的に相手に非がありました。 ところが相手(運転者は19才の学生、父親は56才の会社員)には常識や誠意がまったく感じられず、私は心の底から怒ってしまいました。 その結果ただでさえ高かった血圧がもっと高くなり、もっと強い薬をもらう羽目になり、一時は散歩もできなくなりました。 相手は保険の範囲内の保証しかしないと言い、慰謝料や車の傷による型落ち分の保証は全く受けられず、私にとっては踏んだり蹴ったりでした。 むろんこちらから言われるまでは、親子共々謝りにも来ませんでした。 とても相手の誠意のない態度は許せるものではなかったのです。 しかし許すことができなくても、相手は支払う意志はなく、考えれば考えるだけ頭に血が上ってますます許すことができなくなりました。 それでますます血圧が上がりどうにもならなくなりました。 結局はすべての請求をあきらめることで血圧が下がってきました。 まったくの当てられ損でした。 許すことができないようなことを許さなければ、自分が苦しむだけなのです。 はた目から見れば、あいつはお人好しだとか、ばかだと見えるかも知れないようなことを、あえて受け入れなければならないこともあるのです。

  ここから学んだことは、このホームページのどこかにも書いたように、自分の考えだけを押し通そうとすれば自分が苦しむだけだということです。 感情的には許せないことでも、そのことを忘れるというか、あきらめなければ自分が苦しむだけなのです。 「理屈では分かるが、感情的にどうにもならない」ときは、感情を素直に受け入れることが必要なのです。 理性で感情をコントロールしようとすると、はじめのうちはコントロールできても心の中に不平や不満がたまって、それが引き金となって精神的・肉体的に自分がぼろぼろになってしまうことも珍しいことではないのです。

  我々は小さいときから、ものごとを理屈で考えるように教えられてきて、どうしても感情を軽視する傾向があると思います。 しかし人間の本当の姿は理屈や理性にではなく、感情にあると思います。 だから理屈では理解できるが、感情では納得できなくなるのだと確信しています。 人間の本性を勘違いしているのではないと思います。  

  自分の心の中で理性と感情が対立してどうにもならなくなったときは、もう少し感情を大切にすることをおすすめします。 自分の感情を大切にするということは、決して女々しいことではないのです。 日本人、とくに日本男子はとくに感情を表に出すことは、弱い人間のすることだという意識が強すぎると思います。 その結果感情を表現することを禁じられて、自分の中に閉じこもってしまい、その結果心を病んでしまうひとの多い現実には胸が痛みます。 感情はうそをつかないから理性と対立するのでしょう。 理性だけでものごとを判断すると、失うものも多くなるような気がします。 どうにもならなくなってしまったら、もっと自分の感情に素直になってみてはどうでしょうか。 きっといままでは見えなかったものが、見えてくるように思います。

  私は理性で考えることを軽視するものではありませんが、もっと感情を重視すれば、悩みや苦しみが深くならずにすむことが多いのではないかと思うのです。 感情こそが自分の真の姿を現していると思います。 その真の姿を理性で無理に曲げてしまうから、心に余計な葛藤が生じてしまうのです。 真の姿を受け入れられない理由として、自分に自信がないとか、他人に自分の弱みを見せることができないなどの理由が思い浮かびますが、それは自分が自分をどのように見ているかということであって、他人は自分を自分が考えるように見ているとは限らないのです。 むしろそうでないことの方が多いと思います。 言葉を変えれば、独り相撲をとっていることが多いということです。 冷たい言い方をすれば、自分が苦しんでいるのは他人が自分を苦しめているのではなくて、自分で自分を苦しくしているのだと言ったら怒られるでしょうか。 怒ってもらって結構ですが、自分で自分を苦しくしていないかと一度は考えてみて欲しいと思います。 そのような勇気を持って欲しいと切望するものです。 偉そうなことばかり申し上げていることは承知の上です。  

  悩み事系の書き込みを見ていていつも感じることなのですが、自分は苦しくて仕方がない(事実なのですが)とか、あいつを許せないとかそのような段階にとどまっていて、それではどうすればいいかというところまで考える余裕がなくなっているということです。 心にほかのことを受け入れる余裕がなくなっているということです。 自分の心が苦しみ、つらさ、恨みつらみでいっぱいになってしまっていて、他のことが考えられないのです。 自分の考え以外にほかのことを少しでも受け入れる心の余裕があれば、それほどまでに苦しまなくてもすむのではないかと思います。 

  自分のことだけにしがみついて、離れられなくなってしまっているから必要以上に苦しくなっているのだと思います。 自分だけにしがみついて、自分だけを正当化しようとすればするほど、自分の生き方が苦しくなってしまうのです。 これは理屈では説明できないことかも知れません。 自分の過去に起こったできごとを考えていただければ、納得してもらえるものと思います。

  自分にだけしがみついてしまうから、苦しみという海の中でおぼれれてしまうのです。 一方、感情に振り回されすぎても、生きることは苦しくなると思います。

  感情は嘘をつかないからこそ、私たちは苦しまなければならないのではないでしょうか。 これは大切なことだと思います。 感情が嘘をつくなら、私たちはこれほどまでに苦しむことはないと思うのです。

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