はるかへの対話
−夜更けに ネ
船が出るんだって
−川を下るの? それとも
海峡を渡るの?
−それは ネ
両翼のあるコトバだけが
−知っていて
不安に急かれた
片翼の「私」には
わからないかもしれなくて
−木の上に象がいるよ
星を吸っているの?
−あれは ネ
吐き出しているともいえて
疑いをなくしたままで
引かれるみたいに
流れていって
空の密度は動いているんだ
−夢から覚めたら
おやすみなさい かな
−ボクらは 目覚めるたびに
夢を見て
−黒い鳥から種子があふれ
−白い羽根には花びらが乗って
−遠いんだ
−ウン とても
−たどり着くの?
−たぶん ネ
でも 景色の歪みまでは
つかめなくて
だから
たどり着けない
かもしれなくて
−遠いから?
−きっと 見つめられる
見えなくても
(2003年4月パルナシウス131号)
たずさえながら
変わる景色を渡るために
言葉を発火させるのだ
またやってくる季節の前で
ボクらはたじろぐのか
それとも
すでに過ぎたあの日の場所に
帰ろうとするのか
ひび割れた鏡面を歩く
映る世界と
映った世界 その
どちらもが宿す亀裂に
言葉を冷たく発火させるのだ
遠ざかり失うモノたちに
地図を与え
たとえ言葉たち
燃え尽きたとしても
降らせたその灰が覆うのだ
景色の中を渡るために
(2002年2月「文化」)
最後の次に
ここを過ぎて君は
崩落の季節に向かう
岬はいつまでも岬であり
ボクの来歴はその季節の手前にあるか
それとも
ここを過ぎて君は
崩落の季節に向かう
束の間が明日までも塗り込めていく
世界の在るより先に在る時が
ボクらに仕掛ける
ヒトが粗暴な嵐の中で
ヒトの距離を失っていく
岬は岬であり続け
朝よ
首を折られた小鳥に降る
朝の光よ
伏し目がちの君のまつげには
すでに貼り付いた黄昏の予感があり
それは止まらない飢餓を貪り
さらに また
朝よ
鼻腔に含まれた冷気には
過ぎた夜の重なりがひそむ
この軽さ そして重さ
加速する星の運行を
捉えようとして岬
ボクは よぎる
崩落の季節を
その砂の 地図を 砂の地図を
忘れ 忘れ物の落ちた裂け目
君は その亀裂に落下しながら
ヒト を追い越そうとして ヒトを
忘れ 忘れてはいけない傷の記憶が
そのまま 距離になる
岬に行く
風に誘われるように
そうだよ 知っていたんだよ ボクは
海を見るためには激烈な決意のあとで
月にだって行ける船を思って
波しぶきに乗らなければいけないんだ
落下がボクを貫けば
上昇が海を突き刺すだろうか
下降が海に向かうなら
魚群は空を翔るだろうか
溢れる願いは
重力の間隙を縫えるのだろうか
陥落した街がある
裏返る表層
愛に理由はないという
憎しみにこもる理由は
何だろう
裏返る表層
あの日見た陥落の夢とは
違う
さらにまた裏返る
このリレーは
文字を発火させるのか
大河に流れ流星の乱流の
夥しさ大河に流れ 流離するヒト
ああ 君の背中が
方舟の幻影になる
だが そのまぼろしにも
言葉は宿る
(2001年12月パルナシウス126号)
たまには爪先を
崩落の秋を抜け
砕けた石柱に
佇むヒトの背で
反転したままの世界が揺れる
沸騰する真昼の先の
黄昏は
気流に巻かれながら
溶暗の気配を呼吸する
あの地平線を往くのは
翼の燃えた馬の群だろうか
羽根をなくした
無数の蝶が降る
そのたびに
ヒトの距離は遠ざかる
砂漠の境界
かもしれない
一片の羽毛に
水草の記憶を刻もうか
だが 忘れられた
羽毛の危機に
永遠の傷は
衰弱していく
それは 砂漠の さらに
境界かもしれない
水の匂いを運ぶ風
なら いい
それが微弱な風だとしても
剥がれた幾多の声が飛ぶ
世界は時より先にある
(2001年10月季刊午前25号)
直方体は夢の形象?
という話が
夕暮れのバルコニーに
ぶらさがっていたので
待てないボクは
玉ねぎを
煮つめるヒマもなく
一気に そう 一気に
圧力鍋にたよってみたのさ
星の墜落する気分
でも 宇宙には
上も下も ない
ただ 宙ぶらりんの
でも 落下の気分
まだ マントウが
空を飛んでいた日が
なつかしい よね
と 振り返れば
砂塵の先に水郷の町
ゆらぎ
さらに振り向けば
彩雲の果てにオアシスが
ゆれる
ここは 龍の背中だろうか
瓦礫は砂の近親にあり
凍てついた星座のすき間に
真昼の熱風よ
眠れ
(2001年10月パルナシウス125号)
夏至まで
てんびんにのる昼と夜
その かしいでいくバランスに
短い夜の夢は
こぼれる
ねえ 水の音だね
うん 水路だよ
雨の気配が
鼻腔をなでる
目覚めはゆるやかな
船の軌跡か
夜の続きの
こぼれた夢を追いかけながら
水のまち都市をめぐる
ほら あの薄明かり
そう あれは海だね
忘れてしまった幾つもの
夜明け前が
注ぎ出す河口を抜け
そろそろと
まどろみの先に
出かけようとする
真昼までは まだ
遠い時間(2001年6月西日本新聞掲載)
たびたびのふたたび
繰り返し 繰り返し訪れる
炸裂の連鎖にあって
風の家から立ちのぼる
日々の・眼の・死の・記憶なら
空の溢れ出す一点を
なお 言葉の先に置け今は 幻の月のもと
出会うのだ
朝の話を伝える砂漠の貝殻にここは 海の底 だね
ここは 陸の果て だね高度を刻む溜息の
地溝を滑れば
駆け上がる哄笑に化け
時の始まりの一点も
なお 言葉の先に置け名づけるものの脈打つ器官に
これもまた 幻の都市の中
出会うのだ 新たにここは 空の底 だね
ここは 言葉の上 だね昨日の行く先を覗くレンズに
歩く者たちの影が現れたとしても
ボクらは帰ってくる
砂漠に線画を書きつけて
訪れるように帰ってくるのだ
記憶の淵から生まれたままで
(パルナシウス122号2001年1月「再会」改題)まん中にいる
だって だって だって
この草原でしょう
流れているのは
まるっきりの月で
ボクは
どこかしら風の家に住み
ボクは
乾いた粘土板の上にいて
解読されるボクらの夜を
了解し得ないボクらの朝に
重ねていくのだ ゆっくりと
ゆらぐ ままに さらに
混沌の淵に立ち
足下を流星の夢は過ぎ会いたいね
会いたいよ
星の指針が回っても
約束なんかは刻まない
歩行の跡も消えてしまえ
この草原を
横切るものの気配と共に
地表ほんのわずか 離れて
すべるのだ
重ねた表皮で
今ここにある寒さを受けて
(季刊午前23号2000年12月)あしたに向けての
そこに風が渦を巻く
僕たちの抱きしめたままの
結晶が
君を凍えさすのなら
揺籃の時を引き剥がし
風にさらしてみせてもいい
それが僕 そして君
摩擦に耐える皮膚 もろともに
鉱物の夢から大気の息まで
水脈の中を泳ぐのだ
見失いながらも
それも僕 そして君
消えていく体を抱きかかえ
あるいは 抜け殻だったら
置き去りにして もう一度
いや 何度でも
傷つく街へと出かけていこう
もしも 君
無傷な街があるのなら
教えてほしい
わななく空気に微動する
僕たちの結晶が
凍える君を貫くのなら
さらに また 正午
そこに風が渦を巻く
ただ中で
時の揺れ かすか
(パルナシウス121号)声として
そうやって どこまでも
飛んでいくのです
日が沈んでしまうのを
見ないでいられるように
だけど 加速してくる夜は
いつか すっぽりと
この星を包み込んでしまうだろう
それは 僕らの息が
白く まるで 凍えた魂のようになって
吐き出されてしまう時なのだ
耳に巻きつく極点からの風
駆け降りた空の言葉は
行くな と告げる
出会えない自分を追うな と
決して会えない他人を追うな と
着地するのですか どこに
自分の中心に
そこは重力の場 呑まれた日々が
暗がりにあり だから
街の先へ行こう
一歩のまぼろしが 空に
宙づりにされたとしても
星を飛び石にして
行こう 声の行方を探すのだ
ここから あそこまで ここに
着地の夢は抱きしめたままで
帰る道なら封じるのです
(パルナシウス120号)スウィング・バイ
スウィング・バイ1 スウィング・バイ2
1 1
・・・ぷふ・・・ぱふ -まあ!ですのよ まあ
・・・ふ・・・う・・・げっ・・・ぱしゅ -ということで きっと
・・・くしゅ・・・クローゼットから -ここからは
開いたクローゼットからその日 -この先は
夜に向かうまるっきりの夕暮れ 朝なのだ
現れたのは・・・皇帝ペンギン 吹き抜ける風に
だったの さらされながら
浮氷探すのか その手前
海を渡るために ざわ
羽毛換えなければならない ざわめき
浮氷が消える前に 2
2 ぷふ と鳴る ぷふ
夜を渡る あっ まだ そこには ぱふ と ぷふ
化石となった記憶を砕き 扉の影には ふっ と 重さのよどみ
真昼の存在から あらわれ ぐふっ また あらわれ ぐふっ
離れ そう 再びまたは再三 まるで 訪れたはずの あっ ものの痕跡
なる の手前で ある を繰り返す 開く扉から ゆら 風 訪れるものの痕跡
・・・ふ・・・ぷふ・・・群 うげっ と げぷっ と見た
・・・僕の群・・・う・・・げっ まな まなざし の し
この夜を渡るには 痕跡 消えていく 見失い
なる を呼び覚ます しゅるしゅると落下しゅるしゅると
君の光がいる 回転し回くるくると転くるり
3 待つのか 扉からは空
君に出会う前 行くのか 尋ねるのは場所
僕は巨大な一個の ざわ ざわめき
僕だった -あるちゃん 行こう
崩れることは -えっ どこに なるちゃん
揺らぐことだ もちろん
吹き込む 違いの先にだ
この風はなんだろう そして
ただ 絶え間なく出掛け まなざしに なる
帰ってくる うっ
僕とは ある から滑り落ちていく
違いを括るリボンなのだ 僕の先にいるのは君か
4 今 ある から
すべては回る 明日 ある までの
惑星 なる の連続の
幾多のあなた 繰り返される ただ一度
そんな我々を なる の戸惑いは
保つ重力と遠心力 ある の背後に宿り
楕円に抜けて 疲労した なる は
なお ある ために その心地よさも共に
微細と極大という ある へとむかう
見えないのな前で 眠り
固定と流動という 誰のものでもない
反射繰り返す 時のものでもない時
僕 今は石 昨日のものでもない
それとも 砂 今日のものでもない僕
ただ 行き来する その手前
ある から なる までの距離 息をのむ 宇宙
なる ままに ある の時間 ふっ
つきまとう深みとは 誕生の前の
形象なのか 静か
吐!散らばる星 4
隙間を抜けるには 開かれた扉から
悲しみの斥力がいる 溢れだす夜
5 宇宙金魚にまたがった
・・・えっ・・・ 星の子供たちが笑う
この未明に 出自を問えば
時は折れた 指さしたのは
直前のまま立ち止まる 空
無数の ある は かつて南の猿人が
凍え 地溝渡ったように
唐突に境線は刻まれる 星の河が
・・・えっ・・・ 僕らを切り離す
あの地平に横たわる 跳ねる尾ひれ
ある は 弾かれる星は
まだ見ぬ なる に 涙の量感か
囁き始めるのだ 見つめて
君の名前は その際が
知らない 始まりの限界となる
僕の名前も 伝えて
知らない 僕へと至る
それでいい 大いなる ある が
囲みの中の物語は なる 僕として
いらない 告げるのだ 君に
この小さな始まり
発光する 時を
共に なる 時を
5
いらないはずの
囲みの中の物語だが
囲みを破るものは
誰だ
壊される囲みとは
解き放しの夢なのか
そこにある力とは
誰の夢なのだろう
暴力は境線を越える
匿名のまますくむ
小さな物語
絡めて 肥大する物語の中で
それは結ばれて
なお 無数
スウィング・バイ・ファイナル
1
きしむ
森の中の僕のパーツが
あれは森へのアスファルト照らす
月の光に応えているのだ
風かもしれない
きしみ
とらえる僕は分離したパーツだ
自分をとらえる僕は
いない ただ
他の誰でもない僕を見分ける
何もない場所
置かれたのは言葉か
ぶるるん2
思い出せない地点に向けて
漂っていく
たとえば 愛
極点はひとつじゃないから
磁力の波の中
引き裂かれゆく者
つまりは僕非僕・君非君・僕
更新され続ける
あるなるなるあるの
繰り返され なお
ずれていく束の間
見失わないで
光の先の一点 まなざし
なる が ある に出会う
震え それとも 嘔吐
擦り抜ける風に
煽られる森の木々
氷結の音たてれば
永久凍土にうずくまるのか 僕ら
くぐるな
跳躍にかけたくるぶしの捻転
くぐるな
跳躍は重力を記憶する
くぐるな
決して着地することがないとしても
ひきずる重さを斥力にして
森のパーツ
噛み合わなくても
思い出せない地点から
あるいは 愛
極点・結晶世界から
僕ら ヒト
帰還する
時を超えるものとして
ぶるるん(季刊午前18〜20号)
詩集「ハイホー」から
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