今回は夏季休暇を利用して帰省してくる友人と,北海道のなかでもふたりがまだ行ったことのないところを目指そうと,世界遺産にも登録された知床に白羽の矢をたてました.道外のかただと「北海道の人間は北海道の大抵のところには行ったことがあるんだろう」と思っているかもしれませんが,北海道全域をカバーできている人間となるとなかなかいないもんですよ.2006年8月現在北海道には180の市町村がありますが,そのうち3分の2以上あげられればかなりの地理好き北海道マニアではないかというのが私的な印象です.そもそも35ある市の名前を漏らさず挙げるだけでも一苦労です.
それはさておき,北海道ラヴァーを自認するふたりとしては話題の知床を押さえないわけにはいかないだろうというミーハーな気持ちも手伝い,今回はふたりが踏み入れたこと無かった道東の最奥部に旅の目的地を決定しました.
そしてそのアプローチには,鉄道好きなわりに寝台車には高校の修学旅行のときに乗ったくらいしか経験のない2人だったので寝台車を連結した特急「まりも」*1を組み込むことにし,更に時間的な制約からレンタカーを借りて別営業所で「乗り捨て」するというコースが確定しました.
お盆の混雑が予想されたので特急まりもの指定席券は出発日の1ヶ月前の発売開始日に押さえておき,駅レンタカーも予約しました.本来ならこの2つを同時に買う「レール&レンタカーきっぷ」を買えば運賃2割引,特急料金とB寝台料金は1割引が適用されるはずなのですが,GWとお盆と年末年始はその例外なのでした.*2
ドライブの細かい行程について考え出したのは1週間前ほどから.当初はどこかの道の駅で仮眠して夜を明かし,レンタカー料金計算の「時間制」の利点を最大限利用して24時間でドライブを終えてレンタカーを返却するつもりだったものの,前日が寝台車でしかも朝からハードだということもあり,大事を取って宿に泊まることに.それでも最終日は午前中には旭川まで到着する必要があったので宿で夕食をとるかどうかでギリギリまで悩む.夕食をとるとなるとチェックインの時間を遅くできず距離を稼げないので次の日の出発時間とのバランスを先読みし,結局出発の前々日に網走市内の宿を素泊まりで予約.
それから道すがらの食事処や日帰り温泉についての情報を当日の昼間までに収集し,いざ実行と相成ったわけです.
MK氏とは札幌駅にて22時頃から行動開始.
この日の石勝線はトンネル点検のためにスーパーおおぞら10号が2時間20分遅れるなどの影響があり,帯広方面から次々に特急が到着するのをホームで見ておりました.さいわい特急まりもはこれらの特急とは編成が違うので車両運用に問題はなかったものの,入線してくる6番ホームは遅れて到着したスーパーおおぞら12号がふさいでいた影響で特急「まりも」の入線時刻である22:58を過ぎても入線せず,慌しい出発になってしまいました.
この日の特急「まりも」は7両編成で,3号車と4号車のあいだに号車番号のついていない座席車を2両つなげての運転.おそらく上りの帰省ラッシュに対応するためなのでしょう.寝台車の私のコンパートメントはすべて埋まっておりました.2人組+2人組で埋まるのではなく2+1+1でコンパートメントを埋めていたことからかなり混雑している模様.あとから眺めてみると,2両のB寝台のうち,あいているのは数箇所だけでした.
初めて自分で手配したB寝台の感慨に浸る間もなく定刻の23:10,釧路行特急「まりも」は札幌駅を発車.しばらくはシーツ敷いたり荷物片付けたりでドタバタしておりました.
左:寝台車に備え付けられているゆかた.JRのマークが目立ってる?
右:寝台車の毛布.特急まりもなのに何故か「北斗星」のロゴ
正直なところ居住性はカプセルホテルよりも悪いのでぐっすり眠るのは難しいかもしれない….これで6,300円もするのでは高すぎるという声も聞くけれども,寝台車の希少性を考えると仕方ないのかもなあ….ちなみに全国のB寝台のなかでも特急まりもに限っては冬のオフシーズンの寝台料金が3,000円になる特例があるので冬の道東旅行の際には一度利用してみるのもオススメです.*3 下り特急「まりも」は午前2時台から停車駅があるのですが,座席車ではその都度アナウンスが入るのに対して,寝台車は終点釧路の30分前までアナウンスを切ってくれるなどの細かい配慮があるのも寝台車の利点だと思います.
今回の行程では根室本線の池田駅より先が私の未乗区間なので起きていようと思ったものの,寝台上段で景色が見えにくかったことと,暑さでなかなか寝付けなかったこともあって,寝台から起き出て顔を洗ったのは朝4:20に列車が浦幌(うらほろ)を過ぎた頃.ようやく明るくなり始めてはきていたものの,霧がかかっていて景色はほとんど見えなかったので寝台に戻りました.5:22に最後の途中停車駅である白糠(しらぬか)にとまってから車内にアナウンスが流れると寝台車の乗客が身支度をはじめてにぎやかになってきました.
5:50 特急「まりも」は定刻どおり釧路駅に到着.この列車にあわせて根室行と網走行きの2本の始発列車が連絡しているので乗り継ぐ乗客も多い様子.私達の乗り継ぐ根室行き快速「はなさき」は5分間の接続で5:55の発車なので急いで連絡通路をくぐり2番ホームへ.まりもの乗客がぞろぞろと続いてきました.快速「はなさき」はキハ54を2両つないだ編成でした.まりもからの乗り換えの客がどさっと乗っても立ち客は出ていないくらいのちょうどいい乗車率.定刻どおり,快速「はなさき」は釧路駅を出発.
根室本線でもこの釧路から根室のあいだは「花咲線」の愛称がつけられている線区で,1日2往復の快速のほかは普通列車のみの閑散区間です.道東以外の道民の感覚では「釧路と根室の街は隣同士」.とはいえ実際の営業距離は135.4kmもあり,これは札幌-旭川間とほぼ同じです.ちなみに花咲というのは根室市の地名ですが,この地域でしか獲れない「花咲ガニ」の名前にも冠されているように根室半島を代表する地名でもあります.なお,花咲線には花咲駅がありますが,駅は花咲港からは遠く,利用客もかなり少ないようです.
この区間は北海道でも霧が多く,夏も気温があまりあがらない地域のため田畑はほとんど見られず,湿地が多いことから竹の低い草や低灌木が延々と続く景色が特徴です.釧路の隣の東釧路(ひがしくしろ)駅から釧網(せんもう)本線が分岐していったあとは街の景色は去り,快速列車の次の停車駅の厚岸までは山あいを走っていきます.厚岸の一駅手前の門静(もんしず)駅から海岸沿いを走って,6:35頃厚岸に到着.発車は6:47で,車内の大半の人間(きっとそのほとんどが道外からの旅行者だろう)はホームへ降りていました.スモーカーにとっては貴重な一服の時間のようです.
厚岸は牡蠣の産地として有名で,厚岸駅の駅弁「かきめし」は物産展でも大人気らしいです.しかも森駅の「いかめし」ほどメジャーではないため,なかなかお目にかかれない駅弁です.牡蠣大好き人間の私としては是非とも食べたかったのですが,販売時間は朝7時半からなので買えませんでした.
車内は特急「まりも」からの乗り継ぎしてきた旅行者が車窓を楽しんでいるのが覗えたものの,厚岸を過ぎたあたりからは霧で見晴らしのよくない景色にも見飽きてきたのと列車で一夜を明かした疲れから車内全体がうとうととしたムードに.私も存分に景色を堪能したとはいえないまま寝たり起きたりを繰り返しているうちに,終着の根室駅に到着してしまいました.根室着8:13.
根室は日本の東端の市で,根室駅はその終着駅であるにもかかわらず,「日本で一番東にある駅」ではないというのはテツには良く知られた話.根室駅に入る前に線路がコの字型を描いているからで,もともとは根室駅が日本最東端でよかったのですが,そのコの字カーブの途中に1961(昭和36)年新たにホームを設置し「東根室駅」ができて以来,日本の最東端駅は東根室駅となっています.なお,釧路方面から東を目指して延伸し続けてきた鉄道が根室まで開通したのは1921(大正10)年のことですが,1929(昭和4)年には国鉄根室駅とは別地点に根室拓殖軌道が根室駅を置き,さらに東の歯舞(はぼまい)まで営業を行っていました.したがって歴史上日本の最東端駅は歯舞駅ということになっているようです.根室拓殖軌道は1959(昭和34)年まで存続してました.(参考文献:北海道の鉄道,田中和夫著,北海道新聞社)
根室からはレンタカーを借りるため,東根室駅には車で訪れれば簡単なことですがそれではテツとしての面目が保てないと考え,今まで乗ってきた列車が折り返す8:22の釧路行き普通列車に乗車し,8:24東根室駅に到達.地元の中学生のほかの降車客は私達だけだった(大勢いた旅行者も私達ほど酔狂な輩ではなかった)ので心置きなく駅の写真を撮ることができました.
上:東根室駅のホーム(釧路方面を撮影)
下:東根室駅前(駅舎はない)
そして地図を見ながら,根室駅まで2km弱を歩いて引き返してきたのでした.根室駅前では名物の花咲ガニを売っている店が軒を連ねていました.花咲ガニはタラバガニの一種ですが,タラバガニより漁期が短く,流通量も少ないものの身の味の濃厚さはタラバガニ以上だと言われています.花咲ガニは茹でる前は赤黒く,茹でると鮮やかな赤色に変わります.写真は茹であげたばかりの花咲ガニを水で冷やしているところのようです.どうもカニは値段ばかり張っている印象で,観光客向けの土産物屋ではメロンの箱詰め同様黙殺してたんですが,実際に茹でているところをみるとさすがに美味しそうでした.
*1 もともと札幌-釧路間の夜行は急行「まりも」だったもののキハ183へと編成が変わり特急化された1993年から昼間特急の「おおぞら」に吸収される形で名称消滅.2001年に昼間特急の「おおぞら」が車両をリニューアルし「スーパーおおぞら」となったことで,再度独自の列車名を与えられた.(札幌から道北・道東へ向かう3本の夜行急行「利尻」「大雪」「まりも」はそれぞれ1991年,1992年,1993年に相次いで気動車化された)
*2 なので別々に買ってもおんなじじゃんと思ったものの,借りるレンタカーを時間制で借りるか暦日制で借りるかに,レンタカーのみ予約する「マイドライブ」の料金体系,さらに「マイドライブ」はインターネット予約可で10%引きになるなどの条件が重なるので最適解を見出すのはなかなか難しい様子.
*3 マニア的には北海道の寝台車は客車じゃなくて気動車であることにも着目したい.気動車のなかに寝台車だけ客車を挿入する編成は北海道独特のもの.2006年3月のダイヤ改正までは「まりも」「利尻」「オホーツク9号・10号」で見られたが,後2者は季節列車になってしまった.