釜石駅のホームは駅舎よりも高い位置にあるので1965年完成という年季の入った地下道を通って2番線へ.花巻行きのワンマン列車はキハ100系の2両編成だった.日曜の雨の早朝ということもあって乗客は私のほかはわずかに1人.5時55分,列車は静かに釜石を出発した.
花巻と釜石を結ぶJR釜石線は「銀河ドリームライン釜石線」という愛称がつけられているものの,おそらく地元でもこの路線を「銀河ドリームライン」などと呼ぶ人はまずいないだろう.東北には「はまなすベイライン大湊線」だとか「十和田八幡平四季彩ライン」(花輪線)だとか,どうも愛称のつけ方が地元向きでないというか,浮き足立っているというか….JR北海道の場合,札沼線を「学園都市線」と呼ぶのは路線名が実態とかけ離れてしまっているからだし,根室本線釧路-根室間の「花咲線」もこの区間への直通列車がないことを考えると納得いくのだけれどね….
その銀河ドリームラインの名前の由来は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』から.賢治の生まれ育ったのが花巻であるだけでなく,『銀河鉄道の夜』は釜石線の前身の岩手軽便鉄道がモデルと考えられていることにちなんでいる.そのため釜石線と山田線の釜石-浪板海岸の駅には賢治が多用したエスペラント語による愛称がつけられている.ちなみに釜石は「ラ
オツェアーノ(大洋)」.
釜石線の峠越えは陸中大橋から足ヶ瀬にかけての仙人峠越えで,急勾配に対応するために線路をΩ字状に敷いたのが特徴的.下から見上げると自分自身の路線が見えるのが面白いのだけれど,天気が悪くて残念.
遠野は柳田國男の『遠野物語』で知られる街で,河童など民話で知られている.たしかに,車窓から田畑や野山を見ていると『まんが日本昔話』の世界に引き込まれたような気分になる.綾織(あやおり)なんていう美しい響きの駅名は遠野市のなかの旧・綾織村に由来している.雨は峠を越えたところでおさまってきていて,内陸へ向かうにつれて天気が良くなってきた.
車内は部活と思われる高校生が乗ってきて少しずつ活気が出てきた.そんななか地元のオジサンらしきひとが高校生と話をしていた.どうやら今日は高校野球の地区大会の試合があるらしい.前日に雨で試合が成立せず,今日に延期になったらしい.「でも今日だって,ちょうど!試合始まる頃には雨だろうさ.」と嘆いていた.それでもJRを使ってはるばる観戦に行くのだから熱心だと思う.
7時47分,終点の2駅前の新花巻で下車.新幹線への乗り継ぎ駅であるものの,降りたのは私だけ.この駅は1985年に新幹線の駅が新設されたときに高架の下に作った駅で,新幹線の駅へは道路を地下通路を使って渡っていかなければならないのでまるで別の駅のよう.
新幹線駅のほうは大きく,格の違いを感じるものの開駅当時からあまり手が加えられていないようでずいぶんくたびれた印象を受けた.駅前広場には賢治ゆかりの地だけあって,『セロ弾きのゴーシュ』をモチーフにしたモニュメントがあって,セロ(チェロ)と思しき音色が聴こえていた.
台風の影響で東北新幹線のダイヤはさぞかし乱れているだろう,そう考えて駅の案内板を見るも目だった遅れは出ていない様子.台風の進路がかなり太平洋側だったこともあって,まだ鉄道に影響は出ていないようだった.事前に「こまち」の指定券をとっていたので気をもんでいたけれどこれで一安心.その列車は盛岡発9時24分の「こまち1号」なのでこの駅からフリーきっぷを使って9時04分発の「やまびこ41号」に乗れば楽に乗り換えられるのだけれど,釜石線を2駅間だけ乗り残すのは悔しいので在来線で盛岡まで行く8時35分の快速「はまゆり2号」に乗る.
快速はまゆり2号はキハ100系と同系統の塗装が施されたキハ110系3両で,うち最後尾は指定席車.先頭車はNHK連続テレビ小説『どんど晴れ』(2007年度上半期)のラッピング車両.物語の舞台が岩手で,題名も岩手弁にちなんでいることから地元ではあちこちにポスターが貼られて歓迎ムードが感じられた.8時42分,定刻どおり花巻に到着すると進行方向を変えるためなどで6分停車.盛岡までノンストップなのが良いのか,街行きの装いの人が大勢のってきた.私のボックス席の向かいにはギャルっぽい2人組が乗ってきた.これでまたカメラが取り出せなくなってしまった.
自由席の混雑とは対照的に指定席はガラガラ.花巻から乗った年配の男性グループは空席を見つけておそらく何も考えずに指定席に座ったようだったけれど,しっかり車掌に指定席料金を徴収されていた.列車はまさに「飛ばす」という形容詞がぴったりなほど快調に東北本線を突っ走って9時16分,盛岡駅に到着.
盛岡駅の在来線ホームは昨日チェック済みなので足早に新幹線ホームへ.盛岡駅のホームは1年ぶり.「はやて」で東京を目指していて,この駅で「こまち」と連結するはずがこまちが遅れて併結しなかった時以来.今回は前回とは逆にここで解結して「はやて」と「こまち」に分かれるわけで,定刻どおり9時22分に到着した「はやて・こまち1号」は10号車と11号車のあいだで連結が解かれる.このシーンは一般の旅行客にも人気がある様子.わずか2分の停車で解結を済ませ,9時24分,「こまち1号」は秋田へ向かって発車.私はのんきに解結シーンを撮っていたので16号車が遠いことがわかってダッシュで乗り込みむ.
「こまち」は新幹線とはいえ2列-2列の構成で,線路も在来線を標準軌に変えただけなので新幹線という感じはしなくて,普通に特急列車に乗っている感じ.最高速度も130km/hしか出てないし.しかも発車早々,隣駅の大釜で運転停車.上りの「こまち8号」とすれ違った.
車内のアナウンスは旅行客向きで,「あいにくの雨でご覧になることはできませんが」と前置きしながら岩手山や小岩井農場などを案内していた.車窓の景色には恵まれないまま,33分間の「こまち」初乗車は終了.9時57分,田沢湖駅到着.
田沢湖駅はガラス張りの新しい駅舎だった.それでも秋田新幹線の開業の際に建てられたものだから10年になることは後で知ったのだけれど,私の眼にはせいぜいまだ2,3年しか経っていないように見えた.幸い風は少し強いけれど雨はまだ降ってきていなかった.岩手から秋田へ県を越えることで,また少し台風から遠ざかったのかもしれない.それでも空は暗く,いつ降りだしてもおかしくない様子だった.