人口
ストラディウムの人口と社会構造
「不死鳥の国」ストラディウム連合王国は、ユルセルーム文明の防波堤として過去千年以上にわたりデュール派諸国と対決してきた。このように長期間軍事力を維持し得た理由は、その膨大な人的資源を抜きにして考えることはできない。
そこで連合王国の統治領域における人口について考察してみよう。
まず旧『ローズ・トゥ・ロード』に納められた地図をもとに筆者が試算した、南西諸島を除くストラディウムの領土面積は下記の通りである。
表1 連合王国の面積(注1)
| 地域 | 総面積(平方キロ) | 平地 | 山地 | 森林 | 湿地 |
| ストラディウム諸島 | 90,000 | 43.0% | 30.0% | 27.0% | 0% |
| ユル=ストラディウム | 117,000 | 60.8% | 24.6% | 6.9% | 7.7% |
| ドゥーロン | 336,600 | 67.9% | 12.0% | 20.1% | 0% |
| ローダニゾン | 268,200 | 78.9% | 10.7% | 10.4% | 0% |
| アウロン | 154,800 | 34.9% | 48.8% | 14% | 2.3% |
| 総計 | 966,600 | 62.4% | 20.7% | 20.7% | 1.3% |
合計するとドイツ・フランス・ベネルクス諸国を合わせたぐらいの面積になる。
さて、ここで居住可能な平地面積に対し、我々の世界における中世の平均的な平地人口密度をあてはめてみよう。(注2)
ここでは北方に位置するローダニゾンは中欧、ドゥーロンは南欧、ストラディウム及びユル=ストラディウムは日本を規準に試算する(なぜそうなるかは「ユルセルームの農業」を参照)。また、妖精の故国アウロンに関しては、例外として紀元0年頃のゲルマニアとする。
また、この算出を元にして、国土総面積に対する人口密度も試算してみる。
表2 連合王国の推定人口
| 地域 | 総人口 | 人口密度(人/平方キロ) |
| ストラディウム諸島 | 4,102,000 | 45.6 |
| ユル=ストラディウム | 7,540,000 | 64.4 |
| ドゥーロン | 12,045,000 | 35.8 |
| ローダニゾン | 6,831,000 | 25.5 |
| アウロン | 70,000 | 0.5 |
| 総計 | 30,588,000 | 31.6 |
1平方キロにつき30人強。今日のアフガニスタン並みの人口密度である。
さて、連合王国では商業が発達していることを考慮し、本国では人口の10%、他の地域では5%が都市人口であると仮定しよう。これは産業革命の無い社会としては、十分妥当な数値と考えられる。そして以下の手順で町村数を仮定する。
1.便宜上、人口により集落をランクづけする。具体的には人口30万の首都、人口10万の大都市、人口5万の中都市、人口1万の小としに分ける。
2.大陸全図に記載された都市を首都・大都市とし、残余は中・小都市に半数ずつ配分。
3.農村人口は便宜上、平均人口3千名の村落に分割する。
表3 連合王国の集落数
| 地域 | 首都 | 大都市 | 中都市 | 小都市 | 村落 |
| ストラディウム諸島 | 1 | 0 | 5 | 5 | 1,230 |
| ユル=ストラディウム | 0 | 2 | 2 | 8 | 2,388 |
| ドゥーロン | 0 | 1 | 5 | 25 | 3,814 |
| ローダニゾン | 0 | 1 | 2 | 7 | 2,163 |
| アウロン | 0 | 0 | 0 | 0 | 23 |
逆算すると、本国での1村落あたりの平均面積は31平方キロ。練馬区ぐらいの面積に、3千人が居住していると思えばよい。
最後に職業別人口を推定してみよう。産業革命以前の技術段階でありながら貨幣経済が発達していることを理由に、強引ながら18世紀の日本における都市と農村の職業別人口比率を当てはめてみる。(注3)
表4 産業別人口
| 業種 | 都市部 | 農村部 | 合計 |
| 農漁民 | 180,100 | 27,635,520 | 27,815,620 |
| 職人 | 360,200 | 575,740 | 935,940 |
| 商人 | 900,500 | 287,870 | 1,188,870 |
| その他(官僚・専門職など) | 360,200 | 287,870 | 648,070 |
| 合計 | 1,801,000 | 28,787,000 | 30,588,000 |
「その他」の1%をいわゆる「冒険者」と仮定すれば、全国には約6,000人以上がいるる計算になる。小さな町でも15,6人はうろついているはずだ。逆に村ではほとんどお目にかからないだろう。
しかし「その他」で最も比率が大きいのが、兵士であることは言うまでもない。ストラディウムの膨大な軍事力の基本が、農村の生産力に多くを負っていることがわかるだろう。
そしてストラディウムにおける職業戦士の比率(と社会的位置)は、日本における武士階級に対応したものであることが理解されるのである。
(注1)各公国の境界線には諸説あり、ここでは便宜上筆者が策定した境界を用いた。なお林蔵氏の試算によるストラディウム島の面積は104,400平方キロなので、この試算はそう外れたものではないだろう。
(注2)S.ファン=バート『西ヨーロッパ農業発達史』掲載の表を基に、人口と平地面積から算出した。
(注3)竹内誠『日本の歴史9 江戸と大阪』によった。妖精族や小人その他の種族に関しては依拠するデータがないので、これらの種族も含めた人口ということにしておく。
注記
本稿は初出となった『イニアの花迷宮 Vol.2』(1991年)掲載記事を一部改稿したものであるが、試算数値はそのままとしてある。
補論・支配階層の人口
ストラディウム連合王国における支配階級の特徴は、その地位身分が国家の軍制・官制にダイレクトに結びついていたこと、実力に応じてかなりの流動性があったことが挙げられる。
公的にはストラディウムにおいて世襲とされたのは五つの公家だけであり、他の貴族(侯・伯)および騎士の称号は一代限りのものとされた。実際には経済力や政治力、人脈を利用した門閥が形成され、爵位や騎士称号を数代にわたり獲得し続ける家門があったが、軍や官界での功績により市民出身者が一代で貴族に列されることも希ではなかった。
従ってストラディウム国家の国制を手がかりとして、支配階層の人口を推計することは…極めて大雑把な概算であるが…不可能ではない。
まず騎士称号は軍の高級将校や中央官庁の高級官僚、上級地方官が該当する。大旗戦争における軍の規模は75個軍団、軍船350隻であった。この動員は国家の限界と言ってもよく、平時にはこの半数程度であったと思われる。一度獲得した身分は保持されることから、戦後もこれに相応する身分保持者がいたとみてよいだろう。また戦争中に増員された軍の高級将校は退役者の再召集や下からの昇進によって充当されたと推測できる。
ストラディウム陸軍の編成を見ると、軍団に所属する将校のうち、騎士の称号を帯びうる高級将校は軍団司令、副司令、参謀長、8名の大隊長およびそれに準じる将校(輜重隊長、工兵隊長、憲兵隊長)の計14名である。これが75個軍団として1,050名となる。軍司令部や元帥府の幕僚など軍団以外に勤務する高級将校もいる一方、将校が定数に満たない軍団もあると考えられるので、相殺すればやはり1,000名程度と見てよい。
海軍の場合、軍船の艦長が騎士称号を帯びたので、隻数すなわち騎士身分保持者と考えられる。艦隊の幕僚など間接人員もあわせれば400名程度であろう。
文官についての明確な資料はない。しかし中央政府と地方をあわせても、官僚機構の規模は小さいうえ、騎士称号を帯びるのは高等文官試験の合格者であり、生え抜きのエリートであった。騎士身分保持者はおそらく軍人の半数以下とみてよい。
以上を勘案するに、騎士身分保持者は国家全体で2,000名程度であろう。
侯・伯の爵位を保持する貴族は、陸軍の方面軍司令官、海軍の艦隊司令官、中央官庁の大臣以上の高級官僚である。方面軍は4個以上の軍団、艦隊は20隻以上で編成されるのが通例である。これに中央政府の官制を勘案すれば60名程度と判断される。
上記を総合すると騎士以上の称号を保持し現役で勤務する者は2,100名内外と考えられる。実際には老齢や病気その他の理由で職を退いた身分保持者、功績次第では称号を期待できる者、軍界や官界での活動を選ばず地主や商業主としての活動に徹する有力者などの数は、この倍に達するであろう。
従って貴族と騎士およびそれに準じる上層の人口は、家族を含め3万〜6万名程度という推計になる。総人口3,000万人という推計と比較すると、人口の0.1%〜0.2%ということになる。彼らが極めて少数の、名誉を与えられた人々であったことが推測されるのである。
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