ユルセルームの性

はじめに
 「幻想的」「繊細」と評される『ローズ・トゥ・ロード』でセックスを取上げることは、およそ似つかわしくないテーマであるかのように思われる。しかし登場間もない頃から、セックスは『ローズ』における題材の一つであった。
 旧『ローズ』のサプリメント「ナーハン・ラムザス編」に収録されたシナリオ「シリ山脈の氷宮」(小泉雅也作)のクライマックスでは、選ばれたPCと逃れ妖精の女王リメラレノンが、他のPCの眼前で生殖行為を行う。市販シナリオとしては誠に希有な例であるが、この交渉から生まれた半妖精ガザル・ディオールと父親であるPCは、続編「ファライゾンの玉座」で対決することになる。
 またユルセルームを舞台とした唯一の商業コミック『プライベート・アルター』(ろひさとぶあ作、司書房)は、性魔術を扱った長編美少女コミックであった(不幸にして原著作権が無視された作品なのだが……)。
 このように性を扱うことは『ローズ・トゥ・ロード』シリーズの中でさほど異常なことではない。そして様々な感情を増減させる『Fローズ』では、性行為をディテール化することも可能である。

 ユルセルームにおける性倫理はどのようなものだろうか?
 ユルセルーム文明の基盤をなすイーヴォ派信仰は、母性的神格を内包した多神教であり、厳格な父権的一神教であるキリスト教の倫理とは、異なる価値観を持つと思われる。一般的にユルセルーム世界の女性はそれほど従属的ではなく、家父長制的傾向は強くないようである。
 イーヴォ派にはキリスト教的一神教の「原罪」は存在せず、性については寛大と思われる。近親相姦や獣姦などのタブーは別として、生殖行為そのものを罪悪視することはないであろう。イーヴォ派の祭司たちも多くは妻帯者と思われる(もちろん酒色を断って清浄なる生活を神に捧げる者は、その高徳を尊敬されるだろう)。
 処女性や既婚婦人の貞操については、地域や国家により価値基準が異なるだろう。家父長的性格の強い軍国ストラディウム、封建社会であるナーハンなどの支配階級は、「家」の存続に関る問題であるから女性の貞操について厳格だろうが、一般庶民の間では開放的な見方をしていてもおかしくはない。  また母性的傾向の強いファライゾンでは、母親が家長となる母権制が想定され、そもそも貞操について異なった観点から理解しているのかもしれない。
 むしろ男性的神格による強烈なイデオロギーであるデュール新教こそ、性に対して厳格な態度を取るかもしれない。しかしデュール神の持つ「破壊」の属性に傾斜したデュール新教の場合、そこにはある種の歪みもあるだろう。社会的レベルでの生殖管理といった不自然な政策や、抑圧の反動としての倒錯行為があってもおかしくはない。

 同性愛についても、必ずしも異常な性衝動とはみなされないだろう。特に戦士が優位を占める社会では(古代ギリシアや戦国日本のように)、ホモセクシュアルを一種の美徳とみなしてもおかしくない。せいぜい「変わった趣味」として煙たがられる程度で、背徳行為として断罪されることまではないだろう。
 むしろ問題は異種族間について想定される。言葉と知性を共有するにも関らず、肉体的には隔たる種族が多々存在からである。相手によっては獣姦行為とみなされる可能性もある。

 管見の限りユルセルームでは、妖精と人間、人間と鬼族の間で繁殖が可能である。
 半妖精は両種族の祖である“頂の”エスティリオに近い存在であると考えられており、半妖精はしばしば畏敬の目で見られる。従って人間と妖精、また半妖精と人間・妖精間の恋愛や婚姻は、おおむね祝福されると見てよいだろう。
 ただし妖精族の本質から見て、彼らが生殖本能に駆られることはない。妖精族の生殖は、愛情に基づく意志の結果として、理性的に選択されるのではないだろうか。従って人間族の女性は、妖精の美青年と裸で同衾しても安全であろうが、人間族の男性は妖精の美女に性愛の喜びを期待すべきではない。

 人間と鬼族の間の生殖は、体格および外見の違いもあり、自然な性衝動を対象に感じるとは考えにくい。そのほとんどが半鬼の繁殖を目的とした、暴力的強制によるものとみて良いだろう。鬼による陵辱は、ユルセルームの人間族にとって食われることに次ぐ恐怖であろう。
 ここで半鬼がどちらの種族から出産されるのかという疑問が生じる。目的を考えるなら、妊娠期間の短い鬼族の母体を用いた方が、繁殖には効率的である(母体の安全性という問題はあるが、雌鬼の権利が考慮されるとは考えにくい)。従って男性捕虜が無理矢理に交雑させられる光景の方が多いのではないだろうか。またデュラの人間たちは、半鬼の子を儲けることを義務として強制されるのかもしれない。

 これら以外の異種族間では、繁殖を前提にした性交渉は困難と考えられる。龍人族や半獣人などの小種族を含め、これら異種族間の混血は不可能であるか、子供はどちらかの親の種族となるのが通例だろう。
 従ってこれら異種族間の婚姻や恋愛に関しては、社会的規制が存在してもおかしくない。互いに恋愛感情を抱きながらも肉体的には結ばれない、という状況も発生するだろう。


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