地域紹介・ヒュールミスル
大いなる西方の河
ヒュールミスルは大陸西方を流れる有数の大河である。
ヒュールミスルはデュロン山脈北東部に発して「呪われし」ヒュラー湖に注ぎ、デュロンやナルシオンの山々からの支流を受け入れながら、ローダニゾンからドゥーロンへと下る。ここでエマットノイル丘陵により南北に分かたれたヒュールミスル北流はファストディウムの河口に注ぎ、南流は丘陵を回り込んでラマン湾に注ぐ。起伏の少ない平坦な地を流れるため、その流速は非常に緩やかである。
ヒュールミスルは東西の岸で異なる様相を示す。
東岸は平坦で広大だが、内陸性のため寒暖の差のある乾燥した気候をなし、土地の生産性は必ずしも高くない。安定した農業生産にはヒュールミスルの水による灌漑施設の建設と維持が重要な役割を果たすことが推測されるが、それには資金と人的資源を集中しうる権力が必要となる。
西岸はナルシオン山脈に近いため東岸より傾斜があり、河岸段丘など起伏も多い。海からの湿った風がナルシオン山系の頂で降らせた雨や雪は、小河川となってナルシオン山脈東側に渓谷を刻みながらヒュールミスルに注ぎこんでいる。従って西岸の土壌と地勢はより農耕に適しているが、またデュラの侵攻と略奪にさらされる地域でもある。
このような地勢から、東岸地域においては灌漑に資力を投じる公国府の統治が、西岸部では自作農の村落共同体の自治性が、それぞれ社会経済上のファクターになってきたと推測される。そして東岸からは灌漑事業により経営基盤を強化した地主階級から、西岸からは自立的な村落の指導層から、公国府の吏僚や将校として活躍する騎士がそれぞれ輩出してきたことであろう。
このことは時に摩擦を生じたかもしれないが、必ずしも対立する要因ではない。公国の防衛の中核を担うのは農地を守ろうとする住民たちであり、デュラの襲撃を効果的に防ぐのが公国の軍事力なのである。
ヒュールミスルは古来より、ストラディウム連合王国の南北を縦貫する経済上の大動脈であると同時に、デュラの侵略に対する最大の防衛線となってきた。その重要性はヒュールミスルの南北の端に公国の首府、ロードンとファストディウムが置かれていることにも明らかである。いずれも公国全体から見れば偏った位置にあるかに見えるが、ヒュールミスルを基軸に考えれば、ここ以外の立地はありえないということが首肯されよう。
ヒュールミスルの東岸、ヒュラー湖を北に望むロードンは、デュラ軍の侵攻路を扼する位置にある。このロードンの確保が事実上ヒュールミスルの支配を意味してきた。そして最前線ローダニゾン公国に援軍を送り込み、駐留軍の物資補給を賄ってきたのがヒュールミスルの活発な水運であった。
南方のドゥーロン公国の首府ファストディウムは、ローダニゾン防衛の後方兵站基地として機能してきた。首府ファストディウムが「守り」を意味する接尾辞ディウムが付されていることからも、本来は兵士や物資の集積を目的とした軍事都市であったことは容易に推測される。しかし平和な時期にこの都市が物流の中継地として繁栄してきたことは言うまでもない。ストラディウム本国の生産物、遥かな南海域や東方よりもたらされた品々が北へ向かい、北国の毛皮や木材、デュロンの髭小人の鍛えた業物が南へ送り出される。そして大河の両岸で生産された穀物や乳製品、酒や織物が頻繁に取引される。
両都市の間を結ぶ輸送手段は、言うまでもなく船が用いられる。緩やかな流速の大河であり、喫水は浅いがかなりの規模の船が帆走している。ファストディウムとロードンの間には船着場を持つ多数の町が、地域取引の核となって繁栄しているだろう。また小舟による漁労もあちこちで見ることができるに違いない。
ヒュールミスルは旅を演出するのには最適のロケーションである。ロードンとファストディウムの間を、様々な出身や身分の人々が往来する。北へ赴く兵士、役人や伝書使、取引に励む商人や繁華をあてこんだ旅芸人、さらには秘密の目的を抱いた放浪者などなど。
これらの様々な目的と思惑を抱いた人々が、南北に往来する川船の上やファストディウムの港、ローダニゾンの船着場に見ることができるのである。
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