西方の兵士
西方の兵士
軍事国家ストラディウムでは、兵士は「市民の中の市民」とみなされている。その実像は部隊により様々だが、それぞれストラディウム国家の側面を反映している。ここではストラディウムにおける様々な兵士の背景と価値観を紹介する。
兵士と将校
一般軍団兵−−選ばれたる市民
ストラディウムの正規軍団は選抜徴兵制を基本とする。兵士たちは徴募地域の正規軍団に配属され軍務を勤める。正確な服務年限は不明だが三年乃至五年程度とみられ、兵役終了後も必要に応じ再招集される。若い独身者である一般兵士は兵営で起居するが、妻帯した下士官や将校は軍団基地の周囲に家を構える。
働き手である若者の兵役勤務は家族の経済的負担となる。このため裕福な農民や市民から優先的に徴兵されるが、このため兵役は社会的ステータスとみなされる。特に兵役を代々勤める家は「戦士(郷士)の家」と呼ばれ、地域住民の尊敬を集める。彼らは村長や書記といった役職に就き、共同体の指導層を形成することになる。
また家族の無い貧しい者が、長期の勤務を志願することもある。志願兵は十五年乃至二〇年ほど勤務した後、退職金で農場や商店を開いたり、地方の下級行政職に就く。
このように兵役は家名や立身に関るものであるため、兵士たちの規律はおおむね良く、市民からも信頼されている。
正規軍兵士の装備は官給品だが、武具を自弁で所持することも認められている。ただしこの場合も、材質や大きさなど軍の規定に従っていなければならない。
国民兵−−普通の人々
国民兵は選抜徴兵に洩れた市民を対象とする、非常勤の民兵制度である。つまり一般市民そのものと言ってよい。国民兵は地域単位で組織され、退役軍人が指揮官として農閑期に基礎訓練を行う。また必要に応じて基地の補修や物資輸送、臨時警備にも動員される。また正式には国民兵とは呼べないが、町村で臨時に編成される自警団は、国民兵の動員制度を利用したものが多い。
国民兵の装備は地方機関で管理し、訓練や動員の度に支給する。しかし装備は不足しがちで、個々人の所持品をそのまま使用することも多い。
装備や訓練は貧弱だが、家族や財産を守る意識が強く、短期間で多数が動員可能な国民兵は、国防に不可欠な制度となっている。
将校−−国家の騎士
ストラディウム軍の将校には2タイプある。
大半の将校は兵士や下士官からの叩き上げである。兵士として経験を積み、軍隊の表も裏も知り抜いた老練な古狸たちで、兵士たちからは「親父」として畏敬の念を払われている。叩き上げ将校の目標は退役年限までに大隊長に昇進することだが、戦功次第では将軍の地位も夢ではない。
もう一つは西方軍学校の出身者である。入学者の大半は騎士階級の子弟だが、兵士や下士官から推薦を受けて入学する者もいる。エリートである彼らは卒業後ただちに小隊長や大隊旗手として軍団に配属される。この段階をクリアすれば中隊長・大隊長と順調に昇進し、三十歳代で軍団司令、そして将軍へと昇格していく。
将校は階級と功績に応じて騎士や貴族の称号を授与される。大隊長以上の高級将校は騎士に叙任される(現代の軍隊なら少佐以上に該当)。また軍司令官以上の将官には貴族の爵位が与えられる。
こうした称号は建前上、世襲ではなく一代限りのものである。従って騎士の子であっても、父祖の家名を維持するには努力しなければならない。こうした騎士階級は、おおむね贅沢を嫌い、質素だが名誉を重んじる生活を尊ぶ。
精鋭兵士
選抜近衛兵−−国家の魂
軍の最精鋭として知られる選抜近衛兵は、五年以上兵役を勤務して勲功章を授与された者の中から選抜される。大柄で逞しく、体に幾つも刀槍の傷を残し、無口・無骨・無愛想、冷静かつ死を恐れぬ熟達した戦士というのが一般的な近衛兵の姿である。
近衛兵の大半は戦災孤児出身である。戦友以外に家族は無く、軍隊が故郷である近衛兵にとって、妻子に囲まれた平和な引退生活は、漠然とした想像の中にしか存在しない。戦いに生きる彼らは、軍旗と喇叭に送られ戦場で粛々と埋葬されることを栄光と考えている。
近衛兵の装備は金の縁飾りを施した漆黒の鉄片鎧と、「垂れ(ハルム)」と呼ばれる左上腕部の防具で知られる。その鎧は塵埃に塗れてほころび、薄汚れた様は名誉ある近衛兵というよりも山賊のようにも見える。しかしその武具は統一王朝期に溯る逸品で、精霊の宿る逸品も少なくないと言われる。こうした精霊を女房のように見なすのか、近衛兵には独身者が多い。
近衛兵は一個大隊が交替でロードンに駐留する他、首都の近衛府に駐留して公王宮を警備する。要人を警護することもあるが、単独行動は極めて希である。
近衛騎兵−−華やかなる勇士
選抜近衛兵と並び軍の精鋭とされる急襲重騎兵第九軍団の兵士。
近衛騎兵は兵役徴募者の中から、武術と騎乗に秀でた者が選抜される。従って家庭で乗馬に親しんでいる騎士の子弟や、富裕な家の出身者が多い。そのため選抜近衛兵と比べれば華やかで明朗闊達な印象を与え、首都の子女の人気も高い。もちろん例外も多いのだが、市民的なセンスを身につけたプレイボーイというのが、市民の一般的な印象である。
近衛騎兵も選抜近衛兵と同様、金の縁飾りを施した漆黒の鎧を着用するが、騎乗に適したデザインとなっている。マントに刺繍を施したり、兜に飾りをつけるなど、華やかな印象を与える。また父祖伝来の自前の武器を携えることが多い。
近衛騎兵は一個大隊が交替でロードンに駐留する他、首都に駐留する。また西方守護や公家の外出に供奉することも多い。
公女護衛猟兵−−祖国の子供
首都に駐留する第十一軍団“アエノドゥア”に属する公女護衛大隊の兵士。
第十一軍団は軍事教育機関を兼ねた少年兵の軍団だが、その中核となるのが公女護衛猟兵である。護衛猟兵の兵士は、国立孤児院から徴募された十四歳から二十二歳までの若者である。彼らは二十三歳に達すると他の精鋭軍団や軍学校に配転され、軍の将来を担うエリートとなっていく。
部隊名称は孤児たちに誇りを与えるため、軍団の名誉指揮官である公女の儀杖を勤務させたことに由来する。しかし大旗戦争前夜に軍団司令となったアステノリエ・アレル公女は彼らの訓育に努め、彼らは「アスティの子」と呼ばれ奮戦した。
このように護衛猟兵とアステノリエ公女は強い愛情で結ばれている。彼らにとって公女は慈愛に満ちた母親であり、熱狂的な崇敬を払っている。また「アスティの子」として模範たるべき振る舞いを心がけ、兵士たちの中でもその品行方正さは際立っている。
公女護衛大隊は長弓と革鎧を装備する軽装歩兵だが、刀槍による接近戦の訓練も受けている。その軽快な機動力と併せ、護衛猟兵は精鋭部隊の一つに数えられる。
他の一般兵士にとっても護衛猟兵は特別な意味を持つ。自分が戦死し、配偶者が死んだとしても、国家が子供たちに生活と出世の道を保障していることの証であり、護衛猟兵は兵士たちが死をかえりみず突撃する原動力の一つとなっている。
渚歌花兵−−典雅なる精鋭
首都に駐留する第十六軍団“フェルネリオ・アウロン”に属する、渚歌花兵大隊の兵士。
第十六軍団は首都とその近辺で選抜された兵士が配属される。元来は首都の城門や城壁の守備隊だったが、近辺の河川で活動するため小舟艇を用いた移動や戦闘の訓練を受け、御座艦隊と協同で行動することが多い。
渚歌花兵はこのような訓練を積むと同時に、公王宮の儀杖と守衛も担っている。このため渚歌花兵は体格や容貌、挙措なども条件に選ばれ、首都駐留部隊の中でも特に典雅な印象を与える。
王宮前で行われる式典で市民たちが目にするのも、この渚歌花兵の儀杖隊である。こうした式典の際には白銀色の美々しい儀礼用甲冑に身を固め、外国人から近衛兵と誤解されることも多い。
もちろん実戦では通常の甲冑に身を固め、精鋭部隊としての働きを見せる。特に上陸作戦や渡河作戦の先鋒となる。彼らは首都市民から選ばれた精鋭として、市民から誇りと期待の対象とされている。
元帥府警護大隊−−秘められたる剣
元帥府警護大隊(第19軍団“グンダルバウセ”)の兵士。
平時に元帥府を守衛するこの部隊は、特殊作戦に従事するエリート部隊でもある。戦時には敵軍の背後に潜入し、偵察や後方撹乱、暗殺などの遊撃戦を行う。また外地に派遣され、諜報任務や謀略工作に従事することもある。
元帥府警備の際は近衛兵に似た黒い胴鎧を着用するが、遊撃作戦や情報収集の際には一般市民に変装することも多い。もし特殊任務中の兵士と旅先で遭遇しても、それと見破るのは難しいだろう。
元帥府警護大隊の兵士は、選抜された精鋭であること以外に詳しいことは知られていない。一説には流民や遊芸人の子供から徴募されるとも言われている。
前線行動大隊兵士−−非情の刃
前線行動大隊は焦土作戦を行うための元帥府直属部隊である。敵の前進路上にある村や畑を焼き払い、水源を汚染して占領軍を飢えさせることを任務とする。このため前線行動大隊は、現地の軍司令部や当局の意向を顧慮せず作戦を遂行する権限を与えられており、他の部隊に比べても異質な印象を与える。
平時には山中に逃亡した敵の敗残兵を駆逐したり、街道を横行する野盗の一掃など、準軍事的任務に投入されることもある。このような場合、彼らは該当地域を封鎖して目標を徹底的に追いつめる。たとえコソ泥であっても、前線行動大隊は軍事作戦として徹底的に殲滅する。もし彼らのパトロール隊と遭遇したら、くれぐれも喧嘩を売ってはならない。
元帥府直属部隊の兵士は一般軍団から選抜される。彼らは漆黒の甲冑と外套を着用し、処刑用短剣や焼却剤・毒物など、特殊な装備を所持している。また魔法を扱う者も少なくないという。
市民の中の兵士
治安衛兵−−町角の守護者
町や村の警備兵。旅人や住民がよく目にする兵士だが、正規軍の兵士ではない。州総督の監督下にある警察組織なのだ。治安衛兵は城門や役所を警備し、市中や村々を巡回して違法行為を取締る。また消防や公共施設の点検も任務としている。
治安衛兵は地域住民から志願者が採用される。治安衛兵は通常の兵役を免除されるが、給与の割に名誉ある職とみなされている。そのため経歴に箔をつけたい地主や商人の息子が志願したり、退役兵の再就職先となることが多い。坊ちゃん気質の兵士と鬼軍曹タイプの老隊長というのが、よく見られる組み合わせである。
兵士たちは革鎧と兜、剣と槍などで武装している。一応の戦闘訓練は受けているが、敵を倒すよりも逮捕することを任務としている。衛兵詰所には大きな斧や槌なども置いてあるが、これは破壊消防用の装備である。
元老院警護隊兵士−−立法の護衛者
立法機関である元老院を警護する兵士。元老院を警備する他、首都総督から依頼を受けて刑事捜査を行うこともある。
装備は一般の治安衛兵と大差ないが、隊員たちは正規軍の退役兵から推薦された者たちで、治安衛兵と比べ精強である。また捜査の必要上、平服で市街を巡回することもあり、首都の各所に密偵を雇っていると言われる。
元老院警護隊と同様な組織として民会警護隊もあったが、宰相派議員の私兵としての性格が濃く、宰相失脚時に元老院警護隊と衝突して解隊された。
宰相府軍兵士−−内なる外敵
ヌクセン政権時代に設置された宰相府内務軍の兵士。
宰相府軍はヌクセン宰相の私兵として組織された。正規軍の徴兵制度を利用できないため、宰相支持派の志願兵だけでは数が足りず、大陸の傭兵や囚人からも徴募された。宰相府はこうした軍隊の財源として、本島西部の各地の州を支配下に置いた。これらの州や町には宰相府軍団が駐屯し、正規軍や不満分子の監視にあたったが、外国軍の占領に置かれたような印象すらあった。
宰相府軍の装備は正規軍とほぼ同じだが、訓練の点では劣り、その質は雑多だった。真面目な兵士も多かったが、市民を恐喝するならず者も少なくなかった。内戦で敗北した兵士たちは荒地に入植させられたり、大陸に追放された。
戻る