ユルセルームの海上交通
4.ユルセルームの海上交通
ユルセルームの船
ユルセルーム世界の海上交通の中心は帆船である。帆船はずんぐりした船体を持ち、外洋の風波にも強く、順風なら一日の間に非常な長距離を航走可能である。
古代には四角帆を用いた小型帆船が主流を占めた。やがて三角帆がストラディウムで出現し、風上への航行が可能なことから急速に普及した。「古の大航海時代」には隔壁を備えた大型帆船も登場したが、「ハヴァエルのとばり」北上によって衰退する。この傾向は「四王国期」も変わらず、再び大型帆船が脚光を浴びるようになったのは「薄暗がりの時代」に入ってからのことである。
ガレー船は細長い船体を持ち、無風状態でも航走可能で、帆を併用すればかなりの高速を出すことができる。その反面、多数の漕ぎ手を乗せるために積載量と航続日数は限られ、乾舷が低いため風波の荒い外洋での航海には適していない。このため軍船として用いられる他は、高単価商品の高速輸送や郵便伝送など、限られた目的に使用されることが多い。
また小型の商船や漁船の場合、帆の他に櫂も補助手段として装備することが多い。
航海技術
ユルセルームにおける航海術は、長らく沿岸航海の域にとどまっていた。それは造船技術よりも航法の問題にあった。
船乗りは風と潮流、海鳥や海草などの生物を観察しながら経験によって位置と距離を推測した。作成された海図の大半は大雑把で誤差が大きく、いくつかの潮流や岩礁は航海者の口伝とされた。このような状況では、沿岸を目視しながら航海するのが最も確実で安全だった。
やがて「古の大航海時代」が到来して南西諸島への関心が高まると、外洋航海術の研究が進んだ。
ユルセルーム世界では磁場が不安定なため、方角はハウクスを観測して測定する。太陽や月を測定する天象儀も開発されたが、揺れる船上での測定には熟練を要し、また晴天でなければ天体は測定できない。時間の計測には砂時計や日時計が用いられ、速度はロープをつないだ錘を船から垂らして計る。こうした大雑把な器具による測定を繰り返し、正確な位置を割り出すのである。
こうした遠洋航海術を大成したのが「航海者」ストル・ジューフであった。彼は「ハヴァエルのとばり」近くにまで接近し、多くの情報を得た。
だが「ハヴァエルのとばり」の北上による南西諸島閉鎖の結果、遠洋航海の技術は急速に廃れていった。大戦から四王国期にかけては、ヒュノー海賊の方が遠洋航海技術に卓越していたのである。
やがて「薄暗がりの時代」に入るとストル・ジューフの技術は再び見出され、遥かな南西諸島に船団が送り込まれることとなった。
ストラディウムの海軍力
ストラディウム海軍の任務は制海権の維持と通商の保護である。
東西貿易を行う商船は大陸南岸を航海し、危険な沖合いに出ることは希であった。ストラディウム艦隊は海軍基地を中心に一定のコースを巡回し、商船団に随伴して次の港湾まで護送した。
これらの商船を略奪対象とするヒュノーやエーンの海賊が根絶されなかったのは、海上輸送の制約にある。海賊本拠地の制圧に必要な兵士や補給物資を運ぶには、積載量に優れた帆船が多数必要となる。ところが帆船を随伴した遠征艦隊は行動が制約され、快速ガレー船を中心とした地元海賊が戦闘では有利となったのだ。
海賊による大陸への襲撃も同じことが言えるのだが、そもそも略奪を主とする海賊たちは正規軍との交戦は回避すればよいので、行動面の制約は少なかった。このため海軍の増強にもかかわらず、ストラディウムの制海権は完全なものではなかった。
また南西諸島の海軍力を強化する場合、外洋を帆走可能な大型軍船を本国から派遣しなければならなかった。しかしこれらの軍船は機動性に欠け、小型快速の海賊船を追撃するのは困難であった。
このためリンデディウム港に本格的な造船所が建設されるまで、南西諸島の海上交通はリスクが大きかった。現地で進水した快速軍船が各地の哨戒基地に配備されることで、ストラディウムの制海権はようやく安定する。しかし広大で未探査海域の多い南西諸島を完全に制圧することは不可能であり、海賊の脅威が去ることは無かった。
海賊船
大陸南岸や南西諸島で最大の脅威となったのが、ヒュノーやエーンの海賊である。
海賊は奴隷を漕ぎ手とする、喫水の浅い快速船を用いた。これらの船は驚くほど簡素な構造で、大半の船には甲板すら無かった。しかし帆走でも漕走でも軽快な運動性を発揮し、南西諸島のアジトでも容易に建造できた。
ヒュノーの鬼族を含む海賊たちは優秀な航海者だった。彼らはストラディウムの知らない秘密の潮流を熟知し、ヒュノーやエーンから南西諸島に進出すると孤島に基地を設けた。彼らは頻繁に商船や植民地を略奪したが、ごく僅かな拠点を除き島々を征服することは無かった。
海賊船は小型であるため、海賊たちは積荷もろとも商船を捕獲した。彼等は船員を皆殺しにして乗客を縛り上げると、捕獲した船を基地まで回航する。そこから正体を隠し、偽造許可証を持つ密貿易船に積荷を載せかえ、捕虜は奴隷農場に送り込む。また沿岸部を略奪する際には、十数隻の艦隊を組んだ。
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