〔上野の森美術館大賞展〕1992.4.24


 様々な分野の絵画作品。しかも、現代日本を代表する作品が、一堂に並んでいた。全体に言えることは、題材が、心象風景や再構成された現実であるということ。事物そのものを描くのではなく、それを形や色彩を再構成して、非現実的なものとする。そのようにすることで、かえって現実の持つある性格を協調しようとしているのであろう。作者の主張が、前面に出てくるのが、今の絵なのであろうか。

 印象に残っている絵は、賞に入った作品ではないが、「星のしずく」という作品。

 空から、シャワーのように水の飛沫が降ってくる。それを女性がエプロンで受け止めると、しずくが、色とりどりの水玉となって、エプロンの中で弾けている。そういう題材の絵である。印象に残った理由は、その題材のおもしろさと、直前に聞いた、中国古代の編鐘のキラキラした音とが、一つのイメージに溶け合ったせいであろうか。

 月館さんの作品が入賞している。題は「明日に向かって」。昨年の県美術展やTAMAうるおい美術展に入選した作品と、同じテーマの絵である。

 3つの絵を比べてみると、描いた順番は不明だが、だんだんと人物が大きく描かれ、前面に出てきている。そして、その目が大きく見開かれ、遠く彼方をしっかりと見つめているようになっている。さらに、絵全体に、描かれている斜光線の効果が、一層はっきりし、絵全体がまるで、虹に包まれているかのように見えること。こうした違いが見てとれる。(県美術展→TAMAうるおい美術展→上野の森美術館大賞展の順で描かれたと仮定する)さらに、今回同時に展示されている他の人の作品と比べてみて気付いたことがある。それは、画面に新聞など、無機質の物を貼る技法や、線を複雑に交差させ、一つの物体であっても、線で囲まれた面毎に違った色で塗り分ける技法。月館さんの作品を見ていておもしろく感じた技法が、現代一般的に行われているものであることがよく分かった。そしてそれは、油絵や水彩、版画や日本画という分野を越えて使われている技法であるという点に、現代の絵画の新しい世界を感じた。

 それにしても、画家が一つのテーマを追求して、絵の構成を少しずつ変化させながら、何度も書き直していく様が、月館さんの一連の作品を見て、よくわかった次第である。


美術批評topへ HPTOPへ