〔歌麿芸術の再発見〕95.4.22


 江戸時代後期の浮世絵画家、喜多川歌麿の作品を、代表作である美人画に限らず、できるだけ広く集めてみたという作品展。彼が美人画を書き始める以前の作品というのは、あまり伝わっていないという。唯一多くの作品が見られるのは「狂歌本」の挿絵の分野であるという。

 ここでは、「美人画」に限られない、いろいろな分野の作品が見られる。特に興味深かったのは、歌麿の静物画である。虫や花・草木、貝などを描いた作品。本の挿絵ではあるものの、繊細な筆使いで、きちっと正確なデッサンで、細密にしあげられている。先日みた、シーボルトの植物画にもよく似た、精密な絵である。時代は50年程前のものではあるのだが。

 もう一つ興味深かったのは、彼の代表作である「美人画の大首絵」についてである。他の美人画と較べてみると一目瞭然だが、「大首絵」は、かなり変形されて描かれているということだ。特に「首が長く」表現され、「顔や頭が体に較べて大きく描かれて」いるのである。良く見ると、首の長さや体に較べて大きな頭など、一種異様な感じである。大首絵ではない美人画では、女性はあくまでも美しく、理想的な美人として描かれている。しかし、大首絵では、むしろ、醜い所が誇張されて表現されてさえいる。表情といい仕種といい、そうなのである。この違いはいったいなんなのか。普通の美人画が女性の外面、姿形のみを描いたとすれば、「大首絵」では、女性の内面が描かれていると言ったら言い過ぎであろうか。

 これはあの東州斎写楽の役者大首絵の持っていた特徴そのものである。


美術批評topへ HPTOPへ