〔上野の森美術館大賞展〕95.5.4


 13回めの大賞展。

 見ていて、暗澹たる思いである。絵に安らぎとか潤いといったものがない。見ていて疲れるのである。出品された多くの作品のテーマは全体的に暗い。抽象および象徴画の横行。それでいて見るものにはっとさせ、迫ってくる力もないのである。

 例えば大賞をとった「振り返ればピカソ」という作品。ピカソばりの作品が描かれ、よく見ると絵の中にピカソの肖像がある。絵を書いた鏡を見ていると、見ている者の後ろにピカソがいるかのような作品。ただそれだけ。おそらく画家が何を描き何を主張したいのかをしっかり把握できていないからだろう。

 それは具象画でも同じである。ただそこに絵があるという感じ。

 どうしてこんな作品が入賞するのだろうか。見る者の心に食い入る主張のない作品を、ただ技巧的に優れているだけの作品を。審査する方もおかしい。

 一つだけ心に残った作品があった。「旅人」と題する作品。半ば崩れ落ちた仏塔にむかって歩む一人の旅人の後ろ姿。おそらく漆喰に絵具を染み込ませたもの。立体感・存在感にあふれる。題材の自身の持つ力─滅びゆくものの美。人智を越えた力。そんなものを感じさせる絵であった。

 三村伸絵さんの作品が入選。「野遊一季」という題。いったい何を描きたかったのだろうか。花─野草が画面に乱舞している。日本画としては美しいが、ただそれだけ。見る者の心にさざなみすら起こさない。


美術批評topへ HPTOPへ