〔パウル・クレー展〕95.8.4
数年前に行われたクレー展が、彼の初期から最盛期にかけての美術館所蔵作品を中心に構成されたのと違い、今回はその最盛期以後の作品を、作者が個人的に所蔵していた作品を中心にしたという構成の違いがある。
したがってこれは、1930年代後半以後の作品群が中心となり、しかも小品が大部部を占めている。
会場での紹介の看板はでは「クレーの芸術がもっとも冴えわたった時期の創造と変容が見られる」とあったが、これは看板倒れ。20年代以前からの伝統を引く美しい作品群はここにはなく、主たる作品は20年代以後、とりわけナティスの圧迫を受けて以後の抽象的作品が中心となっていて、その変容の様をしっかりとうけとめる事はできない。
展示された作品の大部分は、ミロの後期の作品と同様な、ほとんど記号化された作品である。それ以前の作品がないため、画面に描かれた記号の意味を受け止めるヒントが全くない。抽象絵画といっても、20世紀後半期の幾何図形や平面構成でもなく、その主たるものは、意味のわからない含意記号のオンパレード。
彼の絵画作品の変化を系統的に見られる展示になっていない中では、含意記号に込められた作家の気持ちはほとんど伝わってこない。「見るものの心で受け止めろ」というのだろうが、いったいこれのどこが良いのかといいたくなる。
1930年代の後半にしてすでに絵画は極限にまで抽象化され、作家の個人的な心の中のほとんど私的な世界の産物となりはてたようである。戦後の世界の共通した価値観の崩壊の構図をすでに先取りしていたかのようにも思えるのである。