〔ピカソ・愛と苦悩ー「ゲルニカ」への道〕96.1.3
「ゲルニカ」を中心として、そこにいかにして画家の生涯が収斂しているかを読み取らせることを意図した展示。
一番おもしろかったのは、映画「ゲルニカを解読」。この絵は、それを描いた同期が主に語られてきたが、絵それ自身が意味する所はあまり注目されてこなかった。この映画の製作者は、ピカソが影響を受けた様々な絵画との比較研究により、ゲルニカの絵の構成とその意味を解読した。
この絵は、中世の宗教画の影響を受けているというのがその解釈。ゲルニカの絵に隠された意味は、「キリストの磔」であり、人類の救済であるというもの。すなわち、中央の歯を剥き出しにした馬は十字架に架かったキリストを表し、その上の電灯の光はキリストのイバラの冠を表している。そして右端のランプを持った女は、福音書作者のヨハネ。さらに左端の死んだ子を抱いて泣く女は、ピエター「聖母マリア」を表す。そして画面右の逃げ惑う女は逃げる羊。すべて中世の宗教画と同じ構成になっているという。
つまり、ゲルニカに表現されているのは、戦争の残虐さの告発や戦争を前にした無力感、そしてそらえへの怒りであると同時に、「救い」を求めているという理解である。ピカソのファシズムに対する姿勢が、深い人間への共感に基づいたものである事を考えあわせると、極めて的を射た解釈といえる。
この観点で、見て行くと、画面手前の首を切り取られた兵士の剣を持つ手に添えられた一輪の花は何を意味しているのであろうか。この花は、ゲルニカの元になった宗教画には見られないものである。
ピカソの絵は、性・暴力・欲望に彩られた彼の人生そのままのものであるが、彼が晩年になって何に救いを求めたのか考えさせられた展示であった。