〔浮世絵に見る雨の風情展─広重を中心に〕1992.6.7
太田記念美術館の所蔵作品による企画展。広重の作品が約40点。その他に、北斎などの作家の作品が約30点。全て雨の情景を描いたものである。
雨の情景といっても、おおむね3種類あるだろうか。一つは、雨模様を描いた風景画。二つめは、人物画に背景として雨を入れ、雨に出会った事で、普段とは違った表情を見せた所を描いたもの。三つめは、雨に出会った人物群像を点景とした風景画である。
しかし、改めて見ると、随分と雨の絵が多いものである。今まで、多くの絵画展を見てきたが、とりわけヨーロッパの絵画には、雨の絵は、ほとんどなかったように思える。(広重の名所江戸百景では、100点中に、雨を描いたものは、4点。その他傘をさしている人物を描いたものが10点ほどある)日本画の展覧会でも、雨を描いたものは、時々見られる。
ではなぜ日本の絵には、雨を描いたものが多いのだろうか。
第一に技法の問題。日本画・浮世絵は、線が命である。しかし、ヨーロッパの絵画は、絵具の塗り重ねによる立体的描写が命である。線を中心とした日本の絵の技法の方が、雨を描きやすいのは当然である。
第二に雨は日本の生活には不可分なものであること。ヨーロッパとちがい、一年中雨がふっている。日本の風物を描けば、雨はかかせない。
第三に雨を絵に入れることの効果。例えば何の変哲のない風景であっても、そこに雨に出会った人々の動きを点景として入れると、絵に動きが出てくる。人物画でも、人の表情や仕種に変化が生じ、絵の趣が変わる。
浮世絵の画家たちは、主として、三の理由で多くの雨の風情を絵にしたと思われる。