〔博物館・明治村〕     1992.6.14


 愛知県犬山市にある、明治時代の建物を集めた、歴史博物館。江戸時代の潅漑用水池の入鹿池のまわりに、65の建物が点在する。全体をまわってみて気がついたことは、明治の建物には、人間の温もりがあるということだ。木造のものあり、石造のものあり、一般住宅あり、病院あり、ホテルあり、教会から風呂屋、さらに劇場まである。さらには、学校や巡査の派出所、そして監獄まである。この様々な建物全てに、人間の温もりが感じられるのである。手づくりであるからであろうし、木が主体であるせいもあろう。石づくりのたてものでも、内装は全て木である。木の温もり、自然につつまれた安心感。建物の材料からくる温もりである。

 しかし、建物の設計にも、人間の温もりがある。帝国ホテルの中央玄関。美しく壮麗な石造りの建物なのだが、最近のコンクリート製の建物とは違う。要するに、無駄が多いのだ。様々な装飾がほどこされ、しかもそこには、石だけではなく煉瓦がはめこまれている。装飾が多いといえば、郵便局でもそうだ。いや、もっと無味乾燥であるはずの監獄の建物にさえ、その中央監視所には、壮麗な装飾が施されている。圧巻なのは、教会堂である。特に、聖ザビエル天主堂のステンドグラスの美しさは、息をのむほどである。

 対照的なのは床屋や銭湯。昔風の簡素なつくり。装飾などは一切ない。でも、生活の臭いというか、木の地肌の臭いというか、暖かいものを感じるのである。

 同じことを、村内を走っている蒸気機関車や市電、そして昔の自動車を模してつくられた電気自動車にも感じるのである。最近の新幹線や車のような、無機質的な美しさではない、少々ごてごてとした人間臭さが感じられるところが明治なのかもしれない。


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