〔日本洋画再考展〕    1992.8.4


 1990年からはじまった企画展。今回の作品は、今活躍中の60名あまりの洋画家の新作を中心に構成し、そこに5名の代表的な日本画家の作品を併せて展示したもの。

 作品を見ていて気がついた事がいくつかある。

 その1。日本画と洋画の境目がほとんどなくなってきていること。それも一方的ではなく双方向であることだ。現代日本画は極めて洋画化している。それは題材の取り方だけではなく、絵具を積み重ねて描く描き方として、きわめて油絵に近くなっている事は、以前から知っていた。今回の展示で気がついたのは、洋画家の中には、意識的に日本画的な表現を取り入れている人が、かなりいるということだ。まず、題材が日本画的である。日本の風物、人物を日本画的な、一定の型にはめた、類型的な描き方をしている。さらに、色の使い方がべた塗りであること。そして、金粉や銀粉を散らすなど、日本画の技法を取り入れていることである。

 日本画が洋画に近づいているわけは、一つは写実的に事物をとらえようとし、さらに事物の質感を立体的に表現しようとした結果として、洋画、特に油絵に近くなったこととおもう。その分だけ、従来の日本画の文人画的傾向にあった、一筆でさらっと描くことで表現された、物の動きが、表現できなくなっていると思う。

 洋画家が日本画の技法を取り入れたり、日本画的な題材を取りあげているのは、現代の絵画一般の行き詰まりに原因があるのではないだろうか。具象的表現、抽象的表現の違いを越えて、何を描き、何を人に訴えようとするのかという点を巡って、現代の絵画には、行き詰まりがあるように思う。それは、現代の洋画に著しい。そこから、一部の画家の中に、日本的なものへの傾斜として、日本画への接近が試みられているように思う。

 しかし、この方向はあまり感心させられる作品がなかった。作品が極めて装飾的なのである。洋画としては、「新鮮な」のかもしれないが、訴えるものはない。従来の日本画と同じなのだから。むしろこの方向よりは、技法・又は題材の取り上げ方に、新しい興味深いものを見た。事物の心象風景的な取り上げ方は、見る物に迫ってきたり、心の中にスット入り込んでくるような作品を生み出している。

 もう一つは、点描画。無数の色の点の集合として描く。それも筆ではなく、何か先の丸いもので、版画のようにして描く方法。見る者の目の中で合成されて、初めて一つの絵になってくる。絵が活版印刷の方向を向いている所が面白い。

 もう一つは、西洋中世の宗教画のような形式化・装飾化された描き方を使用しながら、題材の取り上げ方は、心象風景的という方向。描き方は具象的でありながら、絵は抽象的というこの方向が、とても新鮮で、訴えるものがあったように思える。

 もっともこの方向は、日本画の中の若い世代にも共通した方向ではある。むしろこの傾向の中に、新しい絵画の向かう方向があるのかもしれない。


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