〔中国木版画展〕 1992.9.15


 県立近代美術館別館に展示された中国の木版画。1931年から47年までの作品。

 中国革命が挫折し、日本の侵略に対する新たな闘いが始まる中で、魯迅によってはじめられた木版画運動。そしてそれを指導した、一日本人画家の存在。その日本人画家、内山嘉吉氏が、戦火の中をかいくぐって日本にもちかえった版画が、ここに展示されているものである。

 まず、目を引くのが、その表現の力強さである。黒い太い描線。大胆な陰影の取り方。見ているものを、ぐいっと引き込む力が、画面一杯に漲っている。

 そして、その力強い表現で描かれているのが、抗日運動に決起していく、闘う中国の民衆の姿であることも、見るものを引きつける理由である。

木版画は、大胆な力強い表現が可能である。しかし、それも、何を表現するかである。この、中国の作品群には、生きた闘いの思想が溢れている。

 でも、それだけではない。

 数は少ないが、中国民衆の日常生活を描いた作品もあり、とても素晴らしい作品が多い。戦火の中で、一組の夫婦が農作業の合間に地面に体を横たえて休む風景。貧しい母親が、我が子を膝に抱き、物思いに耽る様など。とてもほのぼのとした、美しい絵である。

 閉館まであまり時間がなくてゆっくりできなかったが、もう一度じっくり見てみたい作品ばかりであった。


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