〔国立博物館─考古館─〕 1992.12.23


 国立博物館の考古館を、久し振りに見学した。3時間程かけて、じっくり見ることができたが、新鮮な印象をいくつも持った。

 もっとも印象的であったのは、古墳から発掘された、金・銀・金銅製品の数々であった。後にみる東洋館の朝鮮の金製品に比べると、どれも、著しく見劣りするものばかりで、此の点で、どちらが、東アジアで、上位の地位を占めていたのかが、くっきりと明らかになっている。

 その中で、遺品が少なく全貌が明らかではないのだが、福岡県の宮地獄古墳の出土品には、ビックリした。

 金銅製の鞍金具が展示されていたが、奈良県の斑鳩で発見された藤の木古墳のそれよりも、さらに豪華であり、まさに、王陵級の古墳であることが明確である。この古墳は九州王朝の盟主の墓と想定されており、遺品の中には、かなりの数の金製品があったのではないかと想像される。

 もうひとつ印象的であったのは、展示のしかたである。

 かなり一級の品物が展示されてはいるが、日本全国を比較するという観点がまったくないことに驚かされた。展示品が一個の物としてしか捉えられておらず、その品物を作った地域・文化を総合的にとらえる視点がない。だから、展示品によって、古代日本の各地の文化相の違い、ひいては文化圏・政治の違いまで見てとることができなくなっている。

 先程の古墳からの金・銀・金銅製品についていえば、金製の冠を出土した古墳は皆無であり、銀冠は幾つかある。金銅冠が大部分であるが、その全国分布を示すだけで、古代国家相互の政治的序列や繋がりがわかるというものである。

 国立博物館の展示理念が、古い物主義の範疇に止まっていることは、とても残念だ。


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