〔肉筆画浮世絵展〕 1993.5.2


 東京国立博物館の特別展示。博物館所蔵の浮世絵の中から、代表的な肉筆画を、初期のものから後期のものまで、一堂に展示してある。歌川広重のものを除いて、全て美人画である。

 しかし、美人画とはなんと類型化された絵であろうか。姿かたち、目鼻立ちといい、その時代その時代の美人の典型のようなものがあって、そこに揃えて描かれているので、モデルが違っても、全部同じに見えるから不思議である。

 美人画とはそういうものかもしれない。その時代の男性の理想とする女性美を体現する肉体。そこには、その女性の個性など、どうでもよいのかもしれない。

 版画ではなく肉筆画であるので、画家の筆遣いがよく見える。より微細な所まで、ていねいに描かれていることがわかる。だからこそ逆に、類型的にも見える。

 唯一、型を破った作品があった。春川○○の「湯あがりの女(?)」。

 細長い画面一杯にはみださんばかりに、豊かな肢体の美女が描かれている。湯上がりの火照った体に浴衣をかけただけのなので、美しい肉体がはちきれんばかり。しかも、その姿勢や表情がとてもののびやかで動きがあり、美人画の型にはまったものとは、かなり違っている。この画家の画家としての力量の高さを示していると思う。

 歌川広重の肉筆画は、やはり広重らしく風景スケッチだけだというからさすがである。富士を描いた作品。墨絵のような味のある作品であり、浮世絵のような、かなり意図的に変形された構図ではない、とても素直な美しい絵である。広重の画家としての器量の大きさを示す作品ではないだろうか。


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