〔ルネ・ラリック展〕   1993.8


 ガラス工芸の巨匠として名高いルネ・ラリックの、1910〜30年代の作品が展示されていた。

 今から約80〜60年も前の作品なのだが、そのデザインはとても斬新で、今でも充分通用するものが多い。この人のガラス工芸作品のデザインには、いくつかの特徴があるようだ。

 その一つは、古代ギリシアの彫刻のように裸体の男女の群像をモチーフとしている作品が多いこと。しかも、ギリシャのような大理石ではなく、ガラスを素材としている所に違った趣がある。ガラスは光を通す。そのことによって、大理石よりも、人体の肌の色がより艶めかしく美しいのである。

 また、一体だけ製作する彫刻とちがって、型を使って大量生産するガラス作品ゆえに、モチーフも若干簡略化され、大掴みに彫刻されている。その事によって、かえって、のみで彫ったのとは違ったやわらかみが、彫像にあふれており、とても美しい。

 ラリックの作品のモチーフの今一つの型は自然界の動植物の形を図案化したものだ。これが、かなり面白い。しかも、様々な色ガラスを使用することで、彫刻とはちがった、モダンな雰囲気が醸し出されている。だが、この傾向の作品は、今の目から見ると、少々グロテスクですらある。動植物の形をただそのままモチーフとして刻むと、ものによっては美しさに欠けてしまうからである。もっと図案的に簡略化すればすばらしいのに、と思えるものが多かった。

 この図案としての簡略化という面からみると、カーマスコットとしてつくられた作品に見るべきものが多かったように思う。「勝利の女神」をはじめ、デザイン的に美しさと簡素さを備えた素晴らしいものがある。やはり自動車という現代工業文明の粋を集めたものの一部として作られた所が、貴族や金持の書斎や応接間を飾る装飾品とは違った、機能的な美しさを、そのガラス作品に付与したのに違いない。

 やはり芸術作品というものも、それを享受する人々の文化というか思想というものを色濃く反映するものだということを、いたく痛感した次第である。


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