〔第12回上野の森美術館大賞展〕1994.5.1
月館さんの作品が入賞した。
今回の作品は、「雪の降る夜は・・」という題のもの。今までの作品とは少し違っている。
夜10時過ぎの遅い食卓。テーブルの上には料理とワインが並んでいる。しかし、料理には全く手はつけられていない。料理を前にした若い二人は、恋人だろうか、それとも夫婦。楽しいはずの食卓では、会話はほとんど続かず、気まずい空気が流れ、二人は、あらぬ方を見ながら、自分のグラスのワインを飲むだけ・・・・。窓の外は、雪がうっすらと降りつもった町並を、月が明るくてらしている。あちこちの窓からもれる明かりは、オレンジ色で暖かい。クリスマスイブの一家団欒の楽しい食事が、あちこちの窓の中で行われている。
画面手前の若い二人は何を象徴しているのだろうか。
外から見ると幸せそうなクリスマスイブ。でも、一歩家庭の中に入れば・・・。結婚とは、このようにも心のすれちがいの連続なのだろうか・・・。楽しそうな明かりのもれる窓辺にも、きっといくつもの不幸せな家庭があることだろうか・・・・。
こんな思いを見る者に連想させる絵である。
それでは、この若い二人の手前の、エプロンをつけて、自分のグラスに並々とワインを注いでいる若い女性は何を象徴しているのだろうか。
若い二人のドロンとした死んだような目と異なり、この女性の目は、しっかりと見開かれ、キッと前方を見据えている。まるで、実態としての幸福感のない結婚生活を横目に見すえて、「私は一人で生きていくぞ!」とでも決意を固めているかのようだ。
酒を自分で注ぐという行為が、その事を象徴しているかのようであるが、あるいは、結婚生活というものへの一抹の不安と憧れを抱えた、現代の女性を象徴しているかもしれないのである。
今までの主題とは違ってはいるが、人物群像を描いて、そこに、現代人の心のありようを描くという点においては、月館さんの今回の作品も、今までの連続性の上に成り立っていることがわかる。
約1時間ほどかけて、入賞した作品をゆっくり見た。しかし、どうしてこうも暗いイメージの作品が、上位に入るのだろうか。
大賞の「虜1」。
全体は大きな岩のよう。しかし、その岩は人間の顔をしている。その顔の下の方に、小さく、人間社会の諸場面が、まるで、岩にはめこまれた絵のように描かれている。この絵はいったい何を象徴しているのだろうか。
特別優秀賞の「2094の青空」。
美しい青い空に、たくさんの物が浮遊している。、よく見るとそれは、ゴミ・ガラクタとでもいったらよいものばかりである。環境破壊が進んでいる現在、100年後の世界はいったいどうなっているのかという不安を表現しているのだろうか。
賞をもらった作品よりも、その他の作品の中に、美しく、人の心を動かす作品がいくつかあったように思う。